《櫻井ジャーナル》
トランプ大統領が米軍をシリアから撤退させるという情報が事実ならクルドは苦境
2018.12.20本ブログでも繰り返し書いてきたことだが、ダーイッシュやタハリール・アル・シャーム(アル・ヌスラ)といった戦闘集団はアメリカなどが編成したサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団を主力とする傭兵にすぎない。
その傭兵の歴史はジミー・カーター政権までさかのぼることができる。同政権の国家安全保障補佐官だったズビグネフ・ブレジンスキーはアフガニスタンへソ連軍を誘い込み、そこでゲリラと戦わせるというプランを立てたのだ。
戦闘集団の主力はサウジアラビアが送り込んだサラフィ主義者やムスリム同胞団。現地の同盟相手はパキスタンの情報機関が選び、アメリカは戦闘員を訓練すると同時に携帯防空システムのスティンガーや対戦車ミサイルのTOWを含む武器/兵器を供給した。西側の政府やメディアはこの戦闘員を「自由の戦士」と呼んだ。これは「テロリスト」の別名。
ブレジンスキーのプランをカーター大統領が承認した1979年7月、アメリカとイスラエルの情報機関に深く関係している人々がエルサレムで「国際テロリズム」に関する会議を開いている。それ以降、その会議の参加者は「テロリズム」の黒幕はソ連だと宣伝しはじめた。
アメリカなどは2011年春からジハード傭兵を使った侵略戦争をリビアとシリアで始めるが、その年の10月にリビアのムアンマル・アル・カダフィ体制を壊滅させ、カダフィ自身は侵略軍に惨殺された。その際、NATO軍とアル・カイダ系武装集団LIFGの同盟関係が明確になってしまう。しかもリビアで戦った傭兵がシリアへ運ばれていることも発覚する。そこで使われ始めたのが「穏健派」と「過激派」、つまり「良いアル・カイダ」と「悪いアル・カイダ」が存在するという主張。
勿論戯言だが、アメリカ軍の情報機関DIA(国防情報局)も2012年8月にその事実を政府へ報告している。シリアで政府軍と戦っているのはサラフィ主義者、ムスリム同胞団、アル・カイダ系のアル・ヌスラ(報告書はAQIと同じと指摘している)であり、「穏健派」などは存在しないとしている。
しかも、オバマ政権が反政府軍を支援し続けるなら、東部シリア(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配国が作られる可能性があると警告していた。この当時のDIA局長がマイケル・フリン中将で、トランプ大統領は国家安全保障補佐官に据えたが、すぐに解任された。
2014年に入るとDIAの警告はダーイッシュという形で現実になる。フリンがDIA局長を解任されたのはこの年のことだ。
フリン中将は2015年8月にアル・ジャジーラの番組へ出演、報告書でサラフィ主義者の支配国が出現すると警告していたにもかかわらず、ダーイッシュの出現を阻止できなかった責任を問われる。
それに対し、自分たちの任務は提出される情報の正確さをできるだけ高めることにあり、その情報に基づいて政策を決定するのはバラク・オバマ大統領の役目だとフリンは回答している。ダーイッシュを出現させた責任はオバマ大統領にあるということだ。
アメリカ軍はそのダーイッシュを攻撃するという名目でシリアでの空爆を開始、住民を殺害し、インフラを破壊、その一方でジハード傭兵へは物資を「誤投下」していた。当然、ダーイッシュの支配地域は拡大し、首都のダマスカスも危ない状況になった。
2015年に入るとオバマ大統領は国防長官や統合参謀本部議長を好戦的な人物へ交代させるが、9月30日にロシア軍がシリア政府の要請を受けて軍事介入、ダーイッシュなどジハード傭兵を敗走させた。その直後にロシア軍機をトルコ軍機が待ち伏せ攻撃で撃墜しているが、そのトルコも後に謝罪、今ではロシア側へついている。
ジハード傭兵の壊滅を受け、アメリカはクルドと手を組む。クルドがアメリカ支配層の口車に乗ったわけだ。クルドの支配地域にはアメリカ、イギリス、フランスの軍隊が軍事基地を建設、居座る姿勢を見せていた。
それに対し、トランプ大統領は今年(2018年)3月にアメリカ軍をシリアから引き揚げる意思を明らかにしたのだが、アメリカ中央軍、サウジアラビア、イスラエルなどは反発する。結局、このときは撤退しなかった。
今回の撤退情報は2度目。これが実現するとクルドは厳しい状況に陥る。クルドはシリア政府を裏切った代償を支払うことになると見られている