第23話
マインド協会サエラ支部の担当教官ビルドさんの話は続いた。S級トレーナーというだけあって、知識が深いだけでなく、話が聴きやすかった。学校の授業中に眠くなるような感じは全くなかった。
あとは、自分が今一番知りたい話だから興味を持って聴けた―――というのもあるかもしれないが。
倫理的な話や法的な問題、普段の世話や仕組みまで、すごく多岐に渡っていた。教本も配布され、大事なところはマーカーでチェックさせられた。
かなり容量は多いと思うが、要点をかいつまんで分かりやすく教えてもらえたので、今のところは全部頭に入っている。
「では、ここで少し休憩を挟みます。休憩後はマインドとのリュニオン実習をやります。15分後―――ここに集まっておいて下さい」
そう言ってビルドさんは部屋を出た。
静かだった会議室はどっと活気が出た。
「ていうかさ、リカ―――どうしてここまで来たんだよ?」
オレはリカに真っ先に話しかけた。
本当は会ってすぐ尋ねたかったが、レッダーとケンカになってしまって口を挟めなかった。
「私はただ、中途半端だった研修を最後までしっかり受けておきたい、そう思ったの。だから機能している近隣の協会に問い合わせて、これに参加させてもらったのよ。ディールも多分、そんなとこじゃないの?」
「はは……そうだね。その通りだよ。危ないのは分かっていたけど、でもどうしても受けておかなくちゃいけないって。必要なものだって思ったから」
リカを危ない目に遭わせたくない―――そう思って、ここに来ることは黙っていたが。
自分と全く同じ気持ちなら仕方ないのかもと思った。
「そういえばさ、リカはここで変な怪物に襲われたりしなかった?」
ビルドさんの話の冒頭に出ていたアレだ。
マスター狙いの事件は、ここでも確実に起こっている。
多分、もっと大きなものがこれから起こる可能性も―――。
あわよくば、無事に研修が終わってみんな帰ってから何か起きてくれればいい。メリグロウォスのスカイブルータワーほどじゃないけど、マスターがある程度集まっているこの研修も十分警戒しておく必要がある。
「怪物?ああ、昨日出たっていうアレね。私、今朝始発でイレキス出たから分からないわ。こっちのほうじゃあ大変だったみたいね」
「ああ。大丈夫だったら、それでいいんだけど……」
会話が続かなくなって…なんだか少し気まずくなった。
「悪ぃ、オレ、トイレ行ってくる」
そう言ってオレは席を離れた。
会議室を出て通路の奥にある男子トイレに入った。
静かで綺麗な内装。清掃も行き届いていて、空気もよかった。
すると、小便器にビルドさんがいた。便器の数も多くはなかったので、オレもすぐ横に並んですることになった。
「お疲れ様です」
ビルドさんは相変わらず爽やかな顔でそう挨拶してきた。
「…………」
この人は―――詳しい。だから、訊いてみたい。
「あの…昨日あちこちで襲ってきた怪物って――――――マインド、ってことはないんですか?」
用を済ませたビルドさんは手を洗い、ペーパーで手を拭きながら答えた。
「今のところ…最も有力な説は、そうなりますね……。ただ、はっきりした確認が取れていないので、断定することは出来ませんが。でもどうしてあなたはそれを?」
ビルドさんに逆に問われ、オレは何と言えばいいのか必死に考えを巡らす。
「―――夢で―――見て…。だから、どうしても気になってしまって。昨日、あの怪物が倒されたところを見ましたが…。あれも自分たちの相棒・マインドの変わり果てた姿だったのかと思うと、なんだか苦しくて―――」
嘘じゃない。
でも、その説明で十分相手が理解できたとはオレも思ってない。
しかし、ビルドさんは少しだけ考えて、こう言った。
「夢で―――ですか。そうですね…あなた自身そういった能力を持っているのか、たまたま勘が働いただけなのか。マインドとリュニオンした時にマインドが考えたり感じたりしている情報が流れ込んできたのか…色々あるかもしれませんが、一つ分かったことがあります」
「?」
「それは、あなたが正しい心を持っているということです!今回の事件の解析も、それに詳しいスペシャリストを呼んでありますから。今日の午後には到着して、解析を進めてくれるはずです。いずれ分かります。それから悩みましょう」
休憩後、本日のメインテーマ(?)。マインドとのリュニオンの説明が始まる。
引き続き講師はビルドさん。
他の受講者の人たちも、みんなそばにマインドを連れている。
オレ、ランセット、レッダー、リカは、それぞれドラゴン、猫、ユニコーン、鳥。
他には犬や亀、ネズミやトカゲ等、多岐に渡っていた。だが、一番人気なのか犬は何人か重複していた。
「さて、マインドとのリュニオンについて説明します。みなさん抽出時に貰ったと思いますが、コンバーターが必要です。これはマインドとみなさんを繋ぐ接着剤の―――補助をしてくれるものだと考えてください。一番の接着剤は、マインドとマスターとの絆。信頼です。それだけでも理論的にリュニオンは出来なくもないのですが、かなり難しい上に様々なリスクがありますので、基本的にコンバーターは不可欠です。これは通常手に装着しておいて下さい。形は指輪・グローブ・腕時計・リストバンド・ブレスレット等アクセサリー型になっていて、普段から身に着けておいて困らないようなデザインになっていますね。」
オレはグローブ、ランセットは腕時計、レッダーはリストバンド、リカは革のブレスレットをつけている。海で遊ぶ時にも装着しておくべきだと昨日の事件ですごく猛省している。
「リュニオンした際には、マインドとのシンクロ率が大きく関係してきます。まず、先ほど言った信頼関係―――です。心が通い合ってもいない状態でリュニオンしようとすると、大抵失敗して出来ないか、出来たとしても大きな力は引き出せないか―――です。そして絆が深ければ深いほど……その力は倍化していきます。では『力』とは何か…?」
オレは砂が水を吸うように憶えていく。一番知りたかったことの核心に近づいてくる。
力…オレの場合は白魔導士。ランセットは詐欺師。リカは格闘家?じゃあ……多分、レッダーも格闘家とかなのかなぁ?
