ピコンッ♪

 

ピコンッ♪ピコピコンッ♪

 

 

さっきから聞こえる携帯の音

 

 

 

「・・・ チャンミンのじゃない?」

 

「え?あ・・ すみません、じゃあ」

 

 

席を離れ、携帯を確認する

 

 

「ああぁぁぁぁ~~~」

 

 

思わず奇声をあげてしまった

だって、すっかり忘れていたから。

 

 

さっきから鳴り続けているラインの音は

同じ会社の女性からのもので

 

ボクは今日、彼女と映画を見に行く約束をしていた

 

ということを。

 

 

 

 

「どうした?」

 

 

振り返ると、あの人が怪訝な表情をこちらに向けている

 

 

「何かあったのか?」

 

 

「あ、えと・・ 今日、約束をしていたことを忘れてました・・」

 

 

「え?」

 

 

 

そうだった、そうだった

 

彼女から、映画に誘われたのはずいぶん前だったから

うっかりしてた・・・

 

彼女からのいくつかのラインの中にも

ちゃんと覚えているか?と問うものもあった

 

 

僕はリュックへと着替えを詰め込んで

忘れ物はないか、考えてみる

そして・・

 

「ごめんなさい、今日は買い物にはつきあえなかったです。」

 

 

あの人にそう謝ると

 

 

「しょうがない。先約がいたってことだろ?」

 

 

「あー、はい。」

 

 

笑って、まるで何でもないことのように言われたことに

なぜか胸の奥が反応して

 

僕はこのあと

 

余計なことまで言ってしまった

 

 

「・・・彼女と映画を見る約束をしてたんです」

 

 

「・・・・」

 

 

 

一瞬

 

ほんの一瞬だったけど

あの人の顔が驚きの表情でかたまったように見えた

 

ような気がした

 

 

けどそれは、気のせいだったかもしれない

 

だって本当にほんの一瞬で

すぐに穏やかな笑みに変わったから

 

 

「そうか。なら、早く行かないとな」

 

 

「ええ。すみません、じゃあー」

 

「あぁ・・」

 

 

 

リュックを持ち、バタバタと早足で玄関へと向かうと

 

後ろから足音が聞こえる

 

 

あの人が、僕を見送ってくれようとしているのだ

 

 

あー、もうやだな

僕は今、何を考えてるんだろう?

 

何を期待してるんだろう?

 

 

背中にあの人を感じながら

僕は振り返るのさえ、嫌だった

 

 

「ごちそうさまでしたっ・・ じゃあー」

 

 

それだけ言って、乱暴に靴を履くと

玄関の重い扉を開けた

 

ガチャ

 

 

 

「・・・ 気をつけて」

 

 

 

バタン

 

 

・・ じゃあまた、って言ってくれなかった・・

 

閉まったドアを背に

そんなことを考え

 

ぶるぶると頭を振ると

僕は駆け出した

 

 

 

 

 

 

途中

 

 

 

知っている人が運転する車とすれ違ったことなど

 

 

気がつかないほど夢中で駆けていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ 靴、忘れてる」

 

 

 

玄関の端にチョコンと置かれたサイズの大きなサンダル

 

しゃがみこんで片方を手に取った

 

 

 

「・・・ シンデレラみたいだな」

 

 

くすっ

 

 

「あ、あれって片方だったっけ・・」

 

 

 

 

 

そのとき

 

再び、ドアが開く音がしてー

 

 

ガチャ

 

「あれ・・?開いてる?」

 

 

東郷がびっくりしながら入ってきた

 

 

もしかして戻ってきてくれたのか?なんて期待した自分は

さぞかし間抜けな顔をしていたんだろう

 

 

「・・・ 出迎えです?」

 

 

そういって、東郷は声を上げて笑った

 

 

「なわけないだろう?」

 

「ですよね?あれ?どうしたんです?彼・・ さっきすれ違いましたけど

買い物?いや、ひとりで行かせるわけないか」

 

「・・・ おまえは何をしに来たんだ?」

 

