認知神経科学18
動機づけ3
ホメオスタシス
視床下部・脳下垂体の構造と機能

今回から3回に分けて、
摂食行動についてお話しします。
摂食行動というのは、
いわゆる”食べる”という行動ですが、
その行動がどのようにして生じるのか、
脳と身体のメカニズムについてお話をしていきます。
なぜ食べるのか。
それは食欲という生理的動因が働くからです。
では食欲はどのようにして生じるのでしょうか。
そのことについて
神経科学の視点からお話しします。

今回は、その理解の前提として、
ホメオスタシスとはどういうことなのかについて、
そのあと視床下部と脳下垂体の
構造・機能について説明します。

ホメオスタシスhomeostasisとは、
アメリカの生理学者キャノンが命名した言葉で、
体内の化学環境を一定範囲内に
維持することを言います。

化学環境とは、
体温、栄養素、体液量、浸透圧などのことです。
このようなものを一定の範囲内に保つことで、
生きていくことができるわけです。
例えば、エアコンには設定温度があり、
その温度より高くなれば冷気を送り、
その温度より低くなれば冷気を停止します。
そのようにして、常に基準値に近づけようとする機能を、
ホメオスタシス=恒常性と言います。

その機能に深く関わるのが、
視床下部と脳下垂体です。

視床下部hypothalamusは、
間脳の一部で、
視床の下、脳下垂体の上、
第3脳室と隣接する、
4~5gほどの脳容積の1%以下の神経核群です。
この部位は、
呼吸・血圧・体温・水分・性機能の調節など、
自律神経系と内分泌系の最高中枢として働きます。

視床下部は、外側野、内側野、
脳室周囲体の3つの部分に分けられます。
視床下部外側野は、摂食中枢、
視床下部内側野は、満腹中枢と言われます。
脳室周囲体は、いくつかに分けられるのですが、
1つは視交叉上核suprachiasmatic nucleus(SCN)。
SCNは、概日リズムを調節する、
脳の時計と言われる部分です。
もう1つは、
神経分泌ニューロンneurosecretory neuron。
これは下垂体に軸索を伸ばし、
血中に直接、神経ホルモンを分泌する細胞です。
次回から、視床下部が
どのように摂食行動を
調節しているかについてお話しします。

視床下部は、体内環境変化の
センサーとして機能し、
生体環境を一定に保つ、
即ちホメオスタシスのために、
適切な行動をさせるように、
皮質などへ働きかけます。
脳の基本構造でお話したように、
通常は、神経系と血管系の間には、
アストログリアがあって、
血液脳関門を形成しているので、
そのようなsensingはできないのではないか
と思う人もいるかもしれませんが、
実は、視床下部には、
血液脳関門が欠如している部位があり、
また血液と神経の行き来を可能にする小管系があります。
したがって、血中のホルモン濃度をモニターして、
それが不足していればそれを補うための行動を、
それが過剰であれば
それを減らすための行動を促すことができます。
このようにして、視床下部は、
ホメオスタシスを実現するために働き続けています。

脳下垂体pituitary glandは、
視床下部の下にぶらさがっている内分泌器官で、
下垂体前葉と下垂体後葉に分けられます。
吻側に位置するのが下垂体前葉、
鼻側に位置するのが下垂体後葉です。

下垂体前葉は、
腺の分泌を調節するホルモンを合成・分泌します。
視床下部の小細胞性神経分泌細胞が
それを制御していて、
視床下部小細胞性神経分泌細胞は、
毛細血管に向下垂体ホルモンを分泌し、
そのホルモンが下垂体茎を下行し、
受容体と結合することで、
ホルモン分泌細胞からホルモン分泌がなされます。
下垂体前葉から分泌されるホルモンには、
甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、
プロラクチン、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、
成長ホルモンなどがあります。

下垂体後葉は、
視床下部の大細胞性神経分泌細胞から
直接、下垂体後葉の毛細血管へ
ペプチドホルモンである神経ホルモンを分泌します。
神経ホルモンは、
オキシトシンとバゾプレッシンの2種類です。
オキシトシンは、乳腺や子宮に働き、
射乳の促進や分娩の促進を行います。
バゾプレッシンは、抗利尿ホルモンで、
腎臓に働き、水分の再吸収を促進して、
体液量を調節しています。

今回は、ホメオスタシスに関わる脳部位として、
視床下部と内分泌器官の
下垂体についてお話ししました。
次回からは、摂食行動の調節が
これらの部位でどのように行われているか
について説明します。