今、日本美術(展)界の話題をさらっている「怖い絵 展」に行ってきました。
夏に兵庫県立美術館で開催され、大盛況だったようですが、現在は東京の「上野の森美術館」でやっています。
この展覧会は、早稲田大学のドイツ文学者、中野京子先生の著書「怖い絵」の刊行10周年を記念して開かれているもので、美術館には連日長蛇の列ができているということです。
<本企画のリーフレットとチケット>
私にとっては幸運にも東京出張の機会があり、用事は午後からです。「よっしゃ!」ということで、少し前に東京へ出張した折に前売り券を買っておき、最も早く東京に着く、名古屋6時20分発の新幹線「ひかり」に乗りました。公共交通機関がようやく動き出すこの時間帯、私の家から名古屋駅へ行くには地下鉄の乗り換えも含み40分はとっておかなければなりませんので、起床は5時前です。
もちろん座席は自由席です。2号車(ひかりの場合4号車も可)1Cが私の常席です。ひかり500号は静岡まではガラーンとしていました。
<名古屋0620発「ひかり500号」2号車>
夜のとばりがまだ明けやらぬ名古屋を出発し、浜名湖付近で日の出を見ました。この日、浜松の日の出時刻は6時42分でした。富士山はこの日、豊橋からでも望むことができ、横浜を越すまで鮮明で美しい姿を見せてくれました。
<静岡県内をひた走る>
この日の旅程は:
名古屋(0620)==[ひかり500]==(0813)東京(0819)==[上野東京ライン]==(0824)上野
です。
上野駅からは一目散に美術館へ行きました。そこへはヒトビトが続々と詰め掛けていました。
<上野の森美術館>
何時に列に並んだか記録しませんでしたが、下の写真は8時45分に撮ったものです。通路のイチョウは美しく色づき、美術館入口では次回の催し物であるフェルメールの「牛乳を注ぐ女」が迎えてくれます。
<8時45分の入館待ち列>
この展覧会は大好評のため、毎日9時から20時まで開かれています。
9時からの入館は係員の誘導でさみだれ式に行われました。一度にドッと入るわけではありません。私が入館したのは9時15分で、思っていたより早く入ることができました。
この展覧会の絵は、絵そのものが怖いというより、多くはその絵の背景になっているストーリー(神話、歴史など)に怖さがあるもので、第1章から第6章に分けられていました。
いつもだと私はまず音声ガイドを借り、全体を一通り観るのですが、この展覧会では音声ガイドを借りるのにも数十分並ばなければならないと係員から聞いていたので、音声ガイドは後に回し、まずはわき目もふらず前へ進みました。
この展覧会の目玉作品で、リーフレットやチケットの図案にもなっているポーラ・ドラローシュの「レディ・ジェーン・グレイの処刑」は最終章の第6章にありました。私が行った時は周囲に人がほとんどいなくて、ゆっくりと観賞できました。
英国史の中で埋もれてしまいかねない、16歳の初代女王の運命を描いたこの作品は日本初公開で、中野先生が「これを展示できないようなら、展覧会そのものを中止したい。」と言われたそうです。
11時頃になると、混雑はしてきているのですが、入館者が会場全体に平準化され、鑑賞し易くなってきたため音声ガイドを借り、ガイドに取り入れられている作品を中心に第1章の「神話と聖書」からゆっくりと観ていきました。この時、音声ガイドを借りるのに並ぶことはありませんでした。
音声ガイドは中野先生の解説をもとに女優の吉田羊さんが担当していてわかりやすく、大変参考になりました。
第1章「神話と聖書」ではフランスの美術館所蔵の絵画が多くありました。
ギリシャ神話に登場する魔女キルケーや死を招く歌で男を食うセイレーンなどコワーイ女性がいっぱいです。オルフェウス、オイデプス・・・ 神話にまつわる怖い絵が並びます。
<ハーバート・ジェイムズ・ドレイパー「オデュッセウスとセイレーン」>(リーフレット)
第2章「悪魔、地獄、怪物」、第3章「異界と幻視」では描かれた絵そのものが怖いのですが、第4章「現実」になると、まさに現実の社会にひそむ怖さが描かれます。
"皮肉屋"ウィリアム・ホガースは貧富の差が広がったロンドンの社会を痛烈に風刺します。
「ジン横丁」に表現されたビールを買えない下層階級がジンに溺れる様子は、もしかすると現代社会にも通じるものかもしれない怖い絵だと思ってしまいます。
<ウィリアム・ホガース「ジン横丁」>(絵葉書)
印象派で近代絵画の父とも称されるポール・セザンヌの「殺人」もこの章にありました。セザンヌは若い頃、暴力的な絵、エロティックな絵を多く描いていて、そのうちのひとつです。
第5章「崇高の風景」にはギュスターヴ・モロー、エドヴァルド・ムンクなどの作品とともに私の好きな、2015年のロイヤル・アカデミー展でも観たジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの「ドルバダーン城」もありました。スノードン(ウェールズ)に建つこの城は13世紀に兄弟間の権力争いの果てに敗れた兄オワインが幽閉された場所です。
<ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー「ドルバダーン城」>(リーフレット)
この展覧会会場にはレストランの前に「写真コーナー」がありました。「私のお酒よ。」とばかり「オデュッセウスに杯を差し出すキルケー」(ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス)の後ろに円形の鏡があり、撮影者ともども写真におさまるのだそうです。
私は写真を撮る人(手とスマホだけですが)を撮りました。
<撮影コーナー>
係員に「いつもこんなに混むのですか?」と尋ねたところ、「今日は空いてます。いつもはもっとずっと多いです。」ということでした。
とはいえ、13時近くにはかなり混みだしたので外へ出ました。その頃になると館外での待ち時間は100分にまでなっていました。
<入場まで100分待ち>
中野京子先生の"主張"は「話を知って絵画を」ということらしく、私の見方にはピッタシ合っていて楽しめました。
私も、「絵画は絵画として自分でそのまま受け入れればよい」だけでは満足できません。いつでも「なんでだろう?」と疑問を抱く私です。
一方、あまりストーリーや知識が先行してしまうと、絵そのものから受ける素直な楽しさが減るかもしれないとも思いました。
絵を観て、その背景を考える中で中野先生の本を読んだり、あるいは自分で歴史考証をしたりというのがよいのではないでしょうか。
この展覧会は12月17日(日)まで開かれています。約80点の展示ですのでそれほど大規模ではないのですが、私が行った日はむしろ例外的で、いつもは相当混んでいるようです。ただし、入場者をコントロールしているため、入って全く絵を観ることができないとうことはなさそうです。また、18時過ぎになると比較的空いているそうです。
先ほどツィッターを覗いたら、今日は最長3時間30分待ちになっていました。あと1週間です。16日(土)、最終日の17日(日)はこれまでにも増して大混雑が予想されます。前売り券をお持ちの方はもちろん、これからチケットを買われる方も有給休暇をとってでも平日夕方に行かれることをお勧めします。
相互リンク⇒アクティブなごやん(決定力欠如のHSV、3試合連続無得点)