第52話
 
国防総省内の合気道体験会に、遅れて現れた甘川老人は
「いやー、遅れてソーリー・ソーリーこの子を迎えに行ったら
交通事故渋滞に巻き込まれてしまったわ」
着替えを済ませていた甘川老人は道着と白帯姿のステラを
下座に待機させた
質疑応答中を察した甘川老人は畳中央に進み投げられた教官に
「なあー、この人は筋書き通りに投げてくれなかったのか?
それでは痛くて当然だな」
甘川老人は参加者を一望するとキャリア層に女性も居る事を確認した
そして、女性に問い掛けた
「夜道の一人歩きや電車内の痴漢はどうかな?日本も物騒だ
西側国も同じと思うがどうかな?」
そして、甘川老人による暴漢や痴漢対策の護身術による
模範演技が始まった、最後はステラに畳に上がる様に言った
甘川老人は参加者に痴漢役または、暴漢役、ひったくり犯役
どれでも構わないから是非と思う人は挙手を提案した
すると選抜された軍隊の教官は我先に挙手をして争った
甘川老人はステラの白帯のレベルを説明して体験が始まった
同じ西側国人同士のため指名された教官は軍隊経験から
舐めた調子でステラを襲った
結果は説明するまでも無く教官はあっさりと畳に投げ飛ばされた
甘川老人は参加者の女性キャリア層へ助言した
稽古を積めば小柄の若い女性でも痴漢の撃退は出来る事や
女性はハンドバックを持っていたら、それをブン回してやれば
相手のどこかに当たるかも知れないから有効と説明した
大統領もステラが大統領官邸の護衛官になる前の訓練センターの
出来事を思い出して「そうだ思い出した、あの時の女性訓練生だ
大統領護衛官を制圧したあの技が合気道というものか凄いな」
大統領も前のめりになって合気道の模範演武を見学した
その模範演技を見ていた大統領の娘のサラは
「ねえ、パパ、あの女性はステラじゃないの?そうよ、ステラよ」
サラはステラに気付くと見学席の最前列に陣取って興奮気味に
「ステラは凄いね、兵隊さんを投げ飛ばして強い・強い」
突然の見学席から思わぬ掛け声が飛び込んで来たので
ステラはサラと気が付くと、口に人差し指を立てて静かにを求めた
おじいちゃん先生はサラが座っている見学席に歩み寄って
「お嬢ちゃん、それは違うぞステラが初めて語学留学で日本に来た時は
ホームシックになって毎日部屋で声を出してピーピー泣いとったぞ
そんな事では西側国の銃社会で生活するのも大変だと思ってな
おじいちゃんがステラの首根っこを掴んで部屋から引きずり出してな
おじいちゃんの仕事場の合気道場で『泣いとる暇があるなら毎日稽古だ』
朝早く起きて学校へ行くまでと、学校が終わると寝るまで、それも毎日だ
おじいちゃんがステラに合気道を通して日本語を教えてやったぞ
語学留学が終わって西側国に帰国する直前まで稽古したぞ」
サラは通訳からステラの稽古の日々を聞かされると
「ステラがそんなに凄いならサラにも合気道を教えて欲しい」
ステラは下座で座っていた所から立ち上がり見学席まで来た
「ダメよ、私は合気道の指導は出来ないのよ」
 
                            つづく