むかし、むかしその昔

大好きな彼に会いたくて

いきなり電話して、お家にお邪魔したことが

ありました。

彼は起きたばかりだったようで

パジャマ姿でした。

「部屋でちょっと待っててね」と言うと、

お手伝いさんが作った遅い朝食を慌てて

かっ込み数分後、部屋に入って来ました。


彼は、すぐさまスティックを持ち

マリンバの演奏を始めたんです。

壁際に置かれたマリンバ。

彼は背を向けたまま奏でています。

素敵な音色です。私のために

マリンバを奏でてくれました。

とても贅沢な素敵な時間です。


演奏を終え、くるりと向きを変え

ニコリと笑顔を見せます。

私も笑顔を返します。

とても素敵な演奏でした。

ありがとう。

昨夜も遅くまで練習してたのでしょう。

目の下にクマができてます。

髪もベートーベンみたいよ。うふっ

今日も1日、練習日のようです。

言わなくてもわかります。

完璧に仕上げたいでしょ。

これ以上、お邪魔してはいけないわね。

演奏会を聴いたあと、すぐに帰りました。


彼は音楽家では、ありません。

家にマリンバを持ち込み、

日々、練習に励んでいたんですね。

天才と呼ばれた彼でしたが、

見てないところでは何倍も頑張っていました。


いまも、マリンバの音色を聴くたび

ふっと、初恋の淡い思い出が甦ります。