若手の編集者君からこんな相談を受けた。
「彼女のことは好きなんですが、どうしても許せないことがあるんです。というのも彼女は僕といる時にいつもあくびをするんです。向かい合って話している時はそんなことはないんですが、一緒に歩いている時にふと横を見るとあくびをしてて。何かを一緒に見ている時もあくびをしてます。そんなに僕と一緒にいるのがつまらないのか、僕のエスコートがつまらないのかと思い、いつも不愉快な気分になっていました。そしてついに我慢の限界にきて怒鳴ってしまったんです。デート中にあくびは失礼だろうって! そんなに僕といるのが嫌なのかって! 彼女は、そんなことないと言って泣き出したんですが、どう考えても彼女の態度の方が悪いですよね?」
編集者君の言い分は分かる。確かにあくびをされた方は気分良くないよね。ましてや大好きな彼女だったらなおさらだ。だが、彼女のあくびは退屈からくるものではないと思う。いわゆる生あくびというものだ。
人間の脳は、血液中の酸素濃度が低くなると、脳にきちんと酸素を送れるようにあくびという動作を命令するのである。それをすることにより、顎や首の筋肉がほぐれ血液循環が良くなるからだ。つまり自己防衛本能が働いているということなのである。
彼女は、好きな編集者君といる間、常に楽しくリラックスしようと心掛けている。そのために集中力を途切れさせないように、あくびをすることで気持ちをハッキリ保とうとしていたのだ。向かい合って話をしている時には全くあくびが出ないのに、編集者君と目が合っていない時に出るのは、彼氏への想いを少しでも途切れさせないように努力している、彼女の自己防衛本能と考えられるのだ。
そのことを教えると、編集者君はすぐに彼女に謝りの電話をしていた。
全ての人の生あくびが、それに該当するとは言えない。本当に退屈なのかもしれないし、病気ということも考えられる。今回はたまたま彼女さんの人柄を知っていたので誤解を解いてあげることができたが。とりあえず、めでたしめでたし。
あくびは眠気や退屈な時だけに生じるものではない。心から安心できて緊張をしない相手といる時に出ることもある。あくびをされて怒る人がいるが、それはあなたが心を許せる存在であるという証でもあるのだ。
[編集後記]
退屈だとあくびが出るというが、私は一度だってそんな状況であくびが出たことはない。退屈=あくびという公式は必ずしも絶対ではない。