企業参謀 | One of 泡沫書評ブログ

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企業参謀 (講談社文庫)/大前 研一

¥470
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はじめに正直に告白しておくと、後半はややこしくて頭に入ってこなかった。これがいわゆる戦略コンサルタント的な発想法なのであろう。初版は1985年だというから、じつに今から25年も前からこのおっさんはこんなことをやっていたわけだ。グラフやら図やら多用しているので、おそらく標準的な読者からすると「やさしい」部類に入るのではないかと推測するが、絵を見ても理解が及ばないわたしは、コンサルタントにはまったく向いていないという現実にorzするのみだ。

本書で面白いと思ったのは第三章である。「戦略的思考方法の国政への応用」と題して、あるひとつの外交問題をケースとして取り上げ、問題を分析し解決策を考えるという思考実験をしている。大前研一の思考方法がよくわかる面白い読みモノなのだが、わたしはこのような”いわゆるMBA”的な(と言っていいのかどうかもわからないが)思考方法がものすごく苦手で、途中の論証はいちいち飛ばして読んでしまった。次々と出てくる大前シンキングの前にただ圧倒され、「おれが担当者だったら、こんな頭の回るコンサルタントに出てこられたら困るなぁ~」などという無為な感想を抱いただけであったが、こうしたロジカルに理屈を詰めていくのは確かに「出たとこ勝負から脱却するために」必要であろう。

また第五章も、「これはつい最近書いた文章なのではないか?」と思えるほど、日本の状況を的確に描写していておもしろい。立ち読みするなら五章だけでも読むことをお勧めしたい。



以上、すでに述べたとおりこの本は古い本だが、大前研一を一躍有名にした当時のベストセラーである。戦略的思考を仕事に使おうとしている人は読んでみて損はないだろう。なにしろたったの470円である。

それにしてもこの内容で470円とは、じつに本というのは安いメディアであると改めて思う。昨今、電子書籍、電子出版が脚光を浴びているが、この喧噪とは無縁のひとも多いに違いない。まとまったかたちで日常的に読書をする層というのはおそらく全体の2割もいないだろう。年に数冊活字を読むのはまだいい方で、ほとんどまったく本を読まない人が国民の大半ではないだろうか。文庫本の場合は500円前後なのだから、どんどん買って斜め読みし、最悪面白くなければブックオフに売ればいいのに、と思う。



さてここからは恒例の人物評である。面倒な方は飛ばしてください。

大前研一は非常にすぐれた戦略家であると思う。最近のコラム「まともな税制議論ができない日本は「絶滅種」」などを読むと、もう一度国政に出てくれまいかとすら思う。だがかれは「平成維新の会」を立ち上げて東京都知事選に出馬した際、青島幸男氏(いじわるばあさんの人ね)に完敗を喫し、億単位で私財を失ってしまったらしい。その際に多くの知人もかれのもとから離れていったと聞く。そのせいか、かれはもう二度と政治家になろうと思わないと明言していