第25話
すっきりしない。
何もかも。
だけど明日も研修がある。
「明日は…なになに。お!バトルの実践じゃん!」
宿に戻って。レッダーはプリントで明日のスケジュールを確認しながらわくわくしていた。
「でもさ~こんな事件になって。あんなことまで起こって。計画中のマインドのバトル大会なんて実現できるのかな…?」
溜息交じりでランセットは呟いた。
「出来るさ!だって……かっこいいじゃん?!」
拳を握り締めて、レッダーは独自のよくわからない理論(?)を述べる。
「そもそもさ、こんな危険な目に遭うんだったら、もうマインドの生成自体が行われなくなるかもしれないと思うけど…」
ランセットの言ってることはありえない話じゃないとオレも思った。
「そんなのおかしいだろ?マインドが悪いわけでもマスターが悪いわけでもなく、こんなことしでかしてる悪の秘密結社が悪いんだろ?!」
レッダーが本当に同じ年なのか…謎が出てくる発言だ。
「だったら、悪の秘密結社を俺たちで退治しちまおうぜ!」
……うん……オレは口を開いた。
「レッダー…それも一理あるけどさ。オレたちじゃあ、その秘密結社の本拠地を捜したり出来ないし、警察や王国のガーディアンの方が強すぎるんだから、そっちに任せておけばいいんじゃないか?」
「任せてるのに事件はまだ続いてるじゃねぇか!だったら、倒すとかそんなんじゃなくて、オレたちにしか出来ないことをやるんだよ!」
レッダーの熱い気持ちに、オレの中で冷めた何かがあったことに気付いた。
大人の理屈。都合のいい。
でも、それだけじゃ大事な何かに目を背けている気がしてきた。
「じゃあさ、レッダー。オイラたち何すればいいの?」
「…………。」
ランセットの問いかけに、レッダーは沈黙した。
やっぱり。そんなに何も考えていなかったんだ。
そんなレッダーらしいとこ、オレは好きだけどな。
「メリグロウォスで、敵はマインドのマスターの精神エネルギーを集めていた。それもかなりの数の。今回サエラで襲ってきたマインドたちも、奪われたエネルギーを取り戻すために襲ってきた。敵の目的は分からないけど、相当なエネルギーを集めているんだと思う。だから、このままオレたちからどうこうしなくたって、向こうから襲って来るんじゃないかな?」
「お!返り討ち作戦だな!」
「レッダー、やられるんじゃない?」
「どうして俺なんだよ?」
「だってリカにやられてたじゃない?」
「うるせーな!やられてねぇよ!」
「いや、やられてた」
「くっ……じゃあ、お前らはあいつに勝てんのかよ?」
「え?敵に?」
「ちげーよ、リカに…」
「…勝ててない。特にランセット」
と、オレは言いながら会話に参加しないランセットに視線を移すと、ランセットはテレビを観ていた。
―――自由だなぁ…。
テレビは夜のニュース番組だった。
昨日のサエラでの事件が取り上げられ、メリグロウォスでの事件と比較されていた。
てきとーな評論家やら専門家やらが色々言っていた。
そして…
「お、ガーディアンじゃん?かっこいいよなぁ~」
レッダーが興味を惹いたのは、王国が誇る最強SP・ガーディアンだ。
城の会見場で、リーゲードゥ陛下が事態の鎮静化とテロリストの掃滅を約束していた。
その陛下の周りには3人のガーディアンが佇んでいた。
ガーディアンは全部で12人いるそうで、人気の職業でもあるらしい。
当然、お給料もそれなりに高く、高学歴で高い身体能力も必要で、格闘技やらのスキルも必要。そして何より、全員がマインドの使い手で、おそらく―――今日教わった言葉を使うと、そのマインドとリュニオンした際のMAも、それぞれ相当なものなんだろう。
会見はちょっとだけで、番組の残りの部分はガーディアン特集(?)みたいなものをやっていた。
存在は陰で知られていても、今までメディアにガーディアンが露出することはそうそうなかった。オレも今まで知らなかった。それだけに、今回の事態は大きいんだろう。
Vは、過去にガーディアンがちょい映りしたものを集めていた。
男女バラバラで、大体みんなでかい。その上身だしなみというか、容姿がかっこいい。アイドルグループとはまた違うが、ファンはできそうだ。
その中に、トリさんが映っていた。
そして……
「エキル兄ちゃん?!!」
オレは思わず大きな声を上げた。
長い銀髪をポニーテールにして。スーツ姿で印象は大きく違うが…
オーガー森林公園で。そして昨日はサエラビーチで。オレたちのピンチをいつも助けてくれた通りすがりのスーパーヒーロー・エキル兄ちゃんが映っていた。
他人のそら似―――の可能性もなくはないんだけど、そんなにどこにでもいるような容姿じゃない。たぶんだけど、間違いない!
