「あああのっ!俺も聞きたい事がたくさんっ」
「えぇそうですね。あなたの認識を把握したいですし先にあなたの質問を受け付けましょう」
「あのっ………夢じゃ、ないんですよね」
「えぇ、残念ながら夢じゃありません。むしろここは真実の世界。あなた達の世界を創る者たちの存在する真理の場所」
「しんりの…ばしょ」
「えぇ。私はライター、記す者。そして彼女は運命」
「フェイトだよ、よろしくね」
「そして先ほどの男はイレイザー、消しさる者。まぁ彼と私らでは少々違うんですがね、まぁそれはいいでしょう。そしてあなたは真理世界と創造世界、あぁ創造世界というのはあなたが本来過ごしていた世界の事です。そのふたつの世界のキーになる存在、主人公」
「主人公?って僕がですか?」
「えぇそうですよ」
僕が、主人公?この世界の主役?!…ってどういうことなんだ。
「まぁあなたの場合、代理ですけどね」
「ん?え……代理?」
「えぇ。主人公代理です。」
なにかショッキングな事をさらっと言われた気がした。
正直よく理解はできてなかったけどなんか持ち上げられてから突き落とされたような気分になって思わず聞き返してしまった。
「え~~~~っと、代理って、なんですか?」
「もともとの主人公はあなたの彼女、春香さんだったんです」
「春香?」
「春香さんの記憶はお持ちですか」
「そりゃまぁ…いや…ちょっと待ってください、あれ……えっと、変な事なんですけど春香って僕の彼女なんですか?なんか彼女の記憶が曖昧というか合致しないというか、こっちに来てから思い出した記憶とここに来る前まで一緒にいた彼女とが一致しないんです。なんていうか、なんか違うっていうか、時々別人みたいに感じてたっていうか…なんだろう」
「彼女が…、記憶の混乱等からもたらされるものではないですか?一度ここに訪れたあなたを無理やりあちら側に帰してしまいましたから。なにか後遺症でも残ったのかも」
「怖いこと言わないでください。でも確かに最近は僕自身も調子がおかしかったのはあるけど。彼女、特にここに来る前は絶対におかしかったし」
「他になにか気づいた点、違和感を感じたり記憶と食い違ったりという点はありませんでしたか?」
「あったような~なかったような~~、よくわかりません」
「そうですか…」
「あの~、結局なにがどうなってるんですか?今いるこの場所が夢じゃないとしてなにが起きてるんですか?」
「ちょっと待ってください」
ライターはあごに手を添えうつむき考え込んでしまった。
「どうしたの?なにか引っかかった?」
「いえ…」
「それじゃあさっき決めた通りでいいよね。どうせ私達だけじゃもうどうにもならないだろうし」
「えぇ、任せました」
「え!私が?ライターやってくれるんじゃないの?」
「私はまだやらなければならないことがありますので」
「いやちょっと、待ってよ~!」
少女の呼びかけを無視してライターも部屋の暗がりへと消えていった。まだ大した説明を受けたつもりはないんだけど…あれ、これまた放置プレイってやつですか?
「もうっ!みんな勝手なんだから~。説明しろったって私にどうしろっていうのよまったく~」
この子、フェイトっていったっけ。ほぼ初対面なのだから当然どういう子なのかは全く知らないがここであった3人の中では一番幼く見えるゆえに頼りない。僕としてもできれば話しの通じるライターさんから話を聞きたいわけだけど、まだかすかに足音は聞こえるが部屋の暗がりも手伝って既に目視できない程奥に行ってしまっている。
「しょうがないから私が説明するわ!こういうの苦手だからうまく伝わらなかったらごめんね!」
そう僕に乱暴な口調で言われても困る。別に僕が悪いわけでもない、というかむしろ自分は被害者くらいの気持ちでいる訳だけど。
「まぁ簡単に言うと、主人公がこっちにいると困るから創造世界に戻して世界を正常な状態にしたいんだけどイレギュラーが発生してるからまずそれをなんとかしなきゃいけないって状況なの」
「…………、ん?」
