第11話
しかし、その刹那。覆面二人が駆け出てきた。
一人は女性を担いでいた。
少し身体が大きい…大人の女性。意識を失っているのか、全く動いていない。
―――ディール、あの女の人に、触れられる?とりあえず、それだけでいい。
ライバーの言っていることがよく分からない。でも、ライバーがそう言うのなら、そうするしかない。
オレは出てきた覆面男たちに向かい、ダッシュで突っ込む。
すると、女性を担いでいない方の敵が、こちらに向かって手を翳してきた。
何か出るのか―――?!
息を呑む。
しかし、何も出なかったからそのまま躊躇わず突っ込み、右の拳で鳩尾を思い切り正拳突きした。
そしてそのまま体を捻り、隣の男が抱えている女性の背中をタッチした!
担いでいる方は自分に攻撃が及ぶと警戒していたせいか、人質(?)に手を出すのは簡単だった。
そしてすぐさま距離を空ける。
鳩尾のパンチはあまり効いていなかったのか、手翳し男は態勢をすぐに立て直し、オレに向かって突っ込んできた。
なんの!
ぎりぎりまで引き寄せて、すぐさま左に大きく上体を反らし、攻撃を回避した。
そしてもう一人は……?
「をぶっ?!」
変な声を上げて吹っ飛んだのはオレの方だった。
確かに相手との距離はしっかりとっている。担ぎ男は遠距離からの攻撃が出来たのか!
そのままオレは壁に打ち付けられる。しかし、ダメージは大したことはない。
「こいつ…俺の術を跳ね返してきたぜ。全く通用しないなんて、子どものくせに恐ろしいぜ、まったく…」
手翳し男がゆっくりと近づいてくる。
手翳し自体が何かの術で、オレにはよく分かんないけど通用しなかったということか!
「へぇ。珍しいじゃないか。お前のジャミングが効かなかったなんて」
担ぎ男が言う。
ジャミング…!そうか。ランセットと同じような能力者か。
ひょっとすると、ランセットの症状もこいつが原因か?!
しかし、追い詰められているのはオレの方。
「こいつも使い手なら、ちょいと黙らせてアジトに連れて行こうぜ」
「そうだな…」
手翳しと担ぎがそう相談していた。
しかし―――
「ぐぅおぉぉぉぉっ!!」
担ぎ男が急に苦しみ出した。背中に抱えていた女性に押しつぶされるような形で、そのまま仰向けに倒れ、10秒ぐらいした後、動かなくなった。
「エコル!どうした?!おいっ!!」
翳し男は女性を引きはがし、担ぎ男を大きく揺さぶる。
だが、反応はない。
「てめぇ…何してくれてんだ…」
怒りに満ちたものすごい殺気で睨みつけてくる。オレじゃねぇって!
「仲間の敵は討たせてもらう。…死ねっ!」
そういって飛びかかってくる翳し男!オレは…両手で構えをとり、なんとか防御態勢をとる。そこへ―――
「がはっ?!」
翳し男を、背後から光の槍が貫いた。
「へっ?」
呆然としてしまうオレ。何が起こったのか…あ!