「筋力・瞬発力・持久力―――様々な運動能力が強化されます。それは、みなさん自身の力に加えて、もう一つの生命体の力が加わる…。分かりやすく言うと、重たいものも二人で持てば簡単だということです。また、それと同時に特殊能力が発動できる場合もあるようです。誰でも必ず…という訳ではありませんが、マインドの持つ属性や力とマスターの力が組み合わさると発現するようです。それは、何かを感知する力だったり、衝撃波を生み出す力だったり。誰にでも個性があるように、千差万別です」
なるほど…白魔導士だからといって、あらゆる回復魔法が使えるわけじゃない。しかし、それは可能性として攻撃魔法も使える可能性もあるということなのか?でも、その言いようだと、自分の力の使い方に気付くのは自分次第ということか。
「その力を伸ばす方法は……まずは「慣れ」でしょう。とにかく回数を重ねてコツを掴んで下さい。それでシンクロ率を伸ばすこと。そしてそこから先は、マスター自身の鍛錬です。肉体も勿論、精神も鍛え、強い意志の力を身につけてください。肉体の生命力以上に精神力を多く使います。ポテンシャルが大きければ大きいほど、強力な力を長い時間発動できるようになってくるはずです」
う~ん…分かるけど、やっぱりその先を拓いていくのは自分次第ということか。
師匠みたいな人がいてくれたらいいなぁ~とか思ったんだけど。
例えば―――エキル兄ちゃんみたいな。
「特殊な能力のことをMAと呼びます。Mはマインド。Aはアビリティー、能力です。MAは本人やマインドの個性が関わる力の為、千差万別で選べるものではないと先ほど説明しました。また、生涯何も発現しないことも珍しくありません。MAが使えたからすごいとか、使えないと劣っているとか、そういうものではありません。将来的にどんな力が使えるようになるか等、分析するシステムも開発途中ですが存在します。ただ、実用段階ではないのが現状です。リュニオンを重ねて、様々な経験を通して。自然に掴み取っていくのが最良の方法だと思います」
突然敵が襲ってきて―――何とか対処しなくちゃいけなくて。偶然リュニオンはできるようになったけど。
ランセットやレッダーに協力してもらって、普段から練習しておいた方がいいみたいだな。
う~ん…戦う練習、ってことになるのかな?
ケガしないようにはしたいな!
その後は実際にマインドとのリュニオンを行った。
初めての人(レッダー)もいたけど、ビルドさんのサポート・助言もあって、みんなすぐに出来るようになった。オレやランセット・リカは経験済みだから、すんなりと。
ここで教われるのは、あくまでMAの基礎的な部分だけ。
そこから先はマインドとの絆だったり、それぞれの成長に委ねられる。
17時になり、研修は終了した。
でもまだ初日。明日と明後日もある。
オレとランセットとレッダー、そしてリカの4人は固って廊下を歩く。
「リカは泊まりってどこなの?」
オレが気になってきくと、リカは何を?という顔をして答えた。
「協会の宿泊施設よ?あんたたちも同じなんでしょ?」
『…………!!!!!』
オレとランセットとレッダーは絶句した!
近くの壁に案内のサインがあって、宿泊棟はこちらとかなってる!
「まさか…ここ、ちょっとは安く泊まれるとか?」
ランセットがやや硬直気味できく。
「少しは取られるけど、かなり安いんじゃないかしら?って言ってもホテルじゃないから贅沢出来るわけじゃないけどね。…ってことはあんたたち……」
にんまりとしながらリカは笑いを必死に抑えてた。
ランセットとレッダーはオレを見た。
周辺宿泊施設の調査をしたのがオレだったから?
「こ…今後の参考にしような…」
オレはなるべく視線を合わせないようにして足早に去ろうとする。