随分ざっくりとまとめられた。せめてもう少し句読点を含んだ文でご説明頂かないと聞きなれないシチュエーションを連立されるとしゃべるスピードに対して理解がまるで追いつかない。
「だーかーらー!えーーっと~…とにかく!私たちはあなたをこの世界の主役にしようと思います!正式な!」
「ん………ここは…」
気がつくとソファに伏せていた。少し頭痛を感じる頭を抱えながら体を起こして辺りを見回す。
周囲はぎっしりと本の詰まった本棚が延々と並んでいる、まるで図書室のようだ。
どこだここ…俺、どうして……。混乱している頭の中にわずかに残る記憶の糸をたどる。確か公園にいて…そうだ、巻谷が不良たちを殺して……それから春香がいて………地面に飲まれて……もしかして夢?なんにせよいくら考えても自分がこの場所にいる経緯には辿り着かない。それにこの異様な雰囲気、まるで別世界に来てしまったような感覚がここに来た経緯よりもここがどこなのだろうか、自分の知っている世界なのかという考えに気を削いでいく。とりあえず動くか、じっとしててもしょうがないし―――
ソファを降りて陳列された本に目を配りながら部屋を散策する。静寂の中、一歩進むたびにフローリングの軋む音が耳に触れる。暗がりの中、足は自然と明かりのある方へと向かっていた。湿った空気の漂う部屋の奥に見えるランプのようなぬくもりのあるオレンジ色の光。近づくにつれ人の気配も感じる。
「だから!それをてめぇのシナリオでなんとかしろってんだよ!」
突然の怒声に先へ進む気をそがれる。だからといって他にどうしていいかもわからないし。恐る恐る伺うように覗き込むとおぼろげに記憶の片隅にある顔が並んでいた。
「ライターとフェイトが揃ってんだ!どうにだってなるだろ!」
「あ、気づいたんだ。おはよー」
僕に気づいたのは見た目小学生っぽいサイズの透明感のある少女、怒鳴っていたのはぼさぼさの髪の毛に無精ヒゲの男。それに黒ずくめに眼鏡の紳士の3人。
「くそっ!!」
無精ヒゲの男は机を叩いて苛立ちを見せる。随分と機嫌が悪いようだ。
「だいたいてめぇはなにしてたんだよ!あっちでノラリクラリと!」
唐突に無精髭の男が矛先がこちらへ向けられた。
「ちょっとやめなよ~、記憶がないんじゃしょうがないでしょ」
「だからってよぉ、自分の彼女まで代わって気づかないもんかよ!」
彼女、春香のことか?この人たち、もしかしてあの事件の関係者?ていうかどこで会ったんだっけ…絶対に見覚えがある。でも喉元まで出掛かってるのに思い出せない。
「そんなもんですよ、人なんて」
眼鏡の男が口を開く。
「お久しぶりです。といっても前回は一目合っただけでしたが。改めて自己紹介を。私はライター、物語を記す者」
そういってライターと名乗る男は右手を差し出してきた。この人、見た目だけじゃなくて中身も紳士だ。僕もそれに応えて右手を出し握ろうとしたのだが――
「あっ……」
その手は相手の握手を待つ手をすり抜けてしまった。
「ふむ、まだこちらには干渉しきってないようですね」
「そうだ、思い出した!あなたたち、この状況、ずっと前に見た夢と同じだ!」
手に触れられずにすれ違った瞬間、いつか見た夢を思い出した。
「あぁ?なんだ、お前今の今まで忘れてたのか。っつかまた夢かなんかだと思ってんじゃないだろうな」
「えっ…いやまぁはい」
「………………はぁ、どんだけ現実逃避なんだよお前」
「現実逃避って、こんなもん信じる方が現実逃避だろ。なに言われたって信じられないし信じたくないし夢だと思ってるよ」
「夢なら痛くねぇよなぁ!」
男は歩み寄ると僕の顔に手を伸ばす。だけどその指は僕に触れられる事なくすり抜けてしまう。
「ちぃ…お約束のおちゃめもできねぇのかよ。ホントつまんねぇやつだな」
思わぬ形で冗談がすべってばつの悪そうにすねる。
「この場合、主役の言うことももっともですよ。ずっとあちら側にいたんですから夢だと思って当然でしょう。彼の事はあまり気にしなくていいですよ、口は悪いですが素直じゃないだけですので」
「うるせー!」
男は照れくさそうな顔をみせながらもそれを隠すように椅子にやつあたりして奥へ消える。案外いい人なのか?
