私は、主に生産設備(自動機)の設計業務を30余年間、おこなってきました。
これまで手がけたものは比較的多岐に渡っているように、勝手ながら思っています。
産業用ロボット(スカラロボット)の開発設計、自動車、家電部品、鉄道車両などの部品搬送や
組立(車軸圧入機、ねじ締め機など)が主な業務でした。
他に半導体製造装置(前・後工程)・液晶製造装置の搬送系、NC工作機械の加工ライン(FMS)
の構築・設計などを経験してきました。ただし、重工系などが手がける大型プラントの設計経験は
ありません。組立・搬送・供給・移載に関係したワーク重量は、数クラムのものから100数十トンの
サイズまで様々ですが、最も経験があるワーク重量は、数十から100キログラム程度です。
現在は、独立技術士として、一般企業の支援業務(民-民間)の他に、企業の技術支援(国の
所管機関)、学校では機械設計(主に機械要素)の非常勤講師をしています。
約1年2ヶ月前の自動化設備(大手自動車メーカに納品)の設計(構想、組図、部品図、パーツ
リスト、技術計算書作成など)を最後に、実設計から離れています。
仕事がら、今でも機械設計に携わる業務が多いのですが、現在の機械設計の本(教科書に
該当する本)の多くが、私が学生のときの教科書(=①と略)の内容とほとんど変わりがない
ことに大きな違和感を覚えています。
私の言う違和感とは、現在においても機械要素が中心であること(一辺倒といっても言い過ぎ
ではないこと)です。果たしてこれでよいのだろうかと考えるようになっています。
私の勤務する教育現場では、教科書から著しく逸脱した授業はできません。なので、機械設計
のほとんどが機械要素設計が中心であることに不自由さを感じています。
現在、ある国立大学では、機械設計の教科書として上述の①(初版本から約40年を経た教科書)
を使用しています。当然、時代の変化に伴い一部は改訂されています(主な変更箇所:工学単位→
SI単位、製図の項)が、主要な部分は、約40年前のままです。決して、古いから悪いと言っている
わけではありません。そればかりか、この本は、多くの書籍(教科書)の中でも機械要素の本として
は、大変優れているとさえ思っています。
私は機械設計をする際は、未だにこの本を見ることがあります。他の本にはない、実務に役立つ
ことが多く掲載されていますし、機械設計、製品設計の根幹にあたることにも的確に触れているから
です。ただし、機械要素が主体であることに違いはありません。
◆実際の機械設計と教科書の機械設計には大きな乖離がある
機械要素を商品として作るメーカーは別として、設計者は、特別な理由がなければ機械要素を
主体に考えて製品設計や装置設計を行うことはしないと思います。少なくとも私の場合は、7年ほど
前の1回を除いて、機械要素を主体に考えて製品設計や装置設計をしたことはありません。
その1回とは、客先からの業務依頼が「カム機構を使ったピック&プレース装置を設計して下さい。」と
の要請を頂いたときのみです。
多くの技術者は、Q・C・D・S・E(品質・価格・納期・安全・環境)+αを考え、製品開発や装置開発を
行うものと思います。具体的にはQ・C・D・S・E+αを念頭に置きながら、部品点数を極力を少なく、より
簡単な機構・構造にすること、また、堅牢でメンテナンス性がよい機械の構築・設計などです。
機械設計の手順には、ベストではなくともベターな優先順位があると思います。
大雑把に言えば、俯瞰的な視点から、細部の検討をすることが王道であり、細部から全体への
展開を考える場合は、すでに全体が分かっていて部分的な改善でよい場合など、極めて特殊な
事例だと考えます。新しい製品開発や装置開発の場合は、細部から検討をすることは、まずしま
せん。すなわち、このことは機械要素から装置全体を思い描くことをしないということを意味します。
機械要素の出番は、全体構想の後半部になります。例えば、動力を伝達方法を考えなければ
ならない段階になって、いくつかの候補の中から仮の機械要素を選択します(この時点では最適
なものか否かは判断しません)。例えば、仮にローラーチェーンを選定後、最終的にタイミングベル
トに変更することも少なくありません。
機械要素は、機械製品や生産設備機械を全体とした場合、その一部に過ぎません。
また、文字通り、大切な機械の要素ではありますが、部分であり、全体ではありません。
私は、装置設計をする際は、全体を考えてから部分へ、部分からまた全体を見直すことを繰り返す
ことで、思考に破綻や不備がないかを検討してきました。
自動機の機械設計する際の優先順位の1番は、客先仕様を満足させることです。一般ユーザ向け
の商品(製品)設計の場合は、売れる商品作りを考えた設計が重要でしょう。ユーザーに買って頂き、
使い続けて頂くことで、よい製品か否かの結論が出ます。この結論はユーザーが決めるものであり、
決してメーカが決めるものではありません。よい設計とは、ユーザーが再び同じメーカーのものが買い
たいと思えるもので、かつ、ユーザーとメーカーの双方に利益があるものを設計した場合であると考
えています。
よい機械設計を実現するためには、機械要素は大切ですが、機械設計≠機械要素設計という認識
が必要だと考えます。すなわち、次世代の機械設計の教科書は、機械要素とを切り離し、機械設計の本質について深めた内容にしていくべきではないかと言うのが私の考えです。
本稿では、次世代の機械設計の教科書構成についてまでは言及できませんでしたが、次回に投稿
の機会がありましたら、私案を述べ、皆様のご意見を賜りたいと考えております。