第13話
そこには、色々な屋上設備が広がっていた。色々なパイプ、それに、空調関係の設備なのだろうか…?湿っていて少し生臭い風が吹いている。ごぉぉぉぉっという遠くで鳴り響く騒音。とても長居して気持ちのいいものではない。
そして、ここから上にはグレーチングの足場が3フロア分ぐらいあった。近くに階段を見つけ、駆け上がっていく。
そして、本当の頂上階。360度開けた見晴らしのいい高層階屋上。ビルのメンテナンスをするためのゴンドラレールが一周している。建物中央にはヘリポートがあり、丁度ヘリが離陸するところだった。激しい風と轟音がオレたちを打ち付ける。人が無造作に何人も…いや、何十人も寝転がっている。ひょっとしたら100人近くいるのかもしれない。変な態勢で寝転がり、全く生気を感じない。死んでいるのかもしれない…
「間に合わなかったわね…」
トリさんは歯痒そうに唇を噛んだ。
いなくなった人たちは、ここで殺されたのか?連れ去るんじゃなかったのか?
全ては謎に包まれたまま、オレたちはその場に立ち尽くした。
急に気が抜けたからなのか、オレはライバーとの同化が解け、疲れ切ったライバーがちょこんと目の前に現れた。時間ギリギリ、なんとかもったか……
オレもそのまま膝をついた。
間もなく、下から警察の特殊部隊が到着し、空からも応援のヘリが着いた。
このかつてない未曾有の事件は、しばらくの間テレビで報じられない日はなかった。
辺りは暗くなっている。
もう夜だ。
ここは、メリグロウォス国立病院。ランセットとレッダー、3人でベッドに横になって点滴を受けている。そして、それぞれのそばではライバーとトニーが眠り続けている。
ケガは大したことはない。骨折したり臓器が傷ついてたりもない。ただ、精密検査を受けてしばらく安静にしているように言われたのだ。
ランセットとレッダーと別れたのは51階。
ランセットが思念波で敵を攻撃した際に返り討ちにあって、オレは一人飛び出して…。
あのあと、トニーがレッダーに事情を説明し、レッダーはランセットを担いで階段を2、3フロア降りたらしい。
それだけ―――。それだけで敵のジャミング攻撃は打ち切られた。
確かに…ランセットも敵を把握できるのは同じフロア内までだとか言ってたような…。
なんだかオレだけ突っ走って、間抜けだ。
ランセットが落ち着いてきたところで二人はもう一方の階段で51階に戻り、オレを捜してたらしいが、オレはもうトリさんと上に行った後だった。どこに行ったか分からずに各フロアをウロウロし、遭遇した敵も少数だけど片づけていたそうだ。そして警察の特殊部隊に保護された。
「とりあえず、あいつ無事だったんなら良かったじゃない?」
沈んで疲れ切った空気をなんとかしようと、ランセットは空元気を出して言った。
「うん。そのもう一人の女の人と一緒に別の病院に搬送されたって聞いてる。オレはランセットやレッダーと会いたかったから、捜してもらって一緒のところに送ってもらったんだ」
病院のベッドはどこも満床らしい。
「屋上で見つかった協会の人たちやマスターたち…病院も収容限度超え過ぎてるもんな」
レッダーの言う通り。オレたちが屋上で見た協会の人たちはみんな生きていた。
生きては、いた……でも…
「意識のある人が一人もいない。昏睡状態で回復の目処がない。身体の傷じゃなくて、精神的なものらしいってことしか聞いてない。オレにも…わけわかんないよ」
オレは刑事じゃない。医者でもない。まだ子どもだ。
そんなのわかるはずがない。
「―――でも、あの事件で生還できた人はかなり少ないわ。事件の捜査は私たちに任せて、できるだけ詳しく話してもらえるかしら?」
廊下の方からよく通る女性の声が聴こえた。
ミディラスさん。後で落ち着いてから少し話を聴かせて、と言われていた。
ポニーテールのおっとりした感じの女性だが、なんでも一応刑事さんらしい。
「マインド協会の本部は全滅したわ。各支部、対応に困ってるみたい」
ツカツカと靴音を響かせながら近づいてくる。
「ってことは!?俺…苦労してライセンス取ったのに、マインド作れねぇのかよ…」
そう言ってレッダーは肩を落とした。
事情も何も、オレたちにだってわからないことの方が多い。
オレとランセットは研修、レッダーは抽出のためにスカイブルータワーの協会フロアにかなり大幅に遅刻して到着。途中、エレベーターが停止するも非常事態と判断して扉をこじ開けて脱出。その間に協会のスタッフや研修のために来ていたであろう人たちは覆面男たちに連れ去られた。そしてそれらは屋上で見つかり、奴らは逃げた。
「そう言えば、生き残っている覆面男を訊問したほうが早いんじゃないですか?!」
事情を話しながらオレはそのことを思い出した。
しかしミディラスさんは首を横に振る。
「残念だけど…彼らは死んでいたわ。生き残っている者はいないの。死因はよく分からない。ただ…外傷ではなさそうなの」
