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ルフラー教授とピア設計事務所の手がけたエコ建築(幼稚園)。社会教育の観点から、建物内に「ミニチュアの社会」を作っている。エコ建築であることはもちろん、冷暖房・給湯には太陽光と地熱を利用
東日本大震災の復興コンセプトとして、エコタウン構想が取りざたされている。
菅首相が「植物やバイオマスを使った地域暖房を完備したエコタウンをつくり、福祉都市としての性格も持たせる」と語ったのが4月1日。その後、松本内閣官房参与が「中心部はドイツの田園都市などをモデルにする」(13日)と述べるなどエコタウン構想が動き出したところだ(田園都市=エコタウンではないが、密接な関連がある)。
【他の画像:ゲロルズエッカー・エコ住宅地、ほか】
エコタウンといえば、世界に先駆けて取り組み始めたドイツを想像する人もいるだろう。実際、エコタウンとエコ建築の先進地ドイツから得られる知識やノウハウは多いはずだ。
ただ、一般市民にとってエコタウンのイメージは必ずしも明確でない。「自然エネルギーを利用し、人に優しいのだろう」といった大まかなイメージは浮かんでも、はっきりした輪郭はなかなか見えないように思う。
今回はドイツにおけるエコ建築の第一人者、シュトゥットガルト工科大学建築学部のアンドレアス・ルフラー教授※へのインタビューを通して、エコタウンの基本的な考え方を明らかにしたい。また海外でも多くのプロジェクトを手がける教授から、日本のエコタウン構想への提言もいただいた。
※アンドレアス・ルフラー教授(Prof. ANDREAS LOFFLER)は1954年生まれ、3児の父。カールスルーエ大学で建築を学ぶ。修士論文「多世代が住むコーポラティブハウスの設計」においてドイツ連邦建築省のコンテスト金賞受賞(1988年)した。1996年にピア設計事務所を設立。カールスルーエ大学教員(1985-90)を経て、1990年よりシュトゥットガルト工科大学建築学部教授、2007年より同学部長。主要研究テーマは「建物の最適な空調と技術的側面」。
●エコタウンのパイオニア
ルフラー教授はゲロルズエッカー・エコ住宅地の設計者であり、彼が代表を務めるピア設計事務所もこのエコ住宅地にある。
ゲロルズエッカー・エコ住宅地が完成した1993年当時、ドイツでもエコ建築やエコ住宅地はまだ実験段階で、住民、設計者とも試行錯誤を繰り返していた。ゲロルズエッカー・エコ住宅地はドイツだけでなく欧州の先駆的エコ住宅地として、世界各地から視察・見学グループが訪れる。
日本からの訪問者も多く、また建築学部の学生や研究者が日本と交流していることもあり、ルフラー教授の日本への思いは強い。
●「エコ」=ギリシャ語で「家計」
菅首相はエコタウンという名前を使ったが、世界的にはエコシティー、ソーラーシティーあるいはグリーンシティーという呼び方もある。この場合の「ソーラー」は必ずしもソーラーエネルギーに特化した街の意ではなく、再生可能エネルギーとエコの象徴として冠されたものだ。また、自然との共生に重点をおけば頭に「グリーン」と付けることもできる。
教授:「いずれにしても、エコタウンの最上位にくる概念は持続可能性です。その下に『エコ建築』『社会性』『自然とエコロジー』『交通』といった項目が続きます。ドイツでは入りませんが、日本なら『地震対策』がここに含まれますし、地域ごとに項目は違ってきます」
エコは家、家計、経済を意味するギリシャ語「Oikos」を語源とする。エコ建築を語る際は、家計や経済と同様に建設から取り壊しまで1つの閉じたサイクルとして考えなければならない。
教授:建築資材の生産には資源とエネルギーが必要になりますから、なるべく環境負荷が低くなるよう配慮しなければなりません。可能な限り自然素材の使用が望まれます。例えばセメントは生産時に多量のエネルギーを必要とし、世界全体でみると二酸化炭素排出量の7%を占めます。エコ建築ではなるべくセメントを使わないようにするのが基本で、日本ならば木材建築や土壁の伝統が生かせるでしょう。
さらに、建築工法にも省エネルギーの工夫ができますし、エネルギー消費のなるべく少ない建物を建てることが大切です。
なお、すでに建っている建物についてはトータルで考えなければなりません。つまり、新築すれば最高の省エネが達成できますが、新たな資源とエネルギーが必要になる。省エネ改修すれば資源とエネルギーは節約できますが、最高の省エネはできない。トータルで考えてどちらのメリットが大きいのか、あらかじめ検討するということです。
建築後は適時修繕が必要になりますから、修繕の利便性も考慮します。また日本ならば当然、耐震性が重要な要素です。将来、建物を解体する際の資材再利用やリサイクルについても設計段階から考えなければなりません。
資材の調達からリサイクルまで全体の循環の中で省資源化を考慮する必要があり、これは国や地域によって条件が異なります」
●自然と環境
教授:「もう1つのポイントは天然資源の有効活用です。
太陽電池や太陽熱温水器の設置はもちろん、冬に太陽光を多く取り込む間取りにすれば、暖房はほとんど必要なくなります。さらに、年間を通して温度がほぼ一定(15度程度)な地下の熱を夏は冷媒に、冬は熱源として利用します。地熱利用はドイツでも実用化の研究が進められており、大変大きな潜在能力が期待される分野です。
私はコロンビアの首都ボゴタでエコ建築プロジェクトに参加していますが、ここは夏冬の温暖差が激しく地震の多発する土地です。そこで改めて感じたことは伝統的な素材で建てられた木と土の建物が持つ優れた居住性でした。近代的なコンクリート作りの住宅は風の通りが悪くカビが生えてきます。それに対して伝統的な家屋は土壁が湿気を吸収し、天井に通気口があるため空気の流れが途切れません。また土の庭に打ち水をし、庭の木がほどよい木陰を作るので夏も快適に過ごすことができます」
冷暖房、給湯、照明、家電のエネルギーに、太陽光やバイオマスといった再生可能エネルギーを積極的に利用するほか、「太陽電池+ヒートポンプ」「コジェネレーション(熱電併給)+電気」といったシステムの最適なコンビネーションが鍵を握る。
ドイツと違い日本の夏は暑く冷房用のエネルギーが大きな部分を占めるが、ここでも再生可能エネルギーを有効活用できるという。
教授:「当大学では『ソーラー冷房』を研究しています。高温多湿な空気を吸湿材に通すと冷たく乾燥した空気に変えることができます。吸湿材が機能しなくなったら、今度は太陽エネルギーを使って乾燥剤を乾燥させる仕組みです。また冬に多量の氷を貯蔵して夏に利用し、水を循環させるのに再生可能エネルギーを使うこともできます」
エコタウンは、ある程度人口密度を高くし、建物はできるだけコンパクトに作らなければならない。これも基本原則の1つである。
自然空間がほしいからといって広大な土地を使えば、それだけで環境への負荷が高くなる。建物はコンパクトで質の高い集合住宅を基本とし、公園や広場を充実させる。クルマに頼らずとも徒歩と自転車で買い物を済ますことのできるショッピング街や公共施設の配置も基本だ。一戸建てが並ぶ住宅地に公共交通を効率よく通すことはできないので、ある程度固まって住むことが条件となる。
教授:「(エコタウンに関しては)まず理念を持ち、それぞれの地域条件に合わせて具体化することが大切です。よりよい将来を信じ、助け合いの精神を大切にしてほしいと思います」
これが教授から被災地に向けられたメッセージだ。
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