老母が、私の部屋にやってきて、眼科に行くから5000円貸して、という。
母は緑内障で眼科にかかっている。
それ以外の病院にはどこにもかかっていない。
母曰く、どこも悪いところはないから病院へ行く理由がない。
ということらしい。
確かに体力の体力の衰えはあるものの、一見健康だ。
しかし、83歳でどこにも悪いところがないとは、思うわけもない。検査も何もしないから、分からないだけだと思う。
自覚症状のない病というのはたくさんあるしね。
血液検査くらいしてくれというのだけど、頑として拒む。
まあ、83歳まで入院はお産だけというのが自慢だし、ぽっくり死んでも悔いのないだけの人生を送ってきた人だ。
のこりの人生も好きに生きるがいい。私の限界までは介護してやるから。
ただ、認知症に片足突っ込んでるだろうなとは思うが。
早々に眼科に連れに行かなければならない頃だとは、思っていた。
もう目薬がない、そもそもつけるのを忘れるから意味があんまりないのだが。
毎日、目薬さした?と聞くが、私だって聞くのを忘れる日もあるし。
母は基本的に病院が嫌いだから困る。連れていくタイミングも上手く運ばないとヒステリーを起こすから。
その母が急に眼科に行くと言い出したのは、どうやら私の嫌いな叔母が、目薬をつけないと目がつぶれるとぎゃんぎゃん電話で言ったらしい。
母は叔母のぎゃんぎゃんいうのに弱い。
叔母は嫌いだが、助かった。それは礼を言う。
話が思い切りそれた。
話はここからが本題。
母は自分の年金が8万円しかない。父の現役時代にちゃんと年金を支払らってなかったのだ。
(私の障害年金より低い)
で、老母はATMの使い方も怪しいから、母の年金は私がおろしに行っているのだが、我が家の住んでいるところのATMはめっちゃ遠い。
ほいほいといける距離に無い。
コンビニを利用すればというが、コンビニだって遠いし、コンビニのATMの手数料は無駄金としか思えない。これは単に私がせこいからだと思うが。
ゆえに母は手元に金がないことが多い。
で、私がやりくりして貯めたタンス預金から、借金することになるわけで。
母はすでに5万円の借金がある。
今回のでプラス5000円だ。
「借金5万5千円になるからね」
母は何それという顔をした。叔母にあげるために借金したことを忘れているのだ。
そのことを言うと、あれは3万は叔母、2万は従弟にやったのだという。
実は母にはもう一人妹がいる。三姉妹なのだ。81歳の未亡人で、子供が一人いる。
それが私の従弟だが、実は不治の病に侵されていて、もう長くはないと思われる。
母にとっては、唯一の甥である。
この甥にとっても唯一、心を開いている親戚が母らしい。
私だって可哀想だとは思う。まだ50歳で、子供のころからずっと病と闘ってきた従弟だ。働くこともできず、結婚もできなかった。
今は言葉を話すこともできない。
私だって何かできることがあるなら、何かしてやりたいとは思う。
母は、そんな従弟と従弟の母である叔母とともに従弟の面倒を見ている私の嫌いな叔母にあげたお金なのだから、チャラにしてほしいようなことを言いだしたのだ。
(私の嫌いな叔母は今月、同級生たちと温泉へ行くらしいのに!)
だが、冷たいと思われようが私はチャラにはしない。なんど老母がブチ切れようがそれだけは譲らない。
世は物価どんどん上がっているのは、みなが身にしみていることだ。
下がる気配は一向に見せないこのご時世で、可哀想だけど、そんにほいほい金を使われたら、我が家のほうが可哀そうになるのは目に見える。
私がコツコツ貯めたタンス預金も、父の入院、手術、その他もろもろでほとんど使った。これはそういうときのためにとコツコツ貯めたお金なんであるからそれはいい。
それに加えて叔母が遊びに来て、それにもお金がかかった。
幸い、父の数少ない取柄は年金がやや高めだから、今のところ何とかやっていけてはいるが。
母よ、頼むから自分の年金の範囲内で金をばらまいてくれ。それはあなたのものだから好きにして構わない。
だが金というのは有限なんだ。
だから冷たいといわれようとも借金は返してもらう。
母よ、あなたもいつ倒れるかわからんのだよ?
といったところでだが・・・。
「あんたに家計を任せるのではなかった!」
とブチ切れて母は部屋から出て行った。
ちなみに我が家の家訓は「借金を作らぬこと」である。
我が家にぼろ屋と狭い土地以外財産はない。両親が死んだあと私に残される金もない。
私の老後は生活保護一択だ。