教室に入ってすぐ、席について俯いていた巻谷が僕のほうを見た。目が合ったがすぐに向こうが目を逸らした。やはり朝すれ違った時、俺だと気づいていたんだろう。気まずい空気を感じながらも向こうも何も言ってこなかったから自分もスルーした。自分の席につくといつものように宗吾が駆け寄ってきた。
「なぁなぁ聞いた?今度は公園が消えたんだってよ」
「あぁ、それなら今朝見てきた」
「なんだよ、自分だけずーるーいーずーるーいー!」
「どこの子供だよ、その駄々っ子うざいからやめろ。たまたまだよ、通学路だから」
「あぁそっか。で、どうだった?」
「どうだったって言われても…なんか真っ黒になってて、それだけ」
「それだけって、他になんかないのか?」
「他にって言われても、ホントに真っ黒のよくわからない空き地みたいになってて、それ以外に言いようがないというか」
「う~ん、他の奴に聞いても似たような事ばっかりだし。やっぱり自分でみないとわかんないなぁ。俺いまから行って来ようかなぁ」
「はぁ?なにいってんだよ。今からって、もう先生来るぞ」
「わかってるよ。言ってみただけだよ。こんだけすぐ2度目があったんだ。また次もあるかもだしな」
「朝礼始めるぞ~、席に着け~」
既に学校中で公園消失の話は噂になっているようだけど先生は特にその事には触れず、いつもと大して変わらない朝礼をこなした。にしても…どうなってんだあれ。前回の橋の時も同じように本当に消えていたんだろうか。今回の公園も時間が経つと元に戻るのだろうか。あんなの、不思議とかすごいとか偶然とか、そんな言葉で説明できるものじゃない。超常現象というか異次元というか、目の前で目撃した自分でもうまく説明できないし未だに信じられない。あまりに度を越えて壮絶な光景だっただけに逆にこの後公園が何事も無かったかのように元に戻っていたら今朝の事は夢だったんじゃないかと忘れてしまうかもしれないとも思えてしまう。それほど衝撃的な突然の非日常。こういう時はおとなしく過ごすに限る。その日の授業は大半を寝て過ごした。
「で、やっぱり行くんだな」
放課後、俺、春香、宗吾の3人で公園に向かって歩いていた。といっても俺と春香にとっては橋の時とは違って正規の帰路だから別に構わないんだけど。公園に到着すると他の生徒達の姿も見えた。今回は朝方という事で目撃者も多く2回目という事もあって野次馬の数も前より多い気がする。公園はというと、いつもと変わらない姿でそこに何事も無かったかのように存在していた。
「ちぇ、戻った後か。つまんないのー」
宗吾は文句を言いながら公園の中に駆けていく。俺と春香も歩いて公園に入る。
「久しぶりだな。公園に入るの」
「えー、この前入ったじゃん。ほら、小学生たちがさ」
「あぁ…そういやそんなこともあったな。まぁあんときも入ったのはお前だけだけどな」
「まぁそっか。いつも横を通ってるけどなかなか入る事ないよねー。なんか懐かしいな、昔はよく遊びに来てたのに」
「あーあ、なんもおもろいもんねぇな~」
一通り公園を見て回ってきた宗吾が戻ってきた。
「もっとこう、公園に踏み入った人達が地面に引きずり込まれてる真っ最中とか、魔王城が突如召喚されてたりとか」
こいつはなに言ってんだ?前々から夢見がちな奴だとは思っていたがここまで沸いてるとは……。
ぉ、三下だ。あいつもまた来てんのか。ああ見えてやっぱりオカルト好きなのか?