「何をしに、ってひどいなぁ~ 昨日仕事、終わらせたんですよね?今日受取に行きます、ってメールしましたよね?」

 

「・・・ 早すぎるだろう」

 

「でも彼、いないんですよね?」

 

「待ってろ、とってくる」

 

「あれ?上げてもらえないんですか?」

 

「・・・・ 勝手にしろ」

 

「お邪魔しま~~す」

 

 

 

後ろからついてくる足音

 

なぜだろう

 

この足音の方が耳慣れているはずなのに・・・・

 

 

 

 

 

「ほんとに彼、帰っちゃったんですか?」

 

 

 

俺は東郷の質問には答えずに

さっき落とし込んだデータを無造作に差し出した

 

 

「こんなに頑張ったのに・・・」

 

 

それを受け取りながら東郷がつぶやく

 

 

 

 

「彼女とデートだそうだ。」

 

 

「えっ?」

 

 

「映画の約束をしていた、と言ってたかな・・・」

 

 

「・・・・・・・」

 

 

 

 

さっきまで俺を茶化していた東郷が途端に静かになった

 

気味が悪い

 

 

 

「そんな相手が・・ いたんですか・・・」

 

 

 

「・・・ みたいだな」

 

 

 

「じゃあ言わないんですかっ?」

 

 

 

「何を?」

 

 

「何を?って、本部長がー」

 

「東郷!」

 

 

俺は、ここには俺と東郷の、たったふたりしかいないのに

 

東郷の言葉を遮った

 

 

 

「社長に伝えてくれ。あの話、進めてもらって構いません、と。」

 

「ええっ?そんな・・ いいんですかっ?だって・・・」

 

「構わない」

 

「本部長・・・ 本当に?」

 

 

「あぁ・・。元々、俺のわがままだったんだ・・・」

 

 

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(画像、お借りしました。それにしても本当に美しい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~~、想像してたよりずっと面白かった!」

 

「ですね・・」

 

「うそばっかり!チャンミン、ずっと寝てたじゃない!」

 

「・・・・・・」

 

 

 

バレてましたか

 

映画を見終わり、彼女が大きく伸びをしながら言った言葉に

ボクが返したやりとりだ

 

 

「ごめん。僕も見たいと思っていた映画だったから寝るつもりなどなかったんだけど・・」

 

「寝不足だった?」

 

「いや、そういうわけじゃ・・」

 

「罰として、夕食、奢ってよね?」

 

「・・・・ わかった」

 

 

 

同じ職場の同僚である彼女とは、何かと気が合って

たまにこうして映画を見に行ったり、興味のあるイベントには

一緒に足を運んだりする仲だった

 

恋人、と呼ぶほどでもなく

かといって、単なる友達かと言えば

それはまた・・・

 

違うであろう彼女の好意は感じ取っているつもりだった

 

それなのに何も言わない僕は男として情けないというか

ずるいのかもしれないが

 

できれば彼女とはずっとこのまま・・・

 

このまま・・?

 

 

 

 

「・・ミン? ねぇ、チャンミンってば、聞いてる?」

 

 

「え?あ、あぁ、ごめん。なに?」

 

「ひど~い。ほんと、どうしたの?今日はずっと上の空って感じ・・

もしかして、具合いでも悪いの?」

 

「いや?・・あー、でもごめん。やっぱり今日はこれで帰ってもいい?

食事はまた今度、ごちそうするから」

 

 

ダメだ

 

今日は全然楽しくない

 

 

「ええーー。今日は話したいことがあったのに・・・。

でもそうか、具合い悪いのならしょうがないよね、うん」

 

 

別に具合が悪いわけじゃないんだけど・・・

という反論はやめておいた

 

長くなりそうだから

 

 

「ごめんね、ほんと・・。じゃあー」

 

「えっ?もう?送って・・くれないの?」

 

「え?だってまだ明るいし・・ ゴホッ・・」

 

「あ、ごめんごめん、チャンミン、具合い悪いんだった」

 

ゴホゴホッと続けて咳込んでみた

 

 

 

