「パテントリンケージ」という言葉は、2021年6月に中国が制度を導入してから、急速に広まってきたように思う。
世界で最初のパテントリンケージ制度は、米国ハッチ・ワックスマン法に、パラグラフIVによるANDA申請(後発医薬品申請)から訴訟に発展する一連の制度として規定されている。
日本で「パテントリンケージ」という言葉を最初に見つけたのは、2013年の桝田祥子氏の論文[1]であった。
そして翌2014年に同氏の別の論文[2]と、公正取引委員会のレポート[3]が出ている。
その後、弁理士会の医薬系の委員会や、医薬品の特許制度を研究する学者・実務家の間で、細々と研究がつづけられていたように思う。
筆者は、2015年の弊所と韓国Kim&Changとの韓国のパテントリンケージセミナーの開催以降、毎年数回のセミナーでパテントリンケージを取り上げ、2016年から現在まで国際商事法務・LES Japan等に論文を投稿している[4~8]。
2017年には、市橋隆昌氏の論文[9]、2018年には、篠原勝美氏[10、11]、石埜正穂ら[12]の論文が公開され、ちょうどこのころから、かの有名な、「医薬系特許的ブログ」[13]でも、「パテントリンケージ」という言葉が出現している。
尚、後発医薬品メーカーを中心に、製薬企業のウエブサイトには、詳しい説明がされている。
この間、韓国に続いて台湾が、米国とのFTAにより、米国式のパテントリンケージを取り入れ、そして2021年6月に中国も、米国とのFTAにより米国式の制度を取り入れた。
韓国と台湾の制度導入時にはそれほど騒がれなかったが、どういうわけか、昨年の中国の制度導入に伴い、大手特許事務所・法律事務所までもが中国の制度導入に注目したため、「パテントリンケージ」の意味が十分に理解されないまま、言葉だけが独り歩きし始めた感がある。
パテントリンケージは、薬事制度と特許制度の谷間に位置する制度である。そのため、規制の内容や運用実態を理解するためには、先発医薬品と後発医薬品の定義、医薬品の承認制度、特許制度を、まずは理解する必要がある。尚、法整備が不十分な現在の日本において、よりどころとなる解説書は存在しない。
また、これまで、製薬業界で医薬品特許に関係する、ごく限られたところで認知されていた言葉だが、今後は、幅広く、弁護士・法学者、ベンチャーキャピタル・金融機関、商社にとっても興味あるテーマになると考える。
そこで、
パテントリンケージについて、日本の現状・運用について、海外での状況について、さらに日本のあるべき姿について、これまでに作成した資料・収集した情報をまとめて発信する。
脚注:
[1]桝田祥子「医薬品産業と米国自由貿易協定(FTA)知財戦略-米韓FTA の韓国医薬品産業への影響と環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への示唆」パテント Vol. 66 No. 10, 78~88 (2013)
[2]桝田祥子「パテントリンケージ:医薬品の安定供給と特許制度に関する一考察-ジェネリック医薬品申請・承認手続きにおける新薬関連特許権の侵害性判断の国際動向-」AIPPI Vol.59 No.11, 818~834 (2014)
[3]公正取引委員会 競争政策研究センター「医薬品市場における競争と研究開発インセンティブ-ジェネリック医薬品の参入が市場に与えた影響の検証を通じて-」報告書 2.3 パテントリンケージについて 16頁 平成27年10月7日
[4]田中康子「後発医薬品80%時代の特許戦略」『LES JAPAN NEWS』 Vol.57, No.3, 80~89(2016)
[5]田中康子「特許権の存続期間延長制度改正の提案」『国際商事法務』Vol.44, No.12, 1813~1819(2016)
[6]田中康子「TPPの医薬品保護への影響」『国際取引法学会』第2号, 152~154 (2017)
[7]田中康子「米国ハッチ・ワックスマン法との比較から見えてくる日本のパテントリンケージの課題」国際商事法務 Vol.48, No.8, 1094~1100 (2020)
[8]田中康子「日本のパテントリンケージの課題解決に向けて~欧州との比較から~」『国際商事法務』 Vol.50, No.4, 418~424(2022)
[9]市橋隆昌「日本におけるパテント・リンケージの運用実態」法律時報 VOL.89 NO.8, 35~40(2017)
[10]篠原勝美「日本型パテントリンケージ制度の諸問題(上)」篠原勝美L&T 80, 29~35 (2018)
[11]篠原勝美「日本型パテントリンケージ制度の諸問題(下)」篠原勝美L&T 81, 9~15 (2018)
[12]石埜正穂ほか「日本のパテントリンケージの運用実態について」パテント Vol.70, No.10、54~65 (2018)