翳し男の背後には、担ぎ男が担いでいた女性が立っていた。
「油断したわね…精神攻撃なんてなければ、あんたたちなんかにやられないわ」
茶色の髪を靡かせ、低めの声で女性は言った。
歳は…20代半ばくらいだろうか。大人っぽい雰囲気で、美人だと思う。体格は大きい方だ。バレー選手っぽい印象もある。OLのような格好だ。
ばたっと翳し男は倒れて、動かなくなった。
「助かったわ。ありがとう」
「いえ、オレのほうこそ…それより、一体何が起こっているんですか?」
「悪いけど、時間がないわ!もう1人一緒にいた女の子が別の奴等に…すれ違いか何かで先に出てこなかった?」
「ちょうど通りかかった時に、この二人とお姉さんが…」
「とにかく、その子も助けなくちゃ!私はトリッド。トリでいいわ」
「ディールです」
そのまま廊下を真っ直ぐ駆ける。
ランセットの話ではあと3人くらいはこのフロアに残っていることになる。
トリさんの言う女の子がリカかどうかはわからないが、それを連れ去る2人の覆面男がいるとなると計算が合う。
ランセットをロックしていた術者は、おそらくさっきの奴だから、復活したランセットと合流した方が戦力も安心出来る。しかし、シャッターで隔離されている今、他の階段を使って違うフロアから回り込まなければならない。
それに、そんな時間を使っていたらリカを完全に見失ってしまう。
廊下をトリさんと一緒に進み、ちょうどオレたちがやってきた階段とは反対側になるのだろうか…もう一つの階段室に辿り着いた。B附室、B階段とサインがある。
部屋は静か。非常ベルの音。少しの煙。声や気配は全くない。
「私が少し気を失っている間に、このフロアからはいなくなった…そう見るべきかしら」
難しい顔のままトリさんはため息を吐く。
「でも…行先なら見当がつくかもしれません。何人もの人たちを連れ去るのに、わざわざ地上の出入り口を使うでしょうか?多分、奴らの侵入ルートと脱出ルートはおそらく―――」
トリさんは、はっとした。
「屋上からヘリで逃げるってことね!」
オレはこくっと頷いた。
もちろん、外れてたらすごく恥ずかしいことになるが、今考えられる可能性はそれが一番高いと思う!
オレたちはすぐさま階段を駆け上がり始めた。
51階から58…いや、ペントハウスはこの規模の高層だと3~4フロアはありそうだ。
つまり最高62階までの高さを上らなくちゃいけない。10フロア近く…かなりしんどいが、文句は言ってられない。それにそもそもペントハウスへの出入りはどこのビルも大概一般人の侵入が出来ないように遠隔で開錠しないと出られないようになっているもの。
勝手にわけの分からない一般人が来て屋上からゴミでも捨てようものなら、地上の通行人はその落下するゴミの一撃だけで十分死ねる。
あと、自殺の定番と言えば、首つり・電車。そして、ビルの飛び降りだ。一昔前は飛び降りが流行ったみたいで、国は、一定以上の高さのビルの屋上には一般人が立ち入りできない措置をするよう法律で義務付けるようにもなった。
でも、奴らがもし本当に屋上へ集結しているのなら、今ペントハウスの扉は開錠されている可能性が高い!
53…54…55…
少し息が上がってきた。
56…57…
足の筋肉は熱を持ち、張ってくる。
トリさんは―――眉ひとつ動かさずについてくる!
女の人なのに…何者なんだろう。やっぱ現役のバレーボール選手なのかな?
そして。58階のサインが目についたが―――
階段はそこで終わっていた。屋上へは階段が続いていない。
「どういうこと―――?」
トリさんの声には疲労が混じっていた。
「……そうか。トリさん、非常階段はもう一つあります!屋上へ通じる非常階段は一か所だけなのかもしれません。58階フロアを移動してもう一つのA階段に回り込んでみましょう!」
「そうね…可能性はあるわね!」
オレの提案にトリさんは頷き、そのまま残り僅かな階段を一気に駆け上がる。
オレたちは58階B附室に入った。
「――――――?!」
そこには、覆面男が三人。そして……
「リカ!!」
思わずオレは声を上げる。
一番背の高い覆面男に、リカは担がれていた。手足がだらっと垂れている。トリさんの時と同じように意識を失っている。服から出た手足には、青紫のあざと、所々から血が出ている。出血は大したことはない。奴らの目的は、マインドマスターを生きたまま連れ去ること。―――多少、痛めつけてでも。
「階段をドタドタ上ってくる音が響いてきたから誰かと思って待ってみれば。つくづく運のない奴だな、少年……」
一番背の高い男はリカを担ぎながら、そうオレに言い放った。オレに…?
「森の中では仕留め損ねたが、その借りはここで返してやろう…」
あ。この背の高い覆面男。ひょっとしたら昨日オーガー森林公園で襲ってきた奴等のリーダーか!
「私もいるわよ?女だからって、甘く見ないこと……ね!」
トリさんはそう言い放ち、光の槍を生み出し、解き放つ!
しかし、それは敵に触れる寸前に空気の波紋に吞み込まれ、消滅する。これも敵の能力なのか!
それでも2本3本と撃ち続けるトリさん。ちらっとこちらを振り返り、一瞬だけ目が合った。この隙に行動に出ろ、ということか―――
でも、どうしたら……