三下がこちらに気づいた。相変わらず鋭い目つきだ。
「あっ!おーい、みっしーー!!」
「みっしー?げっ!三下じゃん」
春香が手を振って三下を呼ぶ。こちらにゆっくりと歩いてくる三下に宗吾だけが体に緊張を走らせていた。
「みっしーも野次馬見学?」
「まぁな」
「なにか見つかった?」
「いや、なにも」
淡々と静かに応答する三下。今朝の一件があるとはいえ俺と三下がお近づきになったということはない。ただ顔見知りになった、ただそれだけなだけで別に会話する仲になったとかそんなことは全く無い。。このメンバーで三下と会話できるのは春香だけだ。宗吾はというと輪から抜け出すこともできず、かといって混ざることもできず、学校で一番の不良だと噂の男の横にただ立っているしかない状況だ。
「マジで!今?」
野次馬のひとりの通話する声が耳に入った。
「おい、今消えてるってよ。行ってみようぜ」
走り出す人たちを目で追う。
「ほほぅ、これは行くしかないでしょう」
宗吾は嬉しそうな顔を見せる。だが俺はそれとは対照的に興味なさそうな顔をして溜め息ひとつつく。
「俺パス、帰るわ」
「えーー、なんだよ釣れねぇなぁ。春香はー?」
「私もそろそろ帰って夕飯の支度しないと」
「ちぇ、なんだよみんなして…」
と、順番的に三下と目が合う。
「ぁ・・・ぇっと、じゃあ俺ひとりでいくわ!じゃあまた明日な~!」
流石に三下と二人で行くのは遠慮願った宗吾はその場から逃げるように立ち去った。
三下も歩いてその場を後にしようとする。
「それじゃあね、三下君。また明日」
「あぁ」
一言だけ残して三下は公園から出て行った。
「危なかったねー」
彼女を真ん中に挟んで三下と3人で登校中、と言っても俺と三下はまともに絡むのは初でお互いの距離がよくわからずもっぱらしゃべっているのは春香ひとりなのだが。そもそも春香が三下と知り合いだったことすら俺は知らなかった。彼女の口から三下の名前を聞いたこともなかったし二人がつるんでいるところを見たこともなかった。まぁよくよく考えればクラスが別になってから彼女の友人関係自体をほとんど知らないわけだけれど。
「二人は知り合いなのか?」
「え?同じクラスだよ」
「ふ~ん」
「……」
無言なのも空気悪いかなと思って会話を切り出してはみたものの三下は全然しゃべらないし話はまったく続かない。
先ほどからこんな単発の質疑応答が数回、そんななか彼女はきまずさなど一切感じさせない笑顔である。たまに三下の顔を伺うと向こうも睨み返してきてそれで僕が目を背ける。そんなやりとりも数回、まぁ学校に着くまでの辛抱だ、がんばれ俺。
「あれ、なんだろう」
自分達の進行方向に人だかりができている。あそこは公園だ、なにかあったんだろうか。人ごみの隙間を探り探り覗いてみる。
「なんだこれ…」
そこには信じられない光景があった。公園が消えている。空き地になっているとかそういうことじゃない。まるでゲームのバグでも起きたかのように、宇宙をくりぬいて作った立方体を敷き詰めたかのように一面が吸い込まれそうな黒でに覆われてロストしている。その一面は底なしの穴なのか平面なのかもわからない。すっぽりとそこの景色だけが消えている。
「すげぇな…」
三下は周りとだいたい同じ反応、目の前の事を理解できずにただただ呆然と見ている様子だ。自分もそうだ、現実のものとは思えないものが突然目の前に現れてそれが理解できずどういうリアクションをとっていいのかよくわからないでいた。しかしふと隣に目をやると春香は他と少し違った、なにか思う所があるかのように、考え込むような深刻な顔をしている。
「…春香?」
「え?なに?」
「いや、なんか怖い顔してたから」
「え?……あぁうん、そんなことないよ。すごいねー。どうなってるんだろう」
「あ…あぁ」
「あ!時間やばーい。なにも変化ないし行こっか」
「え、あ。お、ぉぅ」
