寝そべっている俺の逃げ道を両手足で奪い、艶かしい瞳で見つめられる。たいていの男子高生なら脈を早めずにはいられない状態だ。
「春香が、そうしたいの?」
このときの春香の言っている事を、俺はちゃんとは考えていなかった。かわいい女子高生に跨られて混乱していたわけじゃない。春香の言ってることが正しいことだとも思ってなかったけれど、別にそれならそれでもいいと思った。あまりなにかを深く悩む気分でもなく、ただこの場の流れに乗ることに躊躇いを感じなかった。それだけだと思う。
「いいよ、終わらせよう」
ちょうど終業のチャイムが鳴る。耳に響く音にお互い小さく反応した。
「ありがと」
そう言って春香は俺の上から身体を退けた。少し軽やかに梯子に足をかける。
「悠、好きだよ」
春香の満面の笑み、それに俺はあまり表情を変えずに軽く返した。
春香が屋上から出ていく扉の開閉音を聞き届けて、ふたたび背中を屋根につけた。
「終わらせる、か」
春香の言葉を改めて反芻する。それから会話を思い出す。
(みんな作り物、世界も人生も、俺自身も…)
このまま謙虚な気持ちでゆっくりと悩みを煮込みたい気分だったけど、それは始業のチャイムに阻まれてしまった。
「やべ、戻んないと」
実際にはあまりやばいとは思ってなかった。さっき教室を抜け出した時みたいに周りに気にされず戻れるんじゃないかという気がしていたからだ。そう思いつつ自然と足早にはなったいたが。
教室の扉を遠慮はなしに開ける。皆の視線が一斉にこちらに向いたが担当の先生はまだ来てなかったため、特に何という問題は起きなかった。
