〈奈義町総務課 運転員〉。岡山県勝田郡奈義町で町営の路線バス

 

の運転手を務める寒川良裕さんの名刺にはこんな肩書が記されてい

 

る。町内にある陸上自衛隊日本原駐屯地の自衛官を2年前に定年退

 

職し、奈義町役場に転職した”公務員ドライバー”だ。

 

バスは町中心部から、JR姫新線が走っているお隣の勝央町の駅近く

 

まで結ぶ幹線道(全長24㌔)を1日3往復する。寒川さんを含む6人

 

の公務員ドライバーが交代でハンドルを握り、町民の足を支えてい

 

る。

(この記事は5月3日の【山陽新聞・社会面】からの紹介記事です)

 

公営バスは県内17市町村で運行しているが、運転業務は地元の交通

 

事業者に委託するケースがほとんど。運転手を直接雇用しているの

 

は、地元に委託できる事業者がない奈義町などごく一部に限られてい

 

る。

 

奈義町が運転手を雇い始めたのは2018年4月から。赤字続きで廃業を

 

余儀なくされた民間バスの路線を引き継いだのがきっかけだった。

 

当初はスクールバスやデマンド(予約型乗り合い)交通との掛け持ち

 

で3人のドライバーを採用したが、公営バスを毎日走らせるには人数が

 

足りなかった。都市部のバス会社でさえ人集めに苦労する中では、ホー

 

ムページで呼びかけてもほとんど応募がない。そんな”窮地”の中で目を

 

付けたのが駐屯地だった。

 

自衛官は基本的に50代半ばで定年を迎えるため、セカンドキャリアとし

 

て再就職を希望する隊員が多い。しかも職務上、大型車両を扱い慣れて

 

いるからバスやトラックの運転手にはもってこいだ。町にとっても”渡り

 

に船”で、現在はドライバー6人のうち4人までは駐屯地出身者がしめる。

 

6人の人件費はトータルで年約2千万円。民間バス会社に出していた補助

 

金(年190万円)と比べると約10倍に跳ね上がったが、地域の足を守る

 

ためには欠かせない。、高校もない。路線バスは近隣の林野高(美作市)

 

や勝間田高(勝央町)に通うための貴重な交通手段で、生徒が乗客の9割

 

を占める。

 

全国屈指の出生率を誇るなど”子育ての町”を掲げる奥正親町長は「バスが

 

なくなって通学が難しくなれば、若い子育て世代が住んでくれなくなる。

 

交通手段は何としても守り抜かねばならない」と決意を示します。

 

町内には鉄道がなく