やっぱり変だ。確かに朝から2連続で非日常なシチュエーションだったけどそれを考慮したとしても今日の春香の態度には違和感を感じてしまう。正確に言うと今日だけじゃない。ここ一週間程のうちでそんな事を思ってしまう事が増えている。思い過ごしだろうか。周りで見物している人達は思い思いに話したり写メを取ったりしている。
しかしこういったことが人一倍好きそうな春香はひとりなんともいえない表情をしている。橋の消失が見れずにがっかりしていたのに、いま同じと思われる現象が目の前に起きているのにこのローテンション。俺はその態度に違和感を感じてならなかった。
彼女を真ん中に挟んで三下と3人で登校中、と言っても俺と三下はまともに絡むのは初でお互いの距離がよくわからずもっぱらしゃべっているのは春香ひとりなのだが。そもそも春香が三下と知り合いだったことすら俺は知らなかった。彼女の口から三下の名前を聞いたこともなかったし二人がつるんでいるところを見たこともなかった。まぁよくよく考えればクラスが別になってから彼女の友人関係自体をほとんど知らないわけだけれど。
「二人は知り合いなのか?」
「え?同じクラスだよ」
「ふ~ん」
「……」
無言なのも空気悪いかなと思って会話を切り出してはみたものの三下は全然しゃべらないし話はまったく続かない。
先ほどからこんな単発の質疑応答が数回、そんななか彼女はきまずさなど一切感じさせない笑顔である。たまに三下の顔を伺うと向こうも睨み返してきてそれで僕が目を背ける。そんなやりとりも数回、まぁ学校に着くまでの辛抱だ、がんばれ俺。
「あれ、なんだろう」
自分達の進行方向に人だかりができている。あそこは公園だ、なにかあったんだろうか。人ごみの隙間を探り探り覗いてみる。
「なんだこれ…」
そこには信じられない光景があった。公園が消えている。空き地になっているとかそういうことじゃない。まるでゲームのバグでも起きたかのように、宇宙をくりぬいて作った立方体を敷き詰めたかのように一面が吸い込まれそうな黒でに覆われてロストしている。その一面は底なしの穴なのか平面なのかもわからない。すっぽりとそこの景色だけが消えている。
「すげぇな…」
三下は周りとだいたい同じ反応、目の前の事を理解できずにただただ呆然と見ている様子だ。自分もそうだ、現実のものとは思えないものが突然目の前に現れてそれが理解できずどういうリアクションをとっていいのかよくわからないでいた。しかしふと隣に目をやると春香は他と少し違った、なにか思う所があるかのように、考え込むような深刻な顔をしている。
「…春香?」
「え?なに?」
「いや、なんか怖い顔してたから」
「え?……あぁうん、そんなことないよ。すごいねー。どうなってるんだろう」
「あ…あぁ」
「あ!時間やばーい。なにも変化ないし行こっか」
「え、あ。お、ぉぅ」
やっぱり変だ。確かに朝から2連続で非日常なシチュエーションだったけどそれを考慮したとしても今日の春香の態度には違和感を感じてしまう。正確に言うと今日だけじゃない。ここ一週間程のうちでそんな事を思ってしまう事が増えている。思い過ごしだろうか。周りで見物している人達は思い思いに話したり写メを取ったりしている。
しかしこういったことが人一倍好きそうな春香はひとりなんともいえない表情をしている。橋の消失が見れずにがっかりしていたのに、いま同じと思われる現象が目の前に起きているのにこのローテンション。俺はその態度に違和感を感じてならなかった。
その日は春香からのメールの着信音で目が覚めた。
【今日は先にいっててね】
いつもの起床時間より10分ほど早い時間だったけど不思議と自然にベッドを抜け出すことができたので今日は早めに登校することにした。
いつもより登校中の生徒の多い通学路。少し時間が早いだけでこんなに違うもんなのか。
そんな平穏な通勤時間をぶち壊す不愉快な声が若干耳に障るボリュームで聞こえてくる。
