報われない保育士たちの運動会
楽しいはずの運動会。しかし、思い通りにいかなかったり、保護者から細かいことをチェックをされたりと苦労も絶えません。リレーで逆方向に走る子が絶対一人はいたりして、見る側としては楽しいんですけどね。
保育園には年間を通して様々なイベントがある。どれも子どもの心の成長や伝統行事を教えたりするのに必須だ。ただし、それを達成するには保育士たちの陰の努力があってこそのもの。
特に大きなイベントは大変で、夏祭りには縁日の道具を作り、ハロウィンでは園内の装飾に追われ、年度末の生活発表会では衣装作りや演目のレッスンで時間外労働が多発する。その中でも一番大変であり努力が報われないのは運動会ではないかと思われる。
園児の運動会は、小学生みたいに子どもが自ら動いてくれるとは限らない。保育士の思うようには動いてくれない。教えたとおりにやってくれない。「一糸乱れぬ」という言葉の真逆をやる。観客席から見るとそれが「可愛い」と映るのだろうが、裏方から見ると苦笑いを浮かべるしかない。
一番報われないのが衣装作りだ。保育園の運動会は競争だけでなくお遊戯も多く含まれる。保育士たちは一カ月以上前から衣装作り等の準備に追われ、裁縫のできる職員は調理師でまでも応援に駆り出される。
そして、可愛らしく華やかな衣裳ができあがるのだが、2歳以下の未満児はその魅力を活かすことができない。音楽が鳴っても園庭の真ん中で立ち尽くすのみで微動だにしない。せいぜい一人二人が手を動かすくらいで、ほかは呆然とするくらい。あんなに一生懸命作った衣装なのに……。保育士たちの努力を見てきただけに残念に思えてしまう。保護者はそれを知らないので、ただ単に「小さい子だから仕方のない可愛い行動」としか映らない。
大変なのは朝の迎え入れから始まる。通常の朝も子どもたちは母親から離れるのが嫌で大泣きするが、状況の違う運動会ではそれがさらにエスカレートする。普段泣かない子まで泣く。特に未満児の泣き方は異常なくらいで鼻水を垂らしながら大暴れする。2~3人の保育士では手が足りないので、私までも手伝いに駆り出されるほどだ。
以上児は愛想がなくなる。いつもなら私の顔を見て「先生~」と言って駆け寄ってくる子が無愛想だ。「おはよう!」と言っても無言か無表情。休日の朝はみんなこんなものなのだろう。
以上児が競技や演技をしている間、未満児はテントで控えており、そのときの私は面倒を見るためにその場にいるのだが、園庭を見ている余裕はない。テント内の子どもがどこに行くか分からないし、何をするか分からないからだ。
競技が終わるたび常に水分補給もしなければならない。1歳児を抱っこしながら、たいてい2~3人に絡みつかれることが多いので容易に動くこともできない。そういう状況のときに必ず被害を受けるのは自分の靴だ。
足下にいる子がおとなしいなと思ったら、靴に大量の砂をかけられたり埋められたりしている。いつの間にか靴紐をほどかれることもある。穿いていたハーフパンツのポケットにも砂を入れられるので油断も隙もありゃしない。
園児の中には毎年ADHDの子が一人はいるので、そういう子からも目が離せない。過去にもリレー中にテントから飛び出し、走っている子とぶつかりそうになったことがある。いきなりトラック内に入りゴロゴロ寝転ぶ子もいた。観客席からは笑い声が起こるが、保育士からすると気が気でない。
保育士は若い人が多いので、自らが参加するリレーでは真剣になる。その様子を見て、保護者からは「先生たちも必死になってやっている姿に感銘した」という評価があるものの、一方でこんな批判もあった。「強引にインコースから追い抜こうとするだけでなく、肘で相手を弾き飛ばそうとする先生がいました。見苦しいし、教育上良くないと思います」……そういうチェックまでされるのかぁ。
ハッスルしすぎて転倒して怪我をする人も必ずいる。男性保育士の中には鼻を骨折するほどの重傷を負った人もいる。そこまで頑張らなくてもと思うのだが……。
パートの保育士は年齢が高いので、運動不足や体力不足がたたり、肉離れを起こして翌日からの勤務ができなくなった人もいる。
ある園では「毎年一人は酷い怪我人が出る」というジンクスがあり、私もその厄をもらったことがある。普段から筋トレやウォーキングなどの運動をしているのでリレー中に転倒することは考えられなかったが、運動会開始前の設営準備でコンクリにつまずいて派手に転び、膝と臀部に大出血を伴う大怪我を負ってしまったのだ。かなりえぐれてしまい、後日医師からは「一生傷が残る」とまで言われてしまった。
リレーには血まみれの包帯を巻いたまま参加した。こんな傷で同情され棄権する訳には男として許されなかったからだ。幸いなことに、血は止まらないが走れなくはない。だが、この思わぬ怪我のため、リレー中に考えていた受け狙いができなくなってしまった。
自分の組がリードしていたら、途中で立ち止まり後続の走者にお尻ペンペンをして観客を笑わせるパフォーマンスを考えていたのである。だが、脚の怪我でそんな余裕がなくなり、ひたすら真面目に走るしかなかった。
後日この計画をほかの保育士に話したところ「やらなくて良かったかも」と言われた。あとで洒落の通じない保護者から「子どもが真剣にやっているのに、ふざけている先生がいる」と批判されたかもしれないからだ。やりづらい……勝敗など二の次の園児の運動会なのに……。楽しませることもできないのかと思った。
まぁ、そんなこんなでいろいろと考えさせられる運動会だった。

