第7話
「えっと…これ、さっきケガしたけど、もう治ったんだ。平気」
うん。そろそろ話をまとめないと!
「そうそう。オイラたち、明日この街でマインドマスターの研修あるから、どっか泊まるところそろそろ見つけなきゃいけないんだ」
むすっとしたランセット。疲れてるんだな……
「なーんだ。そうならそうと早く言えよ!泊まるとこ決まってないんだったら、俺んちに来いよ!すぐ近くなんだ」
…………。
オレとランセットは互いに顔を見合わせ、考える。そして、こくっと頷き―――
『じゃあお言葉に甘えて!』
それから10分くらい歩くと住宅街になっていて、白い壁の普通の家に案内された。庭もあるけどそこまで広くもなく、家も大きくもなく、ごく普通の一般家庭。
レッダー君の話では、この家に両親と一緒に住んでるらしい。おじさんは大工さんで朝がすごく早いらしく、夜はすぐ寝ちゃうみたい。だから家に帰ってもあまり顔は合わせないんだって。あとは8つ上のお兄さんもいるらしいけど、もう家を出て就職して結婚もしてるみたい。
「ただいま~!」
そう言ってレッダー君は玄関を上がり、オレたちは
「お邪魔しま~す…」
ちょっと遠慮気味に上がる。
すると奥から金髪ロングヘアのおばさんがエプロン姿でどたどたやって来た。
「ちょっとレッダー!お友だち連れてくるときはちゃんと連絡しなさいっていつも言ってるでしょ?!今日は何人なの?!」
…いつも連れてきてるんだ。
「2人だけだよ。それにホラ!ママもディール知ってんだろ?イレキスのチームの!」
えっ……?
何となく、おばさんは知ってる誰かに似ているような気もするけど、明らかに初対面のはずで、オレは知らない。
「は、初めまして…今日は突然お邪魔してすいません…」
とりあえず話を進めてみる。するとおばさんは思い出したかのように
「ああ~、あのディール君ね~!―――あら、ごめんなさいね。うちのレッダーの練習試合見に行った時に、礼儀正しくてしっかりしててサッカーも上手でキャプテンとしてもちゃんとやっててさらに」
「もう!やめろよ!俺がダメ人間みたいになるじゃねえか!」
レッダー君はおばさんに抗議の声を上げる。なんとなく。やっぱり親子なんだな。
「えっと…オレ、そんなに目立ってました?」
オレが気になるのはそこだ。別にしっかりしようとか目立とうとかしたつもりはなかったんだけどな。
「ええ、相手チームのキャプテンいいわね~って、おばさんたちの間じゃ人気だったのよ!」
自分チームのキャプテン(レッダー君)は、そんなに良くなかったのかな?
「レッダー君はオフェンス強いし、チームを率いてしっかりやってたと思います」
「あらやだ!ディール君優しいのね~そんなことより3人とも!先にお風呂に入ってらっしゃい!!特にレッダーは毎度のことながら超汗臭いじゃない!汚れ物は全部洗濯機に入れて回しときなさい!」
『3人でお風呂?!』
オレとランセットはビックリした声をあげる。知らないおっさんと入るわけじゃないし、嫌ってわけじゃないけど、一般家庭の浴槽に3人入るイメージが持てなかった。
「みんなで入った方が楽しいだろ?」
さも当然のことのように言い放つレッダー君。ま、まあみんなで入った方が楽しいのは否定しないけど。ということは、ここの浴槽はでかいのかな?ちょっとわくわくしてきた!
