〜エレベーターの住人4〜
その瞬間
エレベーターの
ドアがガタンという音とともに開き
若いカップルがガヤガヤと
喋りながら入ってきた
俺は唖然としながらも
ふと我にかえり
エレベーターの中を見渡した。
いない!?
あの老人はどこへ行った?
一瞬の間で
そんな事を考えたが
若いカップルが
エレベーターに入るなり
扉を閉めそうになったので
急いで降りる事にした。
何だったんだ?
エレベーターを降りて直ぐにある
エアコンから勢いよく
冷たい風が吹き出ていて
エレベーターで汗ばんだ俺の身体を
急激に冷やしていく。
後ろを振り返り
登っていくエレベーターの中を
エレベーターのわずかな窓から
確認するが
カップルの様子も変わらず
何事も無い様に上がっていく。
俺が疲れているのか?
いやあれは完全にアレだよな?
いやでもしばらく力は使っていない。
むしろ封印したはず。
まだ引っ越して来る前に
俺に対して頻繁に
「ねぇ、私の未来みてよ〜」
と言ってきていた奴も
力を封印した事を聞いて
分かりやすくもう連絡すらしてこない。
だから俺自身にも理解ができない。
それでも
あの老人がアレであると
仮に考えれば全ての筋が通る。
だから何だ!?
筋が通ったからといって
今更力を受け入れる必要は
何処にあると言うんだ!?
生まれてこのかた
この力で得をした訳でもなく
むしろ辛い思いばかりしてきた物が
いま再び勝手に戻りやがって…。
過去の出来事をせっかく
心の奥底に眠らせていたのに
今更になってドンドンと
走馬灯の様に脳裏に蘇る。
まるで何かの拷問にあっている様だ。
割れかかったホームのタイルの上を
少し躓きながらも
蘇る走馬灯に心は朦朧となり
フラフラと無心に歩み出す。
どうしろと言うんだ?
今更俺があの老人を救えと?
何故だ?
どうして俺なんだ?
俺にそんな義理があるか?
俺にどんな得があると言うのだ?
力を使うのだって
楽では無い
身体には大きな負担がかかる。
俺の能力だって
他の能力者から頂いた物もある。
俺じゃなくたって良いだろう?!
俺はもう止めたんだよ!
人の為に自分を犠牲にして
偽善者の様な事をするのはね。
モチロン
そんなつもりは
サラサラ無かったが
周りはみんなそう思うもんだ。
実際
俺の力を知った人は
俺を気持ち悪がり
言葉には出さないものの
忌み嫌ったじゃ無いか。
俺には全部聞こえてんだよ!
本当にそう叫びたかった。
だから嫌いなんだよ
こんな能力は…
そんな事を考えている最中
先程から拷問の様に流れる
走馬灯の映像にあいつの姿が見えた。
「私はね、あなたを嫌ったりしない」
「私は何を見られても平気よ」
「だって隠す様な事なんて何も無いもん」
「そんな能力を持つあなたが私には逆に誇りよ」
俺は片方の瞳からのみ
涙を流していた
ズルいよ…
そんなの…
俺の力を心から否定しなかったのは
お前だけなんだよ
みんなお前とは違うんだ
それなのに
俺にまだ頑張れっていうのか?
ホームには列車の到着を知らせる
ランプが点灯し
間もなく到着すると
アナウンスが流れる
あぁ…
俺は何度
このホームに…
楽になるんじゃ無いかと…
でも
そんな事をすれば
俺も彼らと同じ事になる
そう考えると…
こんな考えで止めるのは
俺くらいだな
「フッ」っと俺は
うつむきながら
少し口角をあげて
つくづく俺はそういう星のもとに
生まれた人間なんだと
自分自身を笑った。
もう笑うしか無かった。
分かったよ
お前が言うならさ
とことんまでやってやるよ
電車がホームに
猛烈な風を引き連れて入ってくる。
そしてそのスピードが
何事も無かったかに様に
いつも通りの位置に
いつも通りの停車し
油圧式出す排気音と共に
ドアが開く。
まるで
さぁ乗れと
覚悟が決まったんなら
さぁ乗れと
そう言っている様に感じた。
俺は
未だうつむいたまま
その開いたドアに
一方足を進め電車へと乗り込んだ。
Written by Tomo