前回の記事

の続き。

 

 

ペースメーカーが最後まで引っ張ったことに対して(元)偉い人が異議を唱えているという話。曰く

高橋の記録はPMの力を借りたもので問題だと思い、廃止させるため会議を開いた。メンバーたちは『すでにPMは起用されているから今更ダメとはいえない。ただし、違うゼッケンをつけさせ30キロまでにしよう』と決めた。世界陸連も了承した経緯がある」さらに帖佐氏はつづける。「マラソンで最も苦しいのは30キロを過ぎてからだ。そこからゴール直前まで男子のPMに引っ張ってもらい、『人の手を借りていません』と、なぜ言えるのか。大会主催者に名を連ねている陸連が自ら規則を破ってどうするのか。昨年も今年の記録も、ゴール直前までPMが先導したからだということは、誰が見てもわかることだ。そこまでして記録を出したいというなら・・・

この主張に関する議論は「マラソンとは何を競い合うものなのか?」という根本的な問題を考えることになるのだが,本記事ではそれは置いておいて「ペースメーカーを排除できるか」という観点から考えてみる。

 

先に結論を書くと私としては

ペースメーカーを排除するのは困難と考える。その結果として主催者が(優秀な)ペースメーカーを用意するのが最善であると考える。

 

まず,大前提だが

ペースメーカーがいた方がよいタイムを出しやすい。

したがって(罰則等のリスクがなくてコストの問題も解決できるなら)個々の選手にはペースメーカーを用意したいモチベーションは十分にある。

 

次に

個人的に雇われたペースメーカーを摘発するのが非常に難しい。

あるエリート選手が個人的にペースメーカーを雇ったとしてそれを証明するのは非常に難しいだろう。金銭的なやりとりがあれば契約書やお金の動きの証拠を押さえられる可能性はなくはないだろうが(それでも難しいと思う),個人的な関係性に基づいてアシストした場合に不正行為だと証明することができるだろうか。(そもそも不正行為なのだろうか)

 

つまり

有力な(いろいろな意味で競技外での力をもった)選手がペースメーカー用意することを防ぐのが難しい。

ということになると思う。しかも個人的に雇われたペースメーカーだとそれを知らない競技者にとってはペースメーカーにならない。想像することはできるがそれを信じてついていくのは少なくとも精神的な負担は大きいだろう。

 

このように不正(ステルスペースメーカー)の排除が難しいとなったときの対応策の方向性として不正の価値をなくすがある。その具体的な方法が公認の(優秀な)ペースメーカーを用意することだと思う。事前の公表通りハイペース(出場者のトップレベルに合わせたペース)で走るペースメーカーがいれば,各選手が自前のペースメーカーを用意する理由がなくなるし,全員が知っているという意味で公平である。

 

以上のように,公認ペースメーカーは興行的にハイペースにしたいという思惑と同時にステルスペースメーカーを排除するという目的もあるとは思う。

 

 

以下余談だが・・・

マラソンが選手同士の相互作用がレース展開や結果を大きく左右する性質の競技である以上,相互作用自体をみとめつつ特定の相互作用を排除するのは非常に難しい。興行としてはその相互作用を楽しむ一面もある。

 

非現実的だが,相互作用を排除する方法として「時差スタート」というやり方を理屈上考えることはできる。「エリート選手は3分とか5分おきにスタートし,各選手は5m以上離れて走らなければならない」などとすれば基本的に一人で走ることになるので「最も苦しい30キロを過ぎてから」の力を純粋に競うことができる。(実際にスキーのクロスカントリーや自転車競技ではこのような方法をとる種目がある)

しかし,おそらくこのような競技は我々の多くがマラソンに求めるものとは大きくかけ離れているだろう。