あ~・・

ほんっと、僕ってずるい・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

 

 

玄関で靴を脱ぐと

そのままリビングまで行き

ソファの横にリュックを投げ置き

次に自分の身体を放り出した

 

ソファにずぶん、と沈みこみ

大きく息を吐いた

 

「ハァ~~・・」

 

何だか久しぶりの我が家のような気がする・・・

 

 

 

「お?チャンミナ、帰ったのか?」

 

「父さん・・・」

 

 

ゆっくり現れたのは、父さんで

 

にぎやかな他の家族の声はしない

 

 

「母さん・・たちは?」

 

 

「母さんはヒジュと買い物に行ったよ。ジスはデートだとか」

 

「あ~・・」

 

 

そうか

てっきり何か問い詰められるのかと思ってたから

ホッとした

 

 

「昨夜は本部長と一緒だったんだって?

母さんが変なことを言ってたが・・・」

 

 

と思った矢先

向かいのソファに座った父さんから問いかけられた

 

変なこと?

あー、もうっ、母さん!何を言ったんですかっ

 

 

「あのっ、父さんっ・・ ごめん、実はー」

 

 

僕は父さんに、すべて話した

 

 

あの人には、僕が男だということはバレていて

たくさんくる見合い話を避けるために

つきあっている女性がいるふりをしてほしいと言われた、ということを

 

 

黙って聞いていた父さんは

ボクの話が終わると

頭をひねり始め

 

 

「本部長に・・ たくさんの見合い話がくるからって?」

 

 

不思議そうにそう聞いてきた

 

 

「うん、そう言ってたけど・・ 違うの?」

 

「ジスと見合いをさせてほしいと私の上司を通して言ってきたのは

本部長の方だぞ?

だから、断ったらきっと大変なことになるって上司に脅されて・・」

 

「・・・・・」

 

 

あれ?

 

そういえば・・・

言われてみればそうだ

断ったらクビになるって

とりあえず参加することに意義がある、って・・・

 

 

「だから、てっきり本部長はジスのことをご存知なのかと思っていたのだが

女装したお前を気に入ったとか言われるから、いったいどうなってるんだ?って」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

確かに・・。

 

 

「でも父さん、そう思ってたのに、よく僕を女装させて連れて行ったね?」

 

「あのときはもう、とにかく夢中だったんだよ」

 

「・・・・・・・・」

 

 

しかし・・・

 

どういうことだ?

あの人がヌナとのお見合いを?

 

 

だとすれば、あの人は・・・・

 

 

そうか!

ヌナのことをすごく好きだったんだ!!

 

でもボクが現れたもんだからきっとびっくりして・・・

 

ヌナと親しくなりたくてボクと仲良くやろうと思ったが

ボクがー

 

ヌナは結婚するって言ってしまった・・・!!

 

 

ああーーーっ

なんてことっ!!

 

あの人、絶対ショック受けたに決まってる・・!!

 

 

 

「・・・ チャンミナ?」

 

 

 

 

それなのに・・・

 

だまそうとしたボクにあんなにやさしくしてくれて・・・

 

 

 

ヌナだって

 

あの人に会ってたら絶対、好きになってたはずだ

 

 

 

「父さん、ヌナは?」

 

「え?だからデートだってさっき言っただろうー」

 

「あの人をヌナに会わせてあげようよ、ヌナだってあの人とちゃんと会って一緒に過ごしたらきっとー」

 

 

 

ボクが父さんにそう詰め寄っている最中

 

 

「ただいま~、あら、朝帰りチャンミンだ!」

 

 

当の本人、ヌナが帰ってきた

 

 

「ヌナっ!ちょうどよかった!今っー」

 

「こんにちは、初めまして・・」

 

 

振り返った僕の目に

 

ヌナの隣で緊張しているのか強張った表情で立っている男の人がうつった

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく・・・・

 

 

 

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はい、お久しぶりの『恋煩い』です

 

どうでしょう?

 

色々思うところあるかと思いますが・・?(笑)

 

 

つっこみどころ満載のお話です