「あぁ?!ほーら持ってんじゃねぇかよ!」
「か、返してください」
「あぁ!!なんだぁ?!!」
「ひっ・・」
時代錯誤と言うかコテコテというか、いかにもな不良が3人、眼鏡をかけてカバンを体の前に構えて縮こまっている青年を壁際で囲っている。世間一般的にいういわゆるカツアゲというものだろうか。人目があるというのによくやる。せっかく人が珍しく真面目な時間に登校してるというのに気分の悪いものに出くわしてしまった。
ん?よく見ると眼鏡の青年、クラスメイトの巻谷(まきや)じゃないか?別に仲のいい訳じゃないが一応同じクラスだしお互い顔は知っている。
こういう時はどうするべきなんだろうか。子供同士の喧嘩ならこの前の彼女みたいに止めに入ることもできるだろうけど…やっぱりスルーか?ここは見なかったことにして関わらないのが賢い選択だろうか、仮に助けるとして自分が出ていってどうなるか、自分は決して腕っぷしが強い訳じゃないしなんの助けにもならないと思う。それならやっぱりここは被害者は少しでも少ないほうがいいんじゃないんだろうか。
そんな思考を巡らせながらなんとなく向こうから見えづらい位置をとってその様子を見ていた。
その現場に向こう側から一人の男が近づいてくる。その男はカツアゲをしている不良の前で立ち止まる。不良3人が一斉に振り向きその男にガンを飛ばす。
「んだてめ…ぇ…三下…」
そう。その男は先日、橋で見かけた三下だった。三下は不良が手に持っていた巻谷の財布を奪い取る。
「邪魔だ」
その長身で3人を見下し静かに重い一言を放つ。
不良たちはイラつきながらも抵抗することができず、舌打ちを残してその場からノソノソと不健康そうな足取りで退散する。
三下は黙って取り返した財布を巻谷に差し出す。巻谷は恐る恐るそれを受け取るとゆっくりと後ずさり、そのまま走ってその場を逃げるように離れる。道路に飛び出した瞬間、自分とぶつかりそうになり一瞬目があったような気がした。巻谷のやつ、助けてもらったんだから一言礼くらいいえばいいのに。それにしても三下は巻谷を助けたりして、実はいい奴なのか?って、あいつ俺を睨んでる?
三下に目をやると俺の方をじっとみている。なんだろう、あいつこの前も俺を見ていた。なにかあるのか?
「ちょっと君」
三下が警官に話しかけられる。
「ここで恐喝が起きてるという通報があったんだが、もしかしてまた君かね」
「……」
「どうなんだ」
「知らねぇよ」
なにか揉めている様だ。
「助けないの?」
背後から春香が声を掛けてきた。
「お前、いたのか」
「まぁねー、それよりいいの?見てたんでしょ?連れてかれちゃうよ~」
「え、ぁ…あぁ、でも」
「でも?関わるのは面倒?他人事だから関係ない?見てた人は他にもいる?」
「いや、そういう訳じゃないけど…」
「そうなの?余計な事に首突っ込まないのは賢い選択だと思うけどなー。例えそれで罪悪感を感じてしまうとしても」
「は?」
「巻谷君の事だってそう。どうせ自分には何もできないからって、仕方ないからって自分に言い聞かせて許してもらおうと思ってる。自分から、自分の罪悪感から」
「お前なに言って―」
「すみませーん!」
僕の言葉を無視して彼女は三下の方へと駆け寄っていった。
「この人、からまれてる私を助けてくれたんです。逃がしてもらったんですけど心配で戻ってきちゃって」
「お前……」
「本当なのかね?」
「はい、なんでこの人は悪くないです。ほら、遅刻しちゃうし行こっ」
「あぁ君達ちょっと。一応話を…」
警官の制止を振り切って春香は三下の手を引っ張ってその場から走り去る。
「ほら、いくよ」
「お、おぅ」
彼女に促されるままに俺も一緒に走ってその場を後にする。
【今日は先にいっててね】
いつもの起床時間より10分ほど早い時間だったけど不思議と自然にベッドを抜け出すことができたので今日は早めに登校することにした。
