9日木曜の夜公演と12日日曜の昼の公演を観て来ました。我らが村田寛奈が出演する音楽劇です。

ホントは木曜日だけの予定だったのですが、僕の推しである村田寛奈がとても良かったのと舞台の雰囲気が好感触だったので、ひとつ追加して観に行った次第。

 



まずは総論から。

物語の求心性という意味では、今回の物語の構成は前シリーズよりも弱くなっているのではないか? と感じました。アクション映画で言えば、絶体絶命の状況を設定して、有無をも言わせず物語を進める展開、という意味で。

でもでも!

舞台の雰囲気はこれまでよりも好き。
物語上の仕掛けは少なめですが、そのかわりに、役者たちの動きはバランスが良く一体感を強く感じます。それは僕の好み。

また、前作までが男芝居的な要素が強かったのが、今回は女性芝居的な要素が増えていた気がします。

男芝居、女芝居という単純な言葉で端折りましたが、
キーになるセリフの多くが女優たちによって発せられることで、柔らかい雰囲気が生まれていたのかも。勢いは減っているのかも知れませんが、バランスが良くなったように感じるのも、そこが原因だったのか?

とにかく終始、舞台上の雰囲気は暖かく幸せで、どの役者も前向きなオーラを纏っているように感じました。

これはもしかしたらコロナ禍の影響によるものも大きかったのかも。

舞台人にとって、客を呼んではいけないという状態は地獄です。そんな中でやっと舞台に立てる状況となり生み出された作品。みんなきっと悲しいほどに真剣だったはず。この気持ちを残して、さらに良い状況のなかで芝居やパフォーマンスを続けてほしいところ。


と、総論はそんなところで各論。



なにより、まずは我らが村田寛奈。

芝居が始まってすぐに驚いたのが村田寛奈演じる恩田未来の雰囲気。

恩田未来は、前作から引き続き登場する役柄。前作では、自身の思いとは異なる状況で歌うポジションを得たことで声を出せなくなってしまった少女という設定。
そのためか恩田未来の内面に向けられた演技が多い構成でした。

今回の舞台で見る恩田未来は、初登場のシーンから春の日だまりのような暖かさ、優しさを纏っています。まずそこで驚き。
また、さまざまなシーンのなかで自然にリードをとるような立ち振舞。その姿に明日への希望を感じて、舞台の雰囲気もファンとしても、とても心地良い雰囲気。

ここ数ヶ月、村田寛奈が大人感を漂わせ始めたのはファンの間では了解事項になっていましたが、彼女は、いつからこんな素敵な雰囲気を纏って芝居するようになったのでしょう。

と、最初はその変化を村田寛奈自身の成長と感じて喜んでいたのですが、
よく考えるとそれが理由ではなかったのかも。


村田寛奈は、役柄に近づく芝居を心がけるタイプ(と想像)。
それはこれまでの僅かな言説から感じていましたが、その思いは、僕が考える以上に厳密で真摯な芝居へのアプローチだったのかも知れません。

舞台の進行を観ながら、前作の恩田未来と今作の恩田未来を見比べると、
そこには恩田未来という役柄の成長過程があるようです。
(もちろんこれは脚本段階での芝居の構成にも仕組まれていることだとは思います)

前作で恩田未来を捕らえていた“鎖”は解かれました。その結果得られた新たな力を恩田未来はなんのために使うのか? 次の行動はどうなるのか?

村田寛奈がその点を突き詰めることで選ばれた佇まいこそ、今回の恩田未来の姿なのではないか。また、今作の恩田未来の姿をみることで、前作の恩田未来の思いもさらに深まるように感じました。

 

これは村田寛奈の成長というような曖昧な表現で理解していけないのではないか。結果的には村田寛奈の成長があったとして、彼女の演劇技術への評価として、正しく理解すべきではないか。

見事! やるじゃん! うまいじゃん! 進む道は間違ってないじゃん!


そう思い直した次第。また、村田寛奈にとっても、コロナ禍にあって、仲間を得て共に舞台に立てる喜びがあったことでしょう。その心情を恩田未来にうまく乗せることができたように感じます。





ただ、時として役柄に入りすぎると、それに縛らすぎて動きが小さくなることがあります。2回めの観劇で、後方の席から見ている時に、それが少し気になりました。脚本と演出がしっかりしていれば問題なしですが、必ずしもそうならないことのほうが多い世界なので、遊びの要素と技術も磨いておいてほしいところ。

今回の役柄と演技プランがうまくハマっていたためか、音楽劇の音楽のシーンやアフターライブでの村田寛奈の動きも、とても魅力的でした。素直に感動。

いや、素直じゃないか。
2時間も舞台と客席を暖め続けたあとのライブなので、そのまま、この迫力と感動を信じて良いのか。これではずしたら大騒ぎだよ、と自分の頬を伝わる涙にツッコミを入れつつ感動していました。

俺、猜疑心が強すぎか、よほど不幸な育ちなのか。



ついでに、今回で気になった登場人物に関しても少し。

主役のダンスの男性。
なかなかのステップ。ふんわりとダンスに入る感じが素敵。
それでいて勢いを増していくと舞台全体にうねりを与えるような力強さ。
あの感じは、舞台の雰囲気にも影響を与えたのではないでしょうか。

あと、もしかしたら、ダンスの流派? 動きの癖? は、村田寛奈と似ているのかも。
二人のダンスももっと見てみたい気がしました。

ただ、セリフ回しはもったいないところ。あれだけ素敵なバランスで踊る彼なのに、セリフではテンションを上げるためのプロセスが不安定な印象。彼のダンスのようにもっとコントロールしてほしいところ。


赤いチェックシャツのギターの女性も印象に残りました。
後半の恩田未来とのやりとりで僕の涙腺が緩んだのは、彼女の雰囲気によるところ大。
ギターを弾く姿から一転して、朴訥な雰囲気の芝居が、村田寛奈の生真面目な芝居とマッチしてグッと来ました。


予想以上に良かったのが、まなみのりさのみのりさん。
動きが良い。

コント的なシーンがいくつかあるのですが、それがなかなかの収まり具合。
まさか芝居の舞台で、こんなに動けるとは想像していませんでした。
きっと、まなみのりさの舞台で3人きりで観客を盛り上げるために考えてきたことが役に立っているのでしょう。

ある意味、村田寛奈とは逆のアプローチなのか。村田寛奈は役に近づくタイプとするなら、みのりさんがやっているのは役を自身に近づける感じ。経験が少ないからこそ、その中で役柄を活かす工夫だったかも知れません。それはそれで正解。生き生きとした雰囲気が、伊藤玲という役柄に存在感を与えているように感じました。

最後に、主人公のダンサーの相方役の人。
この人、なかなか難しい役どころ。ダンスがちょっと下手に見せなければならない役で、それでいて、後半には、かなり巧いじゃんってところも見せなくちゃならなくて、良い人でいながら、悪い面も見せなくてはならなくて。。。。

でも、その面倒な役柄をちゃんとやりきっていました。いい感じ。今回の舞台のキーを最後までしっかり握っていました。見事。

物語の構成では気になるところもあったけど、もしかしたら、それがまた次回の伏線になっているかも知れないので、次回、8月公演を楽しみに待ちたいところ。