1 はじめに
私個人的には存在意義について興味が尽きないカメラです。存在意義について、色々な方からお話を伺うと、大体次の二つに集約されます。
① 海外市場の要請
② NewFM2の後継機との思惑
これらについて、私なりに検証してみました。
2 F-601Mとは
F-601M とは、1990年9月に発売されたF-601、F-601QD、F-601Mの三兄弟のうちの一つです。一番メジャーなのはF-601QDですね。地味にレアなのはF-601(QDではないもの)です。そして個人的に興味が尽きないのがF-601Mです。
日本写真機工業会宣伝専門委員会編『カメラ総合カタログ第100号』75頁(日本写真機工業会,1991)には次のとおり特徴と諸元の記載があります。
ニコンF-601Mは、マニュアルフォーカスの高性能一眼レフカメラです。最新テクノロジーによる電子化により、多彩な機能を搭載。マルチパターン測光や4つの露出モード、段階的に露出をズラした撮影ができるオートブラケティング機能などによって、意図した通りの映像表現が可能です。
型式:モーター内蔵35mm一眼レフレックス電子制御式フォーカルプレーンシャッターカメラ
ファインダースクリーン:専用K型(スプリット、マイクロプリズム式)クリアマットスクリーンII
測光:TTLマルチパターン開放測光、TTL中央部重点開放測光切換え式
シャッター:PM・P・Aモード30〜1/2,000秒(デジタル制御)、S・Mモード30〜1/2,000秒(1段毎、デジタル制御)およびB(バルブ)
シンクロ:X接点のみ、TTL-BL測光、1/125秒以下で同調、後幕シンクロ可
大きさ・重量:約154.5×96×65mm・約565g(ボディのみ、電池除く)
希望小売価格(税別)
AFズームニッコール35〜70mmF3.3〜4.5S〈New〉付 ¥92,000
ボディ(ブラックのみ) ¥65,000
ケース ¥4,500より
3 海外市場の要請
F-601Mが発売された1990年9月当時、海外市場でMF機の需要があったのは確かなようで、その発売と前後してキャノンから次のとおり海外市場専用のMF機が発売されています。いずれもメーカーのホームページには「海外専用モデルにつき国内価格無し」として価格は書かれていません。
⑴ キャノンT60(1990年4月発売)
FDレンズを使用する
https://global.canon/ja/c-museum/product/film143.html
⑵ キャノンEF-M(1991年9月発売)
EFレンズを使用する
https://global.canon/ja/c-museum/product/film149.html
また、若干時期はずれますが、ペンタックスからもMF気が発売されています。
⑶ ペンタックスMZ-M (1997年11月発売)
40,000円
https://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/products/filmcamera/35mm/mz-m/spec.html
さらに、3年後には、ミノルタからもMF機の海外専用モデルが発売されます。
⑷ ミノルタX-370(2000年発売)
このように海外でMF機の需要があったのは確かなようですが、価格的にはどうなんでしょうか?前出の日本写真機工業会宣伝専門委員会編『カメラ総合カタログ第100号』(日本写真機工業会,1991)に掲載があるニコンのカメラの価格は次のとおりです。
F4 226,000
F4S 239,000
F4E 262,000
F-801S 98,000
F-801 95,000
F-601 80,000
F601QD 85,000
F-401S 61,000
F-401SQD 66,000
F3 127,000
F3HP 136,000
F3/T 182,000
NewFM2 59,000(B+4,000)
F-601M 65,000
F-301 62,000
価格からすると、NewFM2が一番安価ですが、NewFM2はマニュアル専用機なので、「AEが使えるMF機」という立ち位置ならF-601Mにも存在意義がありそうです。F-301は、1985年発売で5年前の機種なので、F-601MはF-301の置き換えでしょうか?
4 NewFM2の後継機との思惑
F-601Mが発売された1990年9月は、AF一眼レフが第二世代に突入し、AF一眼レフは定着している時代でした。1985年に発売されたα7000は1988年には新型のα7700iに置き換えられていました。そのような状況なので、メーカーの外の我々が「きっと各メーカーは早くMF機の生産を縮小したいだろう」と思うのは自然な事だと思います。
F-601M発売前後のニコンの新製品の状況を見ると次のとおりとなっています。
MF機 AF機 デジタル
1982.03 FM2
1982.05 FG
1983.03 FE2
1983.09 FA
1984.03 NewFM2
FG-20
1985.09 F-301
1986.04 F-501
1987.06 F-401
1988.06 F-801
1988.12 F4 / F4S
1989.04 F-401S
1990.09 F-601M F-601
1991.03 F-801S
1991.04 F4E
1991.09 F-401X
1992.09 F90
1993.12 NewFM2/T
1994.04 F50D
1994.10 F90X
1994 F70D
1995.05 FM10
1996.10 F5
1997.02 FE10
1998.08 F60D
1998.12 F100
1999.09 D1
2000.04 F80D
2001.03 U
2001.05 D1X
2001.07 FM3A D1H
上記にとおり、F-601Mの直前の発売は5年前のF-301で、このF-301は半年前にNewFN2が発売されたばかりのタイミングで発売されています。F-301はF-601M同様AEが使えるMF機であり、機械式シャッター搭載でマニュアル専用機であるNewFM2とは性格が全く異なります。この事から、F-601MはNewFM2の後継機ではないと考えられます。
5 結論
以上、長々と書いてきましたが、F-601Mの存在意義について私なりの考察の結果は、海外市場からの需要もあったので、AEが使えるMF機というポジションで、F-301の後継機として発売されたということになります。