いつもより登校中の生徒の多い通学路。少し時間が早いだけでこんなに違うもんなのか。
そんな平穏な通勤時間をぶち壊す不愉快な声が若干耳に障るボリュームで聞こえてくる。
「あぁ?!ほーら持ってんじゃねぇかよ!」
「か、返してください」
「あぁ!!なんだぁ?!!」
「ひっ・・」
時代錯誤と言うかコテコテというか、いかにもな不良が3人、眼鏡をかけてカバンを体の前に構えて縮こまっている青年を壁際で囲っている。世間一般的にいういわゆるカツアゲというものだろうか。人目があるというのによくやる。せっかく人が珍しく真面目な時間に登校してるというのに気分の悪いものに出くわしてしまった。
ん?よく見ると眼鏡の青年、クラスメイトの巻谷(まきや)じゃないか?別に仲のいい訳じゃないが一応同じクラスだしお互い顔は知っている。
こういう時はどうするべきなんだろうか。子供同士の喧嘩ならこの前の彼女みたいに止めに入ることもできるだろうけど…やっぱりスルーか?ここは見なかったことにして関わらないのが賢い選択だろうか、仮に助けるとして自分が出ていってどうなるか、自分は決して腕っぷしが強い訳じゃないしなんの助けにもならないと思う。それならやっぱりここは被害者は少しでも少ないほうがいいんじゃないんだろうか。
そんな思考を巡らせながらなんとなく向こうから見えづらい位置をとってその様子を見ていた。
その現場に向こう側から一人の男が近づいてくる。その男はカツアゲをしている不良の前で立ち止まる。不良3人が一斉に振り向きその男にガンを飛ばす。
「んだてめ…ぇ…三下…」
そう。その男は先日、橋で見かけた三下だった。三下は不良が手に持っていた巻谷の財布を奪い取る。
「邪魔だ」
その長身で3人を見下し静かに重い一言を放つ。
不良たちはイラつきながらも抵抗することができず、舌打ちを残してその場からノソノソと不健康そうな足取りで退散する。
三下は黙って取り返した財布を巻谷に差し出す。巻谷は恐る恐るそれを受け取るとゆっくりと後ずさり、そのまま走ってその場を逃げるように離れる。道路に飛び出した瞬間、自分とぶつかりそうになり一瞬目があったような気がした。巻谷のやつ、助けてもらったんだから一言礼くらいいえばいいのに。それにしても三下は巻谷を助けたりして、実はいい奴なのか?って、あいつ俺を睨んでる?
三下に目をやると俺の方をじっとみている。なんだろう、あいつこの前も俺を見ていた。なにかあるのか?
「ちょっと君」
三下が警官に話しかけられる。
「ここで恐喝が起きてるという通報があったんだが、もしかしてまた君かね」
「……」
「どうなんだ」
「知らねぇよ」
なにか揉めている様だ。
「助けないの?」
背後から春香が声を掛けてきた。
「お前、いたのか」
「まぁねー、それよりいいの?見てたんでしょ?連れてかれちゃうよ~」
「え、ぁ…あぁ、でも」
「でも?関わるのは面倒?他人事だから関係ない?見てた人は他にもいる?」
「いや、そういう訳じゃないけど…」
「そうなの?余計な事に首突っ込まないのは賢い選択だと思うけどなー。例えそれで罪悪感を感じてしまうとしても」
「は?」
「巻谷君の事だってそう。どうせ自分には何もできないからって、仕方ないからって自分に言い聞かせて許してもらおうと思ってる。自分から、自分の罪悪感から」
「お前なに言って―」
「すみませーん!」
僕の言葉を無視して彼女は三下の方へと駆け寄っていった。
「この人、からまれてる私を助けてくれたんです。逃がしてもらったんですけど心配で戻ってきちゃって」
「お前……」
「本当なのかね?」
「はい、なんでこの人は悪くないです。ほら、遅刻しちゃうし行こっ」
「あぁ君達ちょっと。一応話を…」
警官の制止を振り切って春香は三下の手を引っ張ってその場から走り去る。
「ほら、いくよ」
「お、おぅ」
彼女に促されるままに俺も一緒に走ってその場を後にする。