「さて、本題に入りましょう。なにから話しましょうかねぇ」
ライターは人差し指で眼鏡を持ち上げながら笑顔を見せる。
気がつくとソファに伏せていた。少し頭痛を感じる頭を抱えながら体を起こして辺りを見回す。
周囲はぎっしりと本の詰まった本棚が延々と並んでいる、まるで図書室のようだ。
どこだここ…俺、どうして……。混乱している頭の中にわずかに残る記憶の糸をたどる。確か公園にいて…そうだ、巻谷が不良たちを殺して……それから春香がいて………地面に飲まれて……もしかして夢?なんにせよいくら考えても自分がこの場所にいる経緯には辿り着かない。それにこの異様な雰囲気、まるで別世界に来てしまったような感覚がここに来た経緯よりもここがどこなのだろうか、自分の知っている世界なのかという考えに気を削いでいく。とりあえず動くか、じっとしててもしょうがないし―――
ソファを降りて陳列された本に目を配りながら部屋を散策する。静寂の中、一歩進むたびにフローリングの軋む音が耳に触れる。暗がりの中、足は自然と明かりのある方へと向かっていた。湿った空気の漂う部屋の奥に見えるランプのようなぬくもりのあるオレンジ色の光。近づくにつれ人の気配も感じる。
「だから!それをてめぇのシナリオでなんとかしろってんだよ!」
突然の怒声に先へ進む気をそがれる。だからといって他にどうしていいかもわからないし。恐る恐る伺うように覗き込むとおぼろげに記憶の片隅にある顔が並んでいた。
「ライターとフェイトが揃ってんだ!どうにだってなるだろ!」
「あ、気づいたんだ。おはよー」
僕に気づいたのは見た目小学生っぽいサイズの透明感のある少女、怒鳴っていたのはぼさぼさの髪の毛に無精ヒゲの男。それに黒ずくめに眼鏡の紳士の3人。
「くそっ!!」
無精ヒゲの男は机を叩いて苛立ちを見せる。随分と機嫌が悪いようだ。
「だいたいてめぇはなにしてたんだよ!あっちでノラリクラリと!」
唐突に無精髭の男が矛先がこちらへ向けられた。
「ちょっとやめなよ~、記憶がないんじゃしょうがないでしょ」
「だからってよぉ、自分の彼女まで代わって気づかないもんかよ!」
彼女、春香のことか?この人たち、もしかしてあの事件の関係者?ていうかどこで会ったんだっけ…絶対に見覚えがある。でも喉元まで出掛かってるのに思い出せない。
「そんなもんですよ、人なんて」
眼鏡の男が口を開く。
「お久しぶりです。といっても前回は一目合っただけでしたが。改めて自己紹介を。私はライター、物語を記す者」
そういってライターと名乗る男は右手を差し出してきた。この人、見た目だけじゃなくて中身も紳士だ。僕もそれに応えて右手を出し握ろうとしたのだが――
「あっ……」
その手は相手の握手を待つ手をすり抜けてしまった。
「ふむ、まだこちらには干渉しきってないようですね」
「そうだ、思い出した!あなたたち、この状況、ずっと前に見た夢と同じだ!」
手に触れられずにすれ違った瞬間、いつか見た夢を思い出した。
「あぁ?なんだ、お前今の今まで忘れてたのか。っつかまた夢かなんかだと思ってんじゃないだろうな」
「えっ…いやまぁはい」
「………………はぁ、どんだけ現実逃避なんだよお前」
「現実逃避って、こんなもん信じる方が現実逃避だろ。なに言われたって信じられないし信じたくないし夢だと思ってるよ」
「夢なら痛くねぇよなぁ!」
男は歩み寄ると僕の顔に手を伸ばす。だけどその指は僕に触れられる事なくすり抜けてしまう。
「ちぃ…お約束のおちゃめもできねぇのかよ。ホントつまんねぇやつだな」
思わぬ形で冗談がすべってばつの悪そうにすねる。
「この場合、主役の言うことももっともですよ。ずっとあちら側にいたんですから夢だと思って当然でしょう。彼の事はあまり気にしなくていいですよ、口は悪いですが素直じゃないだけですので」
「うるせー!」
男は照れくさそうな顔をみせながらもそれを隠すように椅子にやつあたりして奥へ消える。案外いい人なのか?
「さて、本題に入りましょう。なにから話しましょうかねぇ」
ライターは人差し指で眼鏡を持ち上げながら笑顔を見せる。
公園に金属音が響く。
それはバッドが地面に落下し、数回跳ねて転がる音。
あれ…殴られて、ない?
