【小説】元々特別なオンリーワン | 箱庭の空

箱庭の空

小さな世界。

 メロンを食べながら、Bは言うのである。

「寒冷地適応を果たしたものは優良種なんだよ」

と。恐らく、現摂政の兄の言っていることの受け売りなのだが。

 スプーンで一欠け掬った時に外から何か聞こえてくる。

 「西瓜割り!やるよっ!」

 妙に景気がいい、ちょっと甲高いあの声はCのものだ。

 

 東洋の国から輸入したとか何だとかの、季節外れのしましまの変な……瓜科の野菜にしか見えなかった。すぐに興味を失ったのだが、Cは何故かやたら気に入ったみたいで拘っていた。

 庭に持ち出して何かしようとしている。おっと、あれは剣術復興協会から譲られた木剣の模造品ではないか。

 

 誰か観客がいるのか、いないのか、ぼこんと音がした。

「やったー」

 動かない物に当てても大したことはないのにはしゃいでいる。

 真っ二つになった、緑のしましまボールから赤い身が覗いている。おいしそう……?いやいや自分は網目派なんだって。寒冷地適応を果たしたものが優良種。

 

 第一水分多すぎだろ。あんなもの食べたら胃腸に悪い。

 そう、高貴な網目と上品な甘さを持ち、温室で育てられる、このメロンこそが、元々特別なオンリーワンなのだ。

 そのBの考えを打ち砕くように、

「ナンバーワンにならなくてもいい。元々特別なオンリーワン」

とCが高い声で歌うのが耳に入った。