たとえ話だ。
普通の町で暮らしていた人間がある日突然スラム街で暮らさなくてはならなくなった。
その男はスラム街が最悪であること、異常であること、腐っていることをしきりにまくしたてた。
まるでどこかの会社をおかしいというようなものかもしれない。
男は数年スラム街で暮らした。自分の身を守るために銃を持つようになった。
ナイフをつきつけられたこともあったが、無事に生き延びることができた。
男は言う、ここは腐っていると。
男は言う、ここは頭がおかしいと。
しかし、あるとき男は気がついた、もはや自分も普通ではなくなっていることを。
昔は、こんなにも過剰に反応しなかった。なぜなら彼が言うところのおかしいやつらがいなかったからだ。
こんな風に警戒したりしなかった。
男はスラム街を嫌った、一切その文化に合せたくなかった。
その気持ちがあまりに強かったので彼の生活は周囲から見ると風変わりなものだった。
ずっとずっと昔、まだこのスラム街に来る前の生活から考えたら
その男のライフスタイルは十分に異常だった。
彼が言うところの異常なものに反応したり反発したりすることは、やはり異常であるということだった。
なぜならその人の正常な世界には本来そういうものは存在しないからだ。
本当に正常を望むなら正常な場所に移るべきである。
何が正常なのかはわからないが。