第27話
「っく―――!!」
逃げる間もなく、レッダーはその液体をモロに浴びてから大きく後ろへ退いた。
「レッダー!!」
オレは名前を叫び、レッダーに駆け寄った。
しかし、相手はすぐに何かの波動を放つ。
オレはそれを見切って躱した!
「ぐはぁぁぁぁぁっ!」
ランセットが後ろへ吹っ飛ばされた。
精神攻撃があまり効いていない!
―――ディール、授業で習ったでしょ?
こんな時に、ライバーの声が頭の中に響いてきた。
「今日の授業?!」
―――近接戦闘が難しいときは…?
「そうか!遠距離型MAを相手にぶつけるんだった!」
オレは精神を集中し、右手に力を集める。
飛ばしたい先をしっかり見据え、破壊のイメージを強く抱いた。ほっとくとオレのMAは全部白魔法に変換されてしまうようだからだ。そして、全身を使って大きく振りかぶった!
「ふんっ!」
白く目映い光が真っ直ぐ突き進み、クジャクに直撃した!
しかし、大したダメージは与えなかった。それどころか、レッダーの回し蹴りで傷ついた患部が回復していた。
――――――なぜ?!
「ディール、なんで回復させてんだよ?!」
レッダーが若干苦しそうな声でツッコミを入れた。
さっき食らった敵の体液が、毒か何かだったんだろう。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
ランセットは粗い息をしながら、片膝を地に着いている。
ならば…!すぐにオレはMAの生成を始めた。
「ふんっ!…ふんぬっ!!」
さっきと同じ要領で、今度は光の塊をレッダーとランセットに向けて放った。
そしてオレはそのまま走り、レッダーを攻撃しようとするクジャクに体当たりする!
「ぐがぁぁぁ!」
謎の声を上げ、クジャクの進路は少し逸れた。
ただ、それだけでダメージを与えたわけじゃない。
クジャクの敵意はオレに向けられた。少しビビってしまいそうになるが、いちいちそんなことで折れてられない!
するとランセットが光の槍(?)を生成して、それをクジャクの胸に突き刺した。
「ぉぉぉぉぉおおおおおおおっ!!」
クジャクの身体は貫通できなかったが、大きなダメージは与えたようだった。
レッダーはクジャクの背後に回り込み、頭と首にそれぞれ4~5発ずつ連続パンチを浴びせた。また色々吐き出してきたが、背後に回ったレッダーは退いたり避けたりしながら、強化したスピードで全て回避した。
「ぐるるるるる………」
クジャクは項垂れて、息が弱弱しくなっていた。
もう、戦いは終わったんだ。
「ディール、回復サンキューな!」
「ありがとう、頭すっきりしたよ」
レッダーとランセットがお礼を言った。
オレの遠距離MAは敵を攻撃せずに回復させてしまった。攻撃手段にならないなら、せめてピンチのレッダーとランセットを回復させなくちゃと思い、MAを放った。
「でもどうして、オレは攻撃できなかったんだ…?」
―――それは、ディールがこのマインドを敵だと認識できなかったからだよ。
頭の中に、ライバーの声が響く。
マインド。
ライバーにはっきりそう言われ、オレは悲しくなった。やっぱり…そうなんだ。
「こいつもマインドだから。オレには攻撃できなかった…」
助けてあげたい、何とかしてやりたい。戦いながらもそう思う気持ちがあったからこそ、攻撃MAとして発動しなかったんだ。
MAは心の力が大きく作用する。だから、MAにオレは心を見抜かれていたのかもしれない。
「本当に…助けてあげられないのかな…」
ぽつりと呟く。フィリス先生に無理だとはっきり言われてた。
自我の死んだ状態。葬ってあげることしかできないと。
「ディール、辛いこと言うかもだけどさ。倒さなかったら、俺たち、死んでたかもしれないんだぜ?」
レッダーがオレの肩に手を当て言った。
「うん…分かってる…」
「とりあえず、サエラの協会に連絡しとくね」
ランセットがケータイで協会に連絡する。
この後は止めを刺されて、火葬され、あのお墓に入るんだ。
そう思うと胸が詰まって、苦しかった。
晩ごはん。明日でいよいよおしまいかと思うとちょっと寂しいかな?
