第14話
今晩のご飯は焼きそばだった。
焼きそばというとパッとしないイメージだが、なんか今日の焼きそばはすごく美味しかった。疲れていてお腹減っていたのもあっただろうし、やっぱりおばさんの料理の腕が一流なのもあるだろうし。おばさん曰く、今日も泊まると思ってなかったのと病院に寄ったりで時間がなかったので、手抜きさせてもらったらしい。コンビニのカット野菜ミックスと麺を炒めるだけで、こんなに美味しくできるもんかとビックリした。オレもいつか、料理とかするようになるのかな…?
夜はもうかなり遅く、23時半を過ぎていた。
そのまま無駄なおしゃべりは控えめにして、三人はすぐに寝ることになった。
なぜかって―――?
今日はそれで遅刻したからさ!
今日の目覚めは、「あんたたち、いつまで寝てんの?!」というおばさんの声だった。
窓から外を見ると、今日は曇り空。雨が降らなきゃいいけど…。
部屋の時計は8時だった。
ケータイをチェックすると、新着が3件。
リカから―――昨日はありがとう、こっちは大丈夫―――
母さんから―――今日はちゃんと帰って来なさい―――
イレキスの友だちのユーマから―――最近飼い始めた犬の画像が送られてきた。
まだ仔犬で、グレーの身体に毛があまりない。犬は詳しくないから犬種は分からないけど、すごくかわいい。
レッダーは今日もベッドから落ちているようで、ランセットと抱き合うような形で寝ていた。……このコンビも仲良くなってきたのかな?
おばさんは今日は早朝のパートが休みだったみたいで、朝食を作ってくれ―――なかった。
レッダーんちの朝食は各々で用意する決まりになっているそうだ。
「これこれ!俺の大好物!」
そう言いながらキッチンからシリアルの入った箱を持ってきた。
「しょ…小学生じゃないんだから…」
ランセットは呆れ顔だ。
お皿に盛って、ミルクをかける。
「オレもけっこう好きだけどな」
たま~に食べると、おいしかったりする。オレは少し時間を置いてシリアルが柔らかくなってから食べるのが好きだ。そしてシリアルにかかっていた砂糖がミルクに溶けて甘くなるのも最高だ。
ライバーとトニーにもシリアルを食べさせてあげる。
「ミユミユ!ミユ~」
「おおぅ~なんやこれ、めっちゃうまいやないかい!」
どっちも気に入ったようだ。
「オイラもまあ、おいしいと思うけど…ちょっと恥ずかしくない?」
「何言ってんね?ランセット。ほれ、ここの箱に『育ちざかりの子どもたちへ』って書いてるねん!栄養豊富ってことやろが!」
トニーは珍しくランセットに説教する。このシリアルがすごく気に入ったようだ。
「トニー、あのね…オイラもう15なんだけど!」
生まれて2日の黒猫トニーは、こう言った。
「15なんてまだまだお子ちゃまや!男は35からやで!」
ぶべばっ!!
レッダーは、口に含んだシリアルとミルク吹き出し、オレの顔面を直撃した。
街の中心にあるメリグロウォス駅から1駅先の西メリグロウォスで乗り換えて3駅。時間は大体20分。イレキスはそう遠くはない。電車を使わずに歩いてオーガー森林公園を通るのは……自粛した。それに、抽出のこともある。昨日の晩フィリス先生に電話したら11時から1時間しか空いてないそうだ。まあ、突然のお願いだから仕方ない。
歩けば絶対間に合わない。
車窓から―――スカイブルータワーがよく見える。
その周辺は現在封鎖され、ビルの総点検と補修工事を行っているそうだ。
問題なければ低層部分だけでも店舗の営業を一週間以内に再開したいようだ。
高層は燃えたり、よくわかんない闇が壁を貫いたり。お祓い(?)とかもやると思うから一か月以上はかかると思う。ただ、その後にどこかテナントが入りたがるかは分からない。訳あり物件として安く貸し出されるのだろうか。
どんよりとした厚い雲が、これからの先行きをより一層不安にさせていた。
電車の車窓から見える郊外の長閑な田園風景も、晴れた日に見れば長閑なんだろけど、薄暗く寂しい感じがしていた。
一行は間もなくイレキスに到着した。
「じゃ、ディール。オイラ、すぐ家帰んないと親がけっこーうるさいんだ。ちょっと顔見せてすぐ戻ってくるから、一旦ここでバイバイするね!」
そう言って、ランセットはイレキス駅から真っ直ぐ自宅へ向かった。
自宅といってもうちのすぐ近所なので、会おうと思えばいつでも会える。それに…
「俺思うんだけどさ、ランセット、絶対すぐ戻って来れねぇと思うぜ?」
「オレもそう思う…」
うちもそうなってたらどうしようかとも思うけど…それも仕方ないかもしれない。
マインドのマスターばかりが狙われる謎の事件は全く解決していない。昨晩ミディラスさんが言っていたように、しばらく不要不急の外出は控えておいた方がいいと思う。