エキル兄ちゃんがガーディアン……だったら、あの並外れた強さも頷ける。
「ディール、ガーディアン動いてたら事件すぐ終わるんじゃない?」
ランセットがCMになったところでオレに話しかけてきた。
「そりゃそうかもしれないけどさ―――王族の警護も兼ねてだから、動けるガーディアンなんてせいぜい半分の6人くらいじゃないの?」
「いや、捜査に動くのは4人だってよ。目的がはっきりしない以上、敵は王族の警護が手薄になったところを襲ってくる可能性もあるからね。大人数は割けないんだって」
「―――ランセット、詳しいな。オレも途中から観てたけど…そんなとこまで言ってたんだ」
「いや、テレビ言ってないよ。人から聴いただけ」
「ガーディアンのファン?」
「うん……まあ、そんなとこ」
へぇ~いるものなんだなぁ。
ランセットは思い出したように言った。
「そういえばさ、何の話してたんだっけ?」
一同は記憶を辿っていく。レッダーが思い出す。
「ランセットがリカに勝てないって話だろ」
『お前もだろ!!』
「ぶべばひっ?!」
オレとランセットのツッコミパンチがレッダーを吹っ飛ばした。
「でもまあ、何で強いかっつーとだな……」
倒れたレッダーはダメージを感じさせず(←手加減してるし)、しぶとく語り出す。
「あいつもじっちゃんとこに通ってるからな」
「??」
オレは再び記憶を辿っていく。
「あ、有名な格闘家!」
「元、だけどな。オレはジム好きだから筋トレばっかやってるけど。あいつは筋トレじゃなくて型っていうか……技を教わるのが好きで、よくじっちゃんから手ほどきを受けてた」
なるほど……つまり…
「使えない筋肉なんだな」
ぽつりと呟いたオレの言葉に、レッダーはムッとして、オレに真顔で近づいてくる。
「え…?でもそうなんでしょ?見た目重視でトレーニングしてたからリカに比べれば実践にぃぃぃぃぃぃっ?!」
オレは必死の言い訳を並べる最中にレッダーは両腕でオレをハグし、自慢の見た目重視の筋肉で押し潰しにかかった。
オレはなんとか抜け出そうともがくが、全然ビクともしない。オレも年頃の他の子に比べれば、どっちかというと筋肉はある方だと思うし、力も弱くなんかない。だけど、レッダーはやっぱり力が強かった。
「…参りました…」
「よしっ!」
レッダーはよくわかんないけど満足そうに見えた。
「じゃあさ、この研修が終わったら、レッダーのじっちゃんとこに暫くみんなで通うことにするの?」
ランセットは滅茶苦茶なことを言い出した。やっぱりこいつ、自由だなぁ~…
「どんなに呑み込みがいい奴だって、一週間やそこらでマスターできるもんじゃないぜ?それこそ本気で修めようとすれば年単位で時間がかかるし。何日か通えば、基本っつーか。初歩くらいは習得できるかもだけど、そんなんで敵との戦闘で有用なレベルまで持ってけるようにはならにと思うぜ。奴等、どう見たって戦闘のプロみたいだし」
レッダーの言う通り、敵は戦闘のプロだ。
しかも、身体だけじゃなく、MAまで使える…
じゃあ、ガーディアンの人から直接指導してもらうのが一番の理想だけど……
例え知り合いにいたとしても、事件の捜査やら王族の警護やらで今はかなり忙しいと思うから、絶対に捕まらないと思う。
「でも…MAか…」
オレは思い返す。スカイブルータワーで生きて生還できたのも、それぞれの身体能力とか格闘技術がとかじゃなく、オレやランセットのMAがあってこそだった。
MAはまだ発現して一週間も経っていない。この能力に磨きをかけていくことが、勝つために一番重要なことになるかもしれない。
「MAを教えてくれる師匠みたいな人がいればいいよな?」
「ディール、何言ってんの?」
レッダーはプリントを取り出した。
「明日教わるじゃねぇか」
「あ…………」
レッダー、バカなフリして意外と先の先まで考えている凄い奴かもしれない。
とにかく、もう疲れたから寝よう。

