認知神経科学18
動機づけ2
動機づけの種類

動機づけというのは、
行動を開始・維持・停止させる
プロセスの全体を言います。
とある行動が起こるためには、
必ず動因と誘因が必要です。
動因は、内側にあるものであり、
非常に平たく言えば、
~したいという欲求を生じさせる要因です。
例えば、お腹がすいたという要因があるとき、
人は食べ物を食べるわけです。

しかし、~したいという気持ちは、
その人が置かれている状況によって
発生したり、発生しなかったりします。
例えば、アイスクリームを食べる
という行動を例に考えてみます。
アイスクリームというのは、
外側にある誘因です。
暑いと感じているときは、
それが動因となって、食べる行動をしますが、
寒いと感じているときに、
アイスクリームを食べることはないわけです。
だから、どれだけ誘因があっても、
動因が生じなければ行動は起こらないし、
逆に、どれだけ動因があっても、
誘因がなければ行動しようがないのです。

行動というものは、
動因と誘因の2つの因子があって
始めて成立するものと言えます。

例えば、もう1つ例を挙げます。
今度は教育場面で考えてみましょう。

生徒は、動因を持っています。
生徒にとって、
教師の発言は誘因になり得ます。
教師は、生徒に特定の行動を身につけさせたいとき、
その生徒の動因を満たす誘因にならねばなりません。

動因は個人によって異なりますので、
教師は、そのことを考慮する必要があります。

生徒の望ましい行動を強化したいとき、
その生徒にとって強化子となるものを与えないと、
まったく意味がありません。
褒めるという行動は、
多くの場合は強化子になるでしょうが、
生徒によっては、あるいは状況によっては、
同じ褒めるという行動も
罰子になってしまうことがあります。

ということで、少し話はそれましたが、
今回は、動機づけの種類について説明します。

動機づけというのは、
大きく3つの種類に分けられます。
1つ目は、個体維持のためのもの、
2つ目は、種族維持のためのもの、
3つ目は、経験によって派生したものです。

個体維持のための動機づけのうち、
代表的なものがホメオスタシスです。

ホメオスタシスというのは、
身体の化学的状態を
一定の範囲内に維持する働きを言います。

例えば、エアコンを例に考えてみます。
エアコンには、設定温度というものがあります。
28度に設定しているとすれば、
それ以下になれば暖めるし、
それ以上になれば風量を減らします。
このようにエアコンは、
ある基準に基づいて動きを変えています。

同じように人間の体も、
例えば体温は非常に狭い範囲内におさまるように、
ちょっとでも熱が上がれば下げようとするし、
また下がりすぎないようにしています。

ではそのことを行動レベルにまで
上げて見てみます。

食べるという行動は、
生命にとって最も重要なものです。
なぜ食べるのか?
それは、お腹がすいたからです。
空腹になれば、脳が
われわれを摂食行動へと駆り立てます。
また満腹になれば、
食べるのをやめさせます。
ある一定の化学的範囲内におさまるように、
食べたり、食べるのをやめたりして、
我々は生き続けているわけです。

これが1つ目の動機づけです。
次回からは、摂食行動のメカニズムを説明します。

2つ目は、種族維持のための動機づけで、
この代表例が性行動です。
多くの動物には、オスとメスがいて、
その2つが交尾する、即ち性行為することで、
受精をし、子を育て、子孫を残します。
そのために大事なのが、
性行動をしたいという欲、性欲のようなものです。

メスとオスに分かれている種にとって、
種族を維持していくためには、
性行為をする必要があります。
それがなければ絶滅してしまいます。
この仕組みについては、
摂食行動の説明のあとに説明します。

そして3つ目は、経験によって派生した動機づけです。
その主なものが学習性の動機です。
条件性恐怖や条件性再発などがあります。

今回は動機づけの種類についてでした。
次回から、1つ目と2つ目に焦点を当てて、
その脳内メカニズムについて説明していきます。