そして―――ニュースでもそう言っていた。
メリグロウォスに比べるとイレキスはほんと田舎だ。建物はどれも低いし。自然が豊かだし。ただ、生活に必要なものは一通り色々揃ってはいるから不便じゃない。駅前のビルにはフィットネスクラブだってある。ゲーセンもある。カラオケもある。ファミレスも2軒ある。(行けないけど)裏路地には微妙な風俗だってある。
メリグロウォスもカッコいいから街としては好きだけど、小っちゃくても色々揃っている街の方が動きやすいし便利だと思う。
途中、コンビニでジュースとアメリカンドッグやチキンを買って。
買い食いしながらフィリス先生の研究所―――トライテクノスを目指した。
「あら、また会ったわね」
研究所に着いて第一声。そう言ってきたのはフィリス先生―――ではなく、トリさんだった。仕事なのか、今日もスーツ姿だ。
「えっ?!トリさんって、こっちの人だったんですか?」
「違うわよ。メリグロウォス在住よ。今日はちょっと用があってね……」
一階ロビーで立ち話をしていると、今度はフィリス先生が二階の階段から降りてきた。
「ディール君、トリと知り合いだったの?ふふっ。じゃあ折角だからこれからみんなでお茶でもしない?」
「あの…時間がなかったんじゃないですか…?」
そうオレが言うと、トリさんが代わりに答えた。
「私とフィリス先生が12時から14時まで約束してるの。その時間を使ってだから大丈夫よ。今日はそっちのお友だちの抽出をするんでしょ?」
レッダーに視線を移す。
「はいっ!オレ、レッダーです。よろしくお願いします!」
誰に言うでもなく大きな声でレッダーは挨拶した。
「所長のフィリスよ。よろしくね!」
「トリッドよ。トリでいいわ。ふふっ…」
そう言ってトリさんは珍しく少し笑った。
「私にもあなたたちくらいの弟がいてね…なんか、かわいいわね」
「かわいい……ですか?」
「そうよ、10代なんてまだまだ子どもよ?でしょ?フィリス先生」
フィリス先生は大人らしく余裕のある態度で言った。
「…そうね。男は35からが大人ね」
すると、レッダーはフィリス先生に尋ねた。
「フィリス先生はいくつなんですか?」
フィリス先生とトリさん。Wでキツイ殺意に満ちた眼を、オレはその後も忘れられなかった。
お馴染みの部屋で、レッダーの抽出は始まった。
オレは今回、オペレーターがどんな画面を見ているのか覗かせてもらった。
いくつもの画面が出ていて、なんか難しそうな言葉やグラフが表示されていた。
「これが対象者の総量ね、強さとか安定性の表示がこれ。性質はこっちの画面に出ているわ」
フィリス先生に説明されながらも…正直、よく分かんない。
「えっと…その人の性格みたいなのも分析されてるってことですか?」
「そうね。たとえばレッダー君は…パワーとガッツがあるけど不安定さもあって…つまり。落ち着きがないってことかしら?」
遠くから「見ないでくれー!」という声が聴こえるが、無視しておく。
「ばっちり当たってますね!」
さらに「俺はいつも落ち着きまくってるじゃねぇか!」と聴こえる。
「ここの赤いラインがマスターになるための基準で、こっちの…さらに下にある黄色いラインは一般人の平均。どれも余裕で超えまくってるから抽出に問題ないわ。ただ、これだけパワーが強すぎると突っ走りまくりなマインドになっちゃうかもしれないわね~」
「言うこと聞かない、ってことですか?」
「う~ん…それだけじゃなくて、メンタルでバランスがとれてないと、マインドの生命体としての存在が難しくなっちゃうのよ。どれをどれだけ抽出するかはある程度操作は出来るんだけど―――ディール君もそうだったけど、あなたたちが極端に高すぎるから、制御装置も結構出力限界なのよ?」
う~ん…高ければ高いほどいいわけでもなく、バランスが重要ということなのか…
「レッダー君。抽出始めるから、絶対に気合入れたりしないでちょうだい。それよりもあなたの好きなことをずっと続けているイメージを持って!」
すると、はみ出しまくった項目が幾つか抑えられてきて、安定性が増してきた。
「サッカーのことでも考えてんのかな?」
「ミユ!」
ライバーはそうだと言ってるようだ。
「それじゃあ、行くわ。抽出開始!」
目映い光が満ち、レッダーのマインドは実体構成されていった。
ライバーやトニー、それにリカのケアリーよりも一回りも二回りも大きい…
何が生まれたんだろう?!
光が収まると、ポニーよりは小柄な……大体、オレたちと同じくらいの大きさがある馬が現れた。額には角がある。ユニコーンってやつなのだろうか?ユニコーン?まさかっ!