そう言いながらこっちを見た。
「お…オレたち、そんな殺すほど反撃したつもりじゃあ…それに、やらなければ殺されていたのはオレたちのほうだったんです!」
「分かってるわ…。例えば、この手の組織であれば情報が漏れるのを恐れて、組織の人間を遠隔で殺す方法を持っている場合もあるわ。時限式や受信式の―――自殺装置を持たせたり、ね。あとは、組織への忠誠が強いのであれば自ら自害することもある。ただ、こんなに大きな事件はそうそうないから、私たちも慣れていないの」
大きな事件に、巻き込まれた。何も考えずに毎日学校に通っていた当たり前の日々が、遠く愛おしく感じる。
「目的はよく分からないけど、敵の狙いはマインドのマスターたち。今後なんとか協会支部との連携をとって、マスターが集結するようなイベントは全て中止させるわ。あなたたちも、今後狙われる可能性がある。出来るだけ落ち着くまでは家から出ないようにしてちょうだい」
ふぅ…
ランセットのため息が聴こえる。
「結局―――分からないことだらけだね」
その声に、少しだけ苛立ちも混じっているような気がした。
病院の先生から検査結果でオッケーをもらい、体調もだいぶ回復してきたので、帰宅の許可が出た。もう21時。遅いから今晩は病院に残ることを勧められたが、みんな病院は嫌だった。かなり疲れている―――だが、少し大変でも、出来れば住み慣れたいつもの家で休みたいのだ。
といっても、イレキスは少し遠い。帰れない時間でもないが……
「ったくレッダー!心配させるんじゃないよ!」
病院まで迎えに来てくれたレッダーのおばさんは、声が少し震えている気がした。
そう言ってレッダーを強く抱き締めた。
「ああ…ごめん…」
レッダーは静かにおばさんの肩に手を置いた。
オレにはレッダーが少し大人に見えた。
ウチも心配してるんだろうか……?
一応さっきメールは入れた。
ゆっくりでいいから気を付けて帰っておいでって返信が来た。
夜道、今日起きたことをおばさんに話しながら、15分くらい歩いて。
オレたちはレッダーの家に帰ってきた。
「ま、また泊まるの……」
呆れた顔で言うランセット。
「ほら、だって楽しかったじゃん?」
オレは言い訳にならない言い訳を言ってみた。
でも、ランセットは少し頭を掻いて
「オイラも、実は楽しみにしてたんだけどね!」
そう言ってはにかんだ。
楽しいお風呂の時間。ランセットは全身のあちこちに切り傷や痣を作っている。
「っう~染みるぅ……」
ランセットは少し渋い顔をしながら湯船に浸かった。
身体をごしごし男らしく磨くレッダーは涼しい顔をして言う。
「鍛え方が足りねぇんじゃねぇの?」
レッダーの身体にはそんなに傷はついていなかった。でも…
「それはオイラが貧弱なんじゃなくて!誰かさんだけマインドで身体強化できないから率先してかばってあげただけだってばよ!」
と。ランセット&レッダーのチームがどういう修羅場を潜り抜けてきたかは分からないが、レッダーは生身なのでそれはあるかもしれない。
「俺はどうせお前らみたいにマインド持てねぇよ…」
すねた顔をしてレッダーはそっぽを向いた。それには、悔しさや切なさが溢れていた。オレにはなんとなく分かる。ランセットもそれを察してか、少し気まずくなっていた。
「あのさ…レッダー」
その件に関しては、オレにはちょっと宛があった。
「メリグロウォスの協会はなくなっちゃたけど、オレたちが抽出したイレキスのトライテクノスっていう研究所ならいけると思うんだ。明日、一緒に行ってみない?」
「うぉっ!マジ?!そっかー、それならいけるよな?!」
大はしゃぎでレッダーは泡だらけの身体で湯船に浸かるオレを抱きしめてきた。
「まずは泡を流してからやな」
ランセットに抱っこされて入浴を楽しんでたトニーはイラっとしながらその空気を冷ました。
泡を流したレッダーはオレと交代でお風呂に入る。
身体を洗い始めるが、オレの身体は……
「きれいだよな……」
「そーだね…」
あちこち傷や痣があったはずだが、もうすっかり治っていた。
「ら…ライバーの力って、回復能力みたいなんだ。だから、それでじゃないかな?」
「ということは、ディールって白魔導士か?!」
レッダーがゲーム的な解釈をしてきた。
「そうするとオイラはどうなんの?!」
ランセットの質問に、レッダーはかなり深く考え込んで…
「人を惑わせて狂わせるから―――詐欺師」
「ふざけんな!そんなRPGのキャラ嫌だよ!!」
「ごぼべ、ぼぶっ、びぶばば…」
ランセットに湯船の中に沈められながらレッダーはもがき苦しんだ。
「男で白魔導士も…微妙なんだけどな」
「ミユ…」
ライバーの身体も洗ってあげながら、二人のやり取りは見てないことにした。いちいち気にしていたらきりがないし、ランセットはリカともこんな感じになってしまう。

