✨今年のザ・美術骨董ショーで出会った「獅子根付」
— 同じタイプを持っているのに、また買ってしまった理由 —
今年のザ・美術骨董ショーで、久しぶりに「これは…!」と思える獅子根付に出会いました。獅子根付は数こそ多く残っていますが、“気に入る獅子”となると話は別。
よくあるタイプだったり、レアでも手が出ないほど高価だったり、状態が惜しかったり…。コレクターの心を満たす獅子に巡り合うのは、実はなかなか難しいものです。
……と書きたいところですが、実は僕、同じタイプの獅子根付をすでに持っています。 なのに、なぜまた買ってしまったのか?
それは——
ほんの少しだけ違うから。
そして今回は、前足の肉球に銘が入っていたので、ついビビッときてしまったのです。
バカすぎる……。
でも、これがとら太流「根付の道、修羅の道」なのです。
同じように見えて“違う”ところに惹かれてしまうのは、もう性(さが)ですね。とりあえず、そんな獅子根付でしたが、出会えたのも何かの縁。
少し深掘りしてみたいと思います。
興味のない人から見れば「気の迷い」にしか見えない世界ですが(笑)、そこがまた楽しいところ。
道に迷ってグルグルしている感はありますが…(汗)
■ 値段が書いていない骨董屋さんの“試練”
まずは購入にあたって値段が書いていない骨董屋さんでは、こちらから価格を聞かないといけません。奥ゆかしいタイプの人には、これがなかなかのハードル。
でも僕はというと、遠慮ゼロでジャンジャン聞くタイプです。(笑)
「これいくらですか?」
「こちらは?」
「じゃあこっちは?」
……と聞いていくと返ってくるのは、
100万、120万、150万、200万。
興味のある品に限って、やたらと高額なものばかり。
「いやいや、僕には無理ゲーすぎるでしょ…」
と心が折れかけたその時、たまたま手に取ったこの獅子根付だけは、
僕の購入希望価格の範囲内。
その瞬間、店主さんの表情がなんとも言えない“憐みの目”になっていたのが忘れられません。
あまりにガッカリしていた僕を見て、
「この人には買値で譲ってあげよう…」
と思ってくれたのかもしれません。
ありがとー!!!!!そんな流れで、同じタイプの根付を持っていましたが気づけば購入していました。
■ 店主さんの一言がまた味わい深い
値段を聞いたとき、店主さんがふとこんなことを言いました。
「獅子って、沢山あるので買う人少ないんだけど、好きな人いるんだなーと最近になってわかってきましたよ」と僕をジーと見ながらね。
いやいや、わかってんなと。付き合い長いだけある!!!!
むしろ獅子が好きすぎて、寺社の木鼻まで見に行くよ。(笑)
確かに獅子は数が多いぶん“普通の獅子”は売れにくい。
だからこそ、良い獅子に出会える確率はむしろ低いという逆説がある。
そんな会話も含めて、同じタイプの根付持っているけど今回の出会いはなんとも味わい深いもの?になりました。
■ 彫りの確かさ — 技術の基本がしっかりしている
今回の獅子でまず惹かれたのは、彫りの確かさです。
硬い象牙に毛彫り、巻き毛、並み毛を彫り分けるのは根付師の基本技術。ここが甘いと、どんなに題材が良くても“面白み”が半減します。
この獅子は、その細部がしっかりしている。
そして…お尻の穴まで彫ってあるのがまた良い。
古根付ではごく普通の表現ですが、現代根付ではまず見られません。
昔の人は、妙なところに妙に忠実で、そこがまた魅力なんですよね。
■ 伝承されてきた技の力
次に面白いのが、この獅子の形です。
一見すると普通の獅子なのですが、よく見ると全体が三角形をしています。これは偶然ではなく、象牙という素材の事情がそのままデザインに反映されているのです。
象牙はもともと三味線の撥として使われていたため、残った端材は三角形の形をしていることが多い。貴重な素材なので、端材といえども無駄にはできません。
その“元の形”を読み取り、そこから獅子の姿へと落とし込む。
これは単なる彫刻技術ではなく、素材を読む力とデザイン力の高さがあってこそできる仕事です。

実は、この三角形の象牙端材を使った三角獅子の玉獅子は、古くから多く残っている定番デザインでもあります。
最初にこの形を考案した根付師が誰なのかは分かっていませんが、18世紀の根付にも同じデザインが見られるため、
「玉獅子といえばこの形」
という伝承が、根付師の間で受け継がれてきたのでしょう。
今回の僕の玉獅子は、作風からして19世紀の文化・文政期以降のものと思われます。まさに、伝承された技の結晶のような一体ですね。
根付には、素材そのものの形の面白さを楽しむ側面もあります。
「これは皮目の三角を使ったな」
「これは芯の近くだから先端部分だな」
といった具合に、素材の履歴が見えてくる瞬間がある。
これがまた、コレクションの醍醐味なんですよね。
■ 謎の一文字銘「玉」— 推理の時間もまた楽しい
獅子根付は無銘が多いのですが、今回のものには前足の肉球部分に「玉」の一文字銘が入っています。
玉斎? 玉寶斎? 玉珉? いや玉吉か?資料をめくりながら推理する時間がまた楽しい。左足にもう一文字あったのかとルーペで確認しましたが、削れた形跡はなし。
「もしかして左足の後ろに…?」なんて妄想もしましたが、さすがにそれはないですね。(笑)
■ 獅子という存在 — 霊獣の王であり、江戸の人気者
獅子は、青龍・白虎・朱雀・玄武を超える霊獣の王として、根付の世界でも圧倒的な存在感を放っています。
江戸時代、魔を払う霊獣として最も人気があったのが獅子。
寺社彫刻を見に行くと、木鼻は必ずと言っていいほど獅子。
獅子の木鼻だけある寺社も珍しくありません。
寺社彫刻好きの僕にとって、獅子根付はまさに“ど真ん中”。今回の獅子も、その魅力を存分に感じさせてくれる一体でした。
■ 根付道
こうして無事にコレクションに加わった今回の獅子。
値段の攻防も、店主さんの一言も、技術的な見どころも、すべてが“出会いの物語”として心に残りました。
次回は、このショーで購入した人物の根付についても少し掘り下げてみようと思います。僕の根付道は、まだまだ続きます。










