根付道<Netsuke Road>

根付道<Netsuke Road>

気楽にぶらぶら、根付蒐集の道を歩くブログです。

最初は、ただの“座ったおじさん”。
でも、その正体を知った瞬間、根付は物語の扉に変わります!!

■動物と人物、根付コレクターの二つの道
 根付の世界には、大きく分けて「動物派」と「人物派」がいます。
どちらか一方に徹する人もいれば、両方を楽しむ人もいる。
この“派閥”が、コレクター同士の会話を面白くしてくれるんですよね。

動物根付はとても分かりやすい。
江戸の鼠はいまでも鼠だし、犬はいつまでも犬。
時代を超えて普遍的です。

もちろん、鼠は大黒様の使いで富貴、犬は多産で忠実だから子孫繁栄…といった象徴性もありますが、そんな細かい意味よりも、
「かわいいから♡♡♡」、「カッコ良いから♥♥♥」  
という理由で集める人が圧倒的に多いでしょう。(笑)

 

一方で、人物根付は“謎”から始まる

 ところが人物根付となると、途端に難易度が上がります。

「誰これ?」 「何してんの?」

意味不明のおじさんやお爺さんが突然登場する。 でも、少し勉強すると、これが一気に面白くなるんです。 人物が特定できた瞬間、根付が語り出す物語が見えてくる。 ここにハマって、人物ばかり集めるコレクターも少なくありません。特に外人コレクターが多いかな・・・。

 

■今回紹介するのは、僕のコレクションの一つ
 座っている男が、何かに剣を突き刺している。
顔は真剣そのもの。
ただならぬ恨みを抱えているようにも見える。

この場面、実はとても有名で、
「予譲裂衣図(よじょうれついず)」  
と呼ばれるものです。

江戸時代の絵画や彫刻にもよく登場し、僕の好きな寺社彫刻にもあります。神奈川県の龍口寺にある彫刻は、まさにこの根付と同じ場面。
馬に乗っているのは、主君の敵・趙襄子です。

 

■予譲とは何者か
 予譲は古代中国の晋の大夫・知伯に仕えた家臣。
主君が殺されると、その仇である趙襄子を討とうとします。

一度は忠義心を評価されて許されるものの、それでも諦めず再び襲撃を試みる。しかし果たせず、せめてもの思いで
「仇の衣を刺して志を遂げた」  
と伝えられています。

江戸時代の武士社会では、
「主君のために命を捨てる忠臣」  
の典型として扱われました。
 

■江戸の人々が予譲に惹かれた理由
 予譲の物語は、ただの忠義美談ではありません。
忠義を尽くしたが報われない

しかし志の純粋さは永遠に語り継がれる
この“悲劇の忠臣”という構造が、江戸の庶民に強く響いたのです。
『忠臣蔵』が大ヒットしたのと同じ理由ですね。

18世紀の『装劍奇賞』にも、予譲は「俳優」として描かれています。
当時の芝居小屋で、予譲の演目が人気だったのでしょう。

江戸文化の根底には、「忠義は報われなくても尊い」  という価値観が確かに存在していました。予譲はまさに、

「信念を貫く者の姿」
「義を重んじる生き方」  
を象徴する人物だったのです。
 

■現代の物語にも受け継がれる“信念を貫く者”
 この“信念を曲げない人物像”は、現代の物語にも強く受け継がれています。
最近、大ヒットした『鬼滅の刃』では、炭治郎が鬼となった妹を人間に戻すという“信念”を貫きます。
柱たちもまた、それぞれが背負う「義(正義・責任)」を胸に戦う。

例えば炎柱の煉獄杏寿郎。彼の“散り際まで信念を曲げない姿”に心を揺さぶられた人は多いでしょう。
江戸時代でも現代でも、
「信念を貫く者」  
は変わらず人々の心を掴み続けています。

 

■人物根付の醍醐味
 人物根付は、小さな彫り物の中に大きな物語が宿っています。
掌の上で、時代を超えた人間の情念が静かに息づいている。
そんな世界に触れられるのも、根付の魅力のひとつだと思います。
こういうのを知っちゃうと、根付コレクターってね、

やめられませんよ。((笑))

 そして今回の予譲根付には、実は“銘”についても興味深い点があります。次回は、この銘が何を意味するのか、どんな根付師が想定されるのか――
もしくは、浅草の煙管筒の面白い図柄についての考察でも良いかもしれません。ザ・美術骨董ショーで見た谷斎の煙管筒、明治という時代の雰囲気が煙管筒から薫り立つようでした。あの手の図案についてのそんな考察を少し掘り下げても面白いかもしれませんね。