『鎌倉殿の13人』~後追いコラム その53
第12回 亀の前事件
いや~びっくりした。「後妻(うわなり)打ち」と称して、亀(江口のりこ)が匿われている屋敷を打ち壊したのが、源義経(菅田将暉)らだとは。これはおそらく三谷幸喜流の前振りだ。
後に判官贔屓という言葉が生まれるくらい、兄の猜疑心によって疎まれ、戦功を立てたにもかかわらず、無情に切り捨てられた可哀想な源義経。こうしたイメージは現在でも根強いだろう。ドラマで義経が描かれる時はいつもそんな感覚を視聴者に持たせるような演出だ。特に印象に残っているのは、滝沢秀明が義経を演じた大河ドラマ『義経』(2005年)。絶世の美女と都で評判だった母常盤御前(稲森いずみ)から生まれた子だからか、配役はイケメン滝沢秀明(ジャニーズ事務所副社長)。実際に残っている義経肖像画とは似ても似つかない配役だ。
(義経を演じた滝沢秀明)
(『源義経像』中尊寺蔵:後世に描かれたものとされる)
一方、平家を滅亡させる大なる貢献をした義経を無情にも切り捨てる兄源頼朝は、中井貴一が演じた。最近は「short cut」(2011)や「記憶にございません」(2019)など三谷作品にも登場し、コミカルな演技もしているが、当時はお堅い演技派の役者。頼朝の奥底にある冷徹な感情を見事に演じていた記憶がある。
(『義経』で源頼朝を演じた中井貴一)
今回の大河ドラマはどうだろう。
菅田将暉演じる義経は、先述したが、目標達成には手段を選ばず、周りの空気も読めない人物、さらには気まぐれで、兄を義円(成河)に嫉妬する子供っぽい人物として描かれている。
源頼朝(大泉洋)は、戦は下手だが、鎌倉殿として周囲に気配り目配りをしつつ、必要な決断は下すという人物。時には今回の亀の前事件のようなとんでもないことをしでかしてしまうが。亀との密会の現場を八重(新垣結衣)に目撃された時の大泉洋の顔が忘れられない 笑。「水曜どうでしょう」で寝込みを襲われた時の顔 笑。大河ドラマでこんな頼朝は見たことがない。
(亀との密会現場で八重と出会した時の頼朝:声も出ない 笑)
三谷幸喜は、これまでの義経、頼朝のイメージと全く違うものとして描こうとしているのではないか?義経は、後に兄頼朝と対立し、後白河法皇(西田敏行)に強要して頼朝打倒の院宣まで出させ、最後は奥州藤原泰衡(山本浩司)の裏切りにあって討死にする。その原因は義経自身にあり、頼朝は独断専行の義経の行動が、幕府の御家人たちの統制を乱すものとして対処したと。
今話の義経の描き方もその前振りのように感じる。さらに、第10回「根拠なき自信」で上総介広常(佐藤浩市)が義経を叱責した言葉もそのことを想起させる。
『戦ってのはなぁ、一人でやるもんじゃねぇんだよ。身勝手な振る舞いが、全軍を総崩れに追いやることだってある。決められたことに従えねぇんなら、とっとと奥州へ帰れ!』
(義経を叱責する上総介広常)