「本当にやるんですか」十数年前。幼い息子を抱き、就農相談窓口
を訪ねた堀内由紀子さんに担当の職員が心配そうに言ったという。
赤磐市内有数の酒米栽培面積を誇る今では笑い話のようなエピソー
ドだ。
岡山市のサラリーマン家庭で生まれ育ち、短大卒業後、アパレルメー
カーや婚礼サービス会社で働いた。29歳で結婚したのを機に赤磐市山
口に移住。建設業を営む義父に勧められるまま「深い考えもなく」就
農を決意し、2010年、33歳でコメ農家としてスタートをきった。
(この記事は5月2日の【山陽新聞・地方経済面】からの記事でした。)
力仕事の多い農業の中でも、トラクターやコンバインなど大型農機を操
作する稲作は男性が作業の中心になるケースが多い。「窓口では『せめ
て果樹にしたら』と言われたけど、知識が全くなく、周りは水田ばかり
なんだからコメを作るしかないって思いこんでいました」と笑う。
就農した赤磐市赤坂地区は、岡山県発祥の酒米・雄町の栽培が盛ん。丈
が高く倒れやすいことなどで生産量が一時激減し「幻の酒米」と呼ばれ
た雄町を復活させ、中核産地としての地位を確立していた。堀内さんも
周囲にならい酒米を選んだ。
あぜの草を刈り、ため池の水を引き込み、慣れない大型農機を操る日々
は想像以上の大変さだった。さらに義父の会社が破綻し、夫婦関係もう
まくいかなくなり14年に離婚。堀内さんの手元には2人の息子と借地を
含め約20㌶の農地が残った。
「前に進むしかない」。それまでは「どちらかといえば受け身だった」と
いう堀内さんの”反転攻勢”が始まる.15年、安全性や環境に配慮した農産
物の国際的な生産管理基準「グローバルGAP」を取得し,18年に農業法人・
穂々笑(ほほえみ)ファーム(赤磐市山口)を設立。地域の協力を得て、
点在していた農地の集約を進め、19年には赤坂特産雄町米研究会〈19戸)
の副会長に就いた。
雄町米研究会長で、県酒造好適米協議会の会長も務める藤原一章さんは堀
内さんのバイタリティーに感服し、「彼女なくして、もはや地域は立ち行
かない。研究会にとっても中核的な存在の一人」と頼りにしています。