宿の近くの公園でみんなで花火をすることにした。
あんまりマニアックなものや打ち上げ花火は用意出来なかった。
イレキスで花火をするときは、ネット通販や遠くの花火問屋にまで行って、マニアックな珍しい花火をいっぱい買ってた。サエラでは元々花火をする予定は全くなかったので、海の売店で売られてるお子様セット的なやつぐらいしか手に入れられなかったのだ。
「ビルド先生の講義、詳しくて分かりやすいんだろうけど情報量多すぎて頭痛くなっちゃうんだよな~」
レッダーの言うことはご尤もで、オレも頭痛くなる。
「あのさ~、相手に思念系攻撃のカウンター食らったオイラのほうが、頭痛いんだけどな」
ランセットが、頭の痛さなら負けないと出てきた。
しかし、ランセットとリュニオンしている黒猫マインド・トニーは…
「わいも痛いの、忘れんどいてや!」
「お~よしよし」
ランセットに頭を撫でられて、目を細めて気持ちよさそうにしていた。
やっぱり猫なのか…
キラキラしたテープの巻かれた、普通の手持ち花火に火を点ける。
普通の手持ち花火でも、強い光と色のついた煙をもくもく出していて、十分楽しめた。
「でも、オレたち…少しだけど強くはなれたのかな?」
オレの言葉に、ランセットは一瞬怪訝な表情をした。
「う~んどうだろう?」
否定的な反応だ。火薬が練り固められた手持ち花火に火を点け、ランセットは言った。
「あれは暴走して、エネルギーが空になった状態なんでしょ?ゾンビ的な」
……そうだ。ランセットの言葉にレッダーが乗っかる。
「それと黒ずくめの奴等とじゃあ、戦術的にも力の絶対値も及んでいないってことだな!」
「そう―――だよね」
オレはちょっとがっかりした。
「強さを渇望しているのはディールだけじゃなくオイラたちだって同じ。少しは踏み出せたかもだけど、一瞬でも油断したら死ぬことも十分あり得るんだからね」
「なんや……ランセットがまとまなこと言うと別人みたいだふにゃべっ―――?!」
「トニー、一言多いんだよ」
黒猫はランセットにほっぺをつままれて、平べったい変な顔になった。
………ちょっとかわいいかも?トニーは花火は持たない。っつーか持てないのもある。
なんでも、動物は火が苦手なんだとか。マインドを動物のくくりに入れられるかどうかはよく分からない。見た目は動物かもしれないけど。
ライバーやコーンも、見ているだけ。
でも、2匹ともはしゃいで喜んでいる。
知識はマスターの記憶からある程度継承している―――でも、ライバーもトニーもコーンも。3匹にとってはそれぞれ生まれて初めての花火なんだ。
遠い記憶がふと蘇る。
父さんと母さんと…3人で花火をした幼いオレ。
ネズミ花火やロケット花火が怖くて、泣いていたような気がする。
オレは時間差で3色に変わる花火に持ち替えた。
「できることなら、あの黒ずくめたちと対等に亘り合えるだけの強さが欲しいって思うんだ。必ずこの先もぶつかる気がするから。それに……マインドをあんなにしてしまう奴等を許しておけないよ」
静かに。でもしっかりとした覚悟があった。
今は届かないかもしれないけど。でも、強くなりたい。
「まずは。それぞれの系統能力を覚醒させること」
『?!』
突然、後ろから女の人の声がした。
そこには、フィリス先生とリカ、ケアリーがいた。
フィリス先生は普段は白衣を纏っているが、今は黒のワンピースを着て、髪を結えている。
恋愛対象外ではあるが、ちょっとだけ新鮮だ。
リカはいつも来ているような動きやすいスポーティーな服装で、頭にはピンクのヘアバンド。新鮮さが一切ない。
「あしたで最終日でしょ?教室であんたたちが花火しようぜとかナントカ言ってるのが聴こえてたから、混ぜてもらおうと思ってね?」
「女の子がリカちゃんだけじゃあアレでしょ?だから、私も混ぜてもらうことにしたのよ」
フィリス先生の足元はビーチサンダルだった。ハイヒール姿しか頭になかったので、やっぱり新鮮だ。
リカもビーチサンダルだったが、……いつものイメージと変わらず、まったく新鮮さがなかった。
「けっ…リカなんかに間違っても手を出す男なんていねーよ!」
レッダーはちょっと不機嫌だ。いや…これが普通なのか。
「そうよね?間違ってもレッダーなんかに手を出されてら軽くあたしが捻り倒してしまうわよね~?」
「クック…」
肩に乗せたケアリーは鳴く。でもそれは、あんまり挑発しないで仲良くしなよ?って言ってるように聴こえた。
「とにかく、レッダーもリカもめんどくさいから、みんなで花火しようよ!」
オレは二人の仲を取り持って、花火を続けさせた。