でかくなかった。
すごくフツーの浴室だった。
そのすぐ隣が洗面所。洗濯機のドラムもある。
「とりあえず、汚れ物は全部回しちまうから、この中に入れてくれぃ!」
レッダー君は着ていたスポーツウエアを脱ぎながら次々と洗濯機の中へ放り込む。
ソックスは泥汚れがひどく、多分臭そうだ。
まあ、オレも血が付いてるから文句言えないけど。
Tシャツを脱いで、その下に着ていたインナーのアーマーも脱いで。足に巻かれたバンダナを外し、ズボンを………
パリパリになっているのをそっと脱いだ。
―――右ハムの辺りを恐る恐る確認すると…大きくツヤツヤした部分がある。傷が治って、瘡蓋が取れた時によくなるアレだ。じゃあ、ほんとに治ったということか。
一先ず安心し、そのままパンツを脱いで放り込む。
レッダー君は近くに置いてあった液体洗剤をどばどば流し込み、セットして回し始める。
オレは自分で洗濯することはそんなにないから詳しくはないけど、あの液体洗剤は濃縮されているだかなんだかで、あんなにいっぱい入れるものじゃないような気もする。
とにかく、やっと寛げる……
けど、狭かった。
まずレッダー君とランセットが向かい合う形で湯船の中に入っている。
オレはとにかく足とか洗いたかったから、先に身体を洗うことにする。
トニーとライバーもお互いに短い手で身体を洗いっこしている。初めてのオフロなのですごく楽しんでいるようだ。
シャンプーやボディーソープは、いつもレッダー君が使っている男物のスカッとするやつを使わせてもらっている。うん、スースーする…。
するとレッダー君がオレを見て、いきなり
「ディールって、結構でかいんだな……」
「ぶっ!!」
オレは不意を突かれた一言に噴き出して動揺した。
「いいな~でかいほうが悦ばれるよな~」
ランセットがわざとらしく乗っかてきた。
「もう!じろじろ見んなよ!人それぞれなんだからいいじゃないか!」
「だって……なあ?」
「うん!」
レッダー君とランセットは初対面だが、取り敢えずオレの股間をきっかけに打ち解けてくれたようだ。複雑な気分だけど。
「ランセットだって、いつも使ってんだろ?!」
オレはランセットがいつも女の子と遊びまわっているのを思い出し、反撃に転じる。
「いつもじゃないよ。元カノとはもう半年も前に別れてるし。今はセフレが全部で―――」
「なにぃいいっ!?お前そんなにいんのか?!」
指で数え始めるランセットに、レッダー君は狂ったように反応する。よほど羨ましいのか。…普通は羨ましいか。
「レッダー君、ランセットってモテるんだよ。普段はただのチャラ男だけど、バスケやってたし、ピアノも弾けるし、草食系と見せかけて肉食系の帝王だよ」
「いやいや、ディール。そんなに褒めないでおくれよ~」
わざとらしく照れるランセット。どこまでが本気でどこまで嘘かもよく分からない。そしてわざとらしくさらに続ける。
「でも、レッダー…君だって、サッカー部のキャプテンやってたし、ガタイもいいからモテるんじゃないの?」
「レッダーでいいよ!みんな同い年なんだし!」
そう―――言うなら、じゃあ…
「レッダー」
「レッダー」
「レッダー」
「ミユユ」
オレ、ランセット、トニー、ライバーが、レッダーコールを連発した。特に意味はない。
「お……おう……」
ちょっと照れ気味のレッダー君。いや、レッダー。
オレは洗い終わった身体をシャワーで流し、ランセットと交代した。トニーはライバーを洗い終わり、今度はライバーがトニーを洗う番のようだ。
ランセットはてきとーに、頭から洗い始める。
一瞬、何かに気になったオレはランセットの股間を覗いてしまう。
そこには、年相応の、決して恥ずかしくない大きさのものがついていた。しかし、オレの方がやっぱり大きかった。
(よしっ……)
内心、なんとなくそう思ってしまう。
「ディール、おまっ……いま、勝ったって思っただろ?」
一緒に入っていたレッダーに心の中を覗かれてオレはしまったと思った。
「何の話してんの~?」
頭洗い中で目を瞑っているランセットは会話の内容が気になって入ってくる。
ここは頑張って誤魔化すしかない!
「えっと…あの……レッダーもランセットもカッコいいけど、オレも捨てたもんじゃないんだよ~って、その…」
「ぐあぁああああ~!!シャンプー目に入ったで!!死ぬ!!死ぬ!!」
「ミユミユ!ミユ~!」
タイミングよく、トニーが断末魔の叫びを上げて暴れまわる。ライバーも大慌てでおろおろする。
確かに、お風呂は一人で入るよりも楽しいか!
いつもは20分やそこらで終わる入浴も、たっぷりなぜか一時間近くかかった。
レッダーのおばさんの、いい加減にしなさいの怒鳴り声で、ようやく上がることになった。
時間も時間なだけに洗濯も終わり、乾燥の工程まで完了していた。
血の跡は時間があまり経っていなかったからか、洗剤を大量投入したからか、スッキリ綺麗に出来上がっていた。お兄さんからもらったバンダナも、綺麗な群青色が輝いて見えた。
良かった……。
お風呂が終わった後はレッダーのおばさん特製のカレーライスが待っていた。
本当の献立はカレーじゃなかったそうだけど、人数も増えたからということで急遽作ってもらえたのだ。カレーはオレやランセットも大好物。カレーの嫌いな男子なんていない。
レッダーの家のカレーは、肉や野菜がかなり大きく、歯ごたえがしっかりしているやや辛口のカレーだ。おばさんの話では、通販で買った圧力鍋のおかげだとか。
冷たいお水もいっぱい飲んで、全員おかわりした。

