牛舎に並ぶ雌の和牛。毛並みはツヤツヤと黒光りし、均整の取れた

 

立ち姿は堂々たるものだ。

 

「良いなと思う雌の子牛を市場で購入し、母牛として育て上げた。最

 

近ようやく自分なりの経営が確立してきたと感じる」。江草牧場(高

 

梁市備中町平川)の江草真一さんが笑顔を見せる。

 

隣の牛舎にはその母牛から生まれた子牛たち。生後9か月ほどまで育

 

て、肥育部門にバトンタッチするという。

(この記事は4月4日の【山陽新聞地方経済面】からの紹介記事です)

 

肉用牛の生産過程は、母牛に子牛を産ませる「繁殖」と、子牛を大き

 

く育てる「肥育」に大別される。肥育農家は通常、繁殖農家が出荷し

 

た子牛を市場で調達する。一方、江草牧場は繁殖、肥育の一貫経営に

 

取り組んでおり、肥育用の子牛の一部は自前で繁殖。肥育牛は約250

 

頭、繁殖用の母牛は約110頭といずれも岡山県内有数の規模を誇る。

 

牧場は元々、父の孝一さんが肥育に特化して1代で築き、県枝肉共進

 

会などで上位入賞の常連として名をはせてきた。質の高い和牛を育て

 

ようと日々命と向き合う父。そんな姿に真一さんは引かれ、中学に上

 

がるころには畜産農家になると決めていた。

 

2012年、中国四国酪農大学校(岡山県真庭市蒜山西茅部)に進学。た

 

だ畜産を専門的に学ぶうち「肥育だけでは採算が合わなくなるのでは」

 

という疑問にぶつかる。口蹄疫(こうていえき)の流行による母牛の減

 

少などで、子牛の価格は当時全国的に上昇基調にあり、肥育農家の経営

 

を圧迫していたからだ。繁殖は発情や分娩の兆候をキャッチするなど管

 

理が大変で、担い手不足も進んでいた。

 

「自分の手で良い子牛を作れたら面白いし、リスクヘッジになる」。そ

 

う考え、肥育で身を立てた父とは違う道を歩むことを決断。宮崎県の繁

 

殖農家などで研修を重ね、14年に就農すると同時に、江草牧場に繁殖部

 

門を立ち上げた。母牛を少しずつ増やしながら、増頭に伴う作業負担を

 

軽減するため、遠隔監視システムを導入するなど先端技術で生産性を高

 

めるスマート化も推進しています。

 

畜産業は現在、非常に厳しい環境にある。肥料価格の高止まりでコストが

 

かさむ上、物価高の影響で高価な和牛肉の消費が振るわず、枝肉相場が低

 

迷しているためです。浩一さんは「繁殖のおかげで子牛の導入コストが下

 

がり、経営の大きな助けになった。肥育だけで通していたら倒産していた

 

かも知れない」と話していました。