新見公立大(新見市西方)の原田信之教授(伝承文学)が、中世の

 

後醍醐天皇や金商人・金売吉次らにまつわる市内の言い伝えをまと

 

めた新著「岡山県新見の伝説」を出版しました。高齢者への聞き取

 

りや文献、現地調査など約30年に及ぶ研究の集大成といえる一冊。

 

「古くから栄えた新見には数多くの魅力的な伝説があることを知っ

 

てほしい」と話します。

(この記事は6月11日の【山陽新聞備中面】からのご紹介記事です)

 

後醍醐天皇は、鎌倉幕府打倒に失敗して1332年に隠岐へ配流される

 

際に新見を通ったといい、本書では大佐,千屋、唐松地区に残る複

 

数の伝承を紹介。大佐地区の地名・大井野は「天皇が居た野原」が

 

由来だとする説をはじめ、千屋地区には天皇が腰を下ろしたと伝わ

 

る巨石「休石」が祭られていることを記しています。

 

唐松地区では、神社に立ち寄った後醍醐天皇の護衛のために男衆が

 

集まり、女性らは家にこもったのが始まりとされる「かいごもり(

 

皆籠)祭」(市重要無形民俗文化財)を取り上げました。

 

鎌倉幕府を開いた源頼朝の弟・義経を奥州藤原氏の元に連れて行った

 

商人として知られ、「源平盛衰記」などに登場する金売吉次に関して

 

は、「伝説的な人物」としつつ、哲西町八鳥地区が生誕地、足立地区

 

が終焉の地と語り継がれていると説明。八鳥地区には頼朝の御家人が

 

築いたという西山城があるほか、砂鉄が多く採取され、たたら製鉄が

 

盛んだったことなどが伝説の成立に影響したと考察しています。

 

このほか、奈良・平安時代の高僧‣玄賓僧都(げんぴんそうず)、人

 

柱に関する口承にもページを割きました。

 

原田教授は「言い伝えは地域を理解するために必要な史料。荒唐無稽

 

に思えても文献などと照らし合わせれば、伝説が生まれた理由や背景

 

が読み解ける」と指摘。その上で「この30年間にも集落が消え、途絶

 

えた伝承がある。今。残しておかなければという使命感でいっぱいだ

 

った」と振り返りました。

(A5判232㌻。2640円、3月に法蔵館から発刊されています。)