日常的に利用している電車ですが、電車の技術もその発展がめざましく、乗り心地、静粛性はどんどん向上しています。
 さて私は、電車の製造や運用に関わっているわけではありませんが、接合技術の立場から、電車の技術に触れてみたいと思います。
 まず、通勤形電車は、現在では、ほとんど、ステンレス、又は、アルミニウム合金で作られます。
 ステンレス車は、耐食性が極めて優れる反面、加工性が悪く、先頭車両の「顔」の部分は、鋼製で銀ペン仕上げが通常です。一方、アルミ車は、軽量、加工性に優れ、現在では、両面スキンの押出材を使うのが主流で、FSW(摩擦攪拌接合)を採用できるメリットもありますが、その反面、傷がつきやすい、電食が起こりやすいといったデメリットもあります。
 したがって、両者は一長一短で、首都圏では、ステンレス車が、関西圏では、アルミ車が主流です。首都圏でアルミ車を積極的に採用しているのは、メトロと、TXくらいでしょうか。先日名古屋から、刈谷まで乗車したJR東海の車両は、ステンレス車でした。
 さて、通勤形電車の価格は、おおよそ1両1億3千万円です。ちなみに大型ジェット旅客機が120億円程度、車が120万円程度ですから、車、電車、ジェット機の価格が、100倍づつ上がっていくといった感じです。
 近年の電車は、溶接痕が表面に出ないように溶接されます。古い電車は、溶接痕がはっきり見えますが、新しい電車は、ほとんど見えません。
 これに寄与しているのが、レーザ溶接と、FSWです。
 レーザ溶接は、細く収束されたレーザビームを、溶接線に沿って走査させ、溶け込み深さを調整しつつ溶接を行います。溶接幅が極めて小さいため、溶接線を正確に追従することが重要で、各社とも苦労しているようです。さらに、レーザビームの照射点では、母材が沸点を超え、蒸発した母材によるキーホールと呼ばれる穴が発生し、条件が悪ければ、ブローホールと呼ばれる欠陥が発生します。
 一方、FSWは、アルミ合金にしか適用できませんが、軟化状態で接合を行うため、溶接に比べ、熱履歴を抑えることができるというメリットがあります。さらに、レーザ溶接に比べ、音が小さく防音対策が不要というメリットもあります。