みなさま、初めまして。「とらぶる」といいます。
私は、機械部門(材料力学)の技術士ですが、仕事のほとんどは航空機の構造強度解析を行っています。そこで、今回の投稿もその航空機関係のお話をしたいと思っています。
しばし、与太話におつきあいください。
さて、航空機関係で、いま一番ホットな話題といえば、ボーイング787の飛行再開だと思います。
787はリチウムイオンバッテリーの発火により、耐空性改善通報が発行され、運航停止となっていました。今回は、その改修方法が決定したのを受けての飛行再開となっています。しかし飛行再開は決まりましたが、バッテリーの発火原因はわかっていないようです。現在も米国のNTSB(国家運輸安全委員会)が原因究明中です。早く原因が究明され、安心できる状況になってほしいものです。
ちなみに、耐空性改善命令(FAA:米国連邦航空局発行)や耐空性改善通報(JCAB:日本航空局発行)は、飛行安全にかかわる重大な欠陥などの修繕命令で法的拘束力をもっています。したがって、この命令が出た航空機は修繕が終わるまで飛行することができません。(旅客機が飛んでいった先でこれが出ると、現地での修繕が必要となります。)
また、飛行安全とは安全に飛行継続および着陸が可能であることです。極端なことを言えば、発火しようが、発煙しようが、機体構造や飛行に問題なければOKということです。
原因も究明されていないのに修繕方法が決まった787の場合は、この飛行安全が確保できたと認められたので飛行再開となったわけです。
私は、不具合などは分野に限らずとても役に立つ教材だと思っていますので、今回の787のバッテリー不具合についても少し調べてみました。簡単に今回の経緯を書いてみます。
経緯
2013年1月7日 日本航空の787で後方電気室の補助動力装置(APU)用バッテリーから発火
2013年1月16日 全日空の787が山口宇部―羽田を飛行中コックピット内に発煙を確認。高松空港へ緊急着陸。
2013年1月16日 米国FAAより緊急耐空性改善命令が発行され、787全機飛行停止。
2013年1月17日 日本の航空局からも耐空性改善通報が発行される。
2013年4月26日 米国FAAよりバッテリー改修に対する耐空性改善命令が発行。飛行停止解除。
2013年4月26日 日本の航空局からバッテリー改修に対する耐空性改善通報が発行。飛行停止解除。
飛行安全が確保できた修繕内容については、JALやANAのホームページに詳しく書いてありますが、簡単にまとめてみます。
ちなみに、JALやANAのホームページアドレスは以下の通りとなっています。
JAL:http://www.jal.com/ja/flight/boeing787/
ANA:http://www.ana.co.jp/share/boeing787info/
まず、問題のバッテリーは、機能的には飛行に影響を与えないものでした。
787は他機種より電気を多用しているため、操舵も電気モーターで行っていると勘違いしている人がいるようですが、操舵は他機種と同様で油圧を使用しています。
787が他機種と違うのは、他機種ではエンジンから抜き取った空圧を使用している部分(機内のエアコンや与圧など)を電気に代用させているという点です。しかし、この空圧の代わりに使用される電気や飛行中に必要な電気は、エンジンについている発電機からまかなわれています。つまりバッテリーを飛行中に使用することは非常時以外ほとんどなく、地上でエンジン停止時に機体で使用する電気をまかなうために使用しています。
今回の改修は、「セルの発熱防止対策」「セル間の伝播に対する対策」「機内への漏れ出し防止対策」の3点で構成されているようです。
具体的には、セルの固定方法の改善、耐火ケーブルや断熱材の使用、バッテリーケースを覆うステンレス製の密封容器の使用などがあるようです。
密封容器は、万が一セルが発火しても密封状態なので酸素がなくなり消火されるとのこと、また、容器内に煙が充満した場合は機外への排出口につながる弁が破裂することによって機外へ排出されるとのことです。
若干疑問なのは、煙が排出されるための弁が破裂した後は、そこから空気が入ってきて再発火につながらないかという点です。(過去にそのような不具合があったような気がします。)たぶん、その対策も講じていると思いますが・・・。
改修内容を見ると、当たり前のことが多く、なぜ最初からそこまで考えていなかったのか不思議に思えるほどです。特に、改修内容3番目の「機内への漏れ出し防止対策」は最初から考慮して設計をするべきでした。この「機内へ漏れ出し防止」ができていれば、今回のような飛行停止措置にはならなかったと思います。
そのように考えてみると、今回の不具合の一番大きな原因は、ボーイングのエンジニアがリチウムイオンバッテリーの性質について詳しく理解していなかった(または、甘く見ていた)ことになるかと思います。リチウムイオン電池は過去にパソコンや携帯などで発火や破裂の不具合が起こっており、そこから考えると最初からある程度の考慮が必要だと気が付いたはずだと思います。
では、この不具合から学ぶべきものを考えてみましょう。
この不具合には、今までと違ったものを使用するときの注意点が含まれていると思います。
まとめてみると次のようになると思います。
・初めて扱うものは、その利点、欠点をよく理解する。
・その品物の過去の不具合事例の調査。(リチウムイオン電池はパソコンや携帯で不具合事例がいっぱいあったと思います。)
・最悪なケースを想定し、問題が起こっても他へ波及しない方法を考える。
当たり前のことのように思えますが、現実問題として不具合が発生しています。世の中の不具合の多くが、当たり前と思われることが守られていないために起こっているのもまた事実です。
不具合を他人事と考えず、自分(自身の分野や製品)に置き換えて学んでいく姿勢も大切なことだと、私は思っています。