恐る恐る目を開けると巻谷は両腕を振り上げた体勢のまま体を痙攣させ苦しそうな声を漏らしている。
その背後に妖しく光る三日月のような刃、巨大な大鎌が天を裂くようにそびえる。
巻谷がその場に倒れるとその背後にひとりの少年が立っていた。自分の身の丈の3倍はあろうかという長さの柄、そこから伸びる刃も2倍以上ありそうだ。
「しに・・・がみ」
頭からフードのようにマントを羽織りその容姿が見えない不気味さ、そしてなにより暗い闇夜に鈍く光る巨大な鎌を携えたその姿に思わずそう言葉を漏らした。
その死神のような少年はフードの奥からかすか伺える鋭い眼光で僕を見下すように睨みゆっくりと近づいてくる。
僕はその場にへたり込んだまま、動くことも少年から目を離すこともできずにいた。
そのままその瞳に魂ごと吸い込まれてしまいそうな、深い目が僕を釘付けにした。
そのとき、一瞬、段差を踏み違えた時のような小さな落下感を覚える。いや、気のせいじゃない。体が地面に沈んでいっている。
「な…なんだこれ。まさか…消失?!」
気づいたときにはもう手遅れ、地についていた手足と尻は広がる闇色に飲み込まれて既にどうにも抜けなくなっていた。僕だけじゃない、公園の遊具や外灯、木々も徐々に沈んでおり辺り一体がトランプを裏返すようにノイズに変わっていく。
「んんっ…くそぉ、動けねぇ~」
無理だと心底感じていても足掻いてみるのが人というもの。抜ける気配の全くしない手足を引き抜こうともがく。
自分のことで必死になって一瞬忘れていたが刃の鳴く音に現状を思い出す。そうだった、目の前には大鎌を持った少年がいたんだ。もしいま命なんて狙われたら抵抗のしようがない。
緊張を走らせながら少年の様子を伺う。少年は無言で背を向け平然と闇の沼の上を歩いてその場を去っていく。よかった……いや、全然よくない!危険がひとつ減っただけで状況はなにも変わってない。
「くぬぬぬぅぅ~ああああくっそぉぉぉぉっぉ!!」
抵抗むなしく、黒に沈む僕は指一本も動かせないまま成す術無く完全に飲まれてしまった。
それはバッドが地面に落下し、数回跳ねて転がる音。
あれ…殴られて、ない?
恐る恐る目を開けると巻谷は両腕を振り上げた体勢のまま体を痙攣させ苦しそうな声を漏らしている。
その背後に妖しく光る三日月のような刃、巨大な大鎌が天を裂くようにそびえる。
巻谷がその場に倒れるとその背後にひとりの少年が立っていた。自分の身の丈の3倍はあろうかという長さの柄、そこから伸びる刃も2倍以上ありそうだ。
「しに・・・がみ」
頭からフードのようにマントを羽織りその容姿が見えない不気味さ、そしてなにより暗い闇夜に鈍く光る巨大な鎌を携えたその姿に思わずそう言葉を漏らした。
その死神のような少年はフードの奥からかすか伺える鋭い眼光で僕を見下すように睨みゆっくりと近づいてくる。
僕はその場にへたり込んだまま、動くことも少年から目を離すこともできずにいた。
そのままその瞳に魂ごと吸い込まれてしまいそうな、深い目が僕を釘付けにした。
そのとき、一瞬、段差を踏み違えた時のような小さな落下感を覚える。いや、気のせいじゃない。体が地面に沈んでいっている。
「な…なんだこれ。まさか…消失?!」
気づいたときにはもう手遅れ、地についていた手足と尻は広がる闇色に飲み込まれて既にどうにも抜けなくなっていた。僕だけじゃない、公園の遊具や外灯、木々も徐々に沈んでおり辺り一体がトランプを裏返すようにノイズに変わっていく。
「んんっ…くそぉ、動けねぇ~」
無理だと心底感じていても足掻いてみるのが人というもの。抜ける気配の全くしない手足を引き抜こうともがく。
自分のことで必死になって一瞬忘れていたが刃の鳴く音に現状を思い出す。そうだった、目の前には大鎌を持った少年がいたんだ。もしいま命なんて狙われたら抵抗のしようがない。
緊張を走らせながら少年の様子を伺う。少年は無言で背を向け平然と闇の沼の上を歩いてその場を去っていく。よかった……いや、全然よくない!危険がひとつ減っただけで状況はなにも変わってない。
「くぬぬぬぅぅ~ああああくっそぉぉぉぉっぉ!!」
抵抗むなしく、黒に沈む僕は指一本も動かせないまま成す術無く完全に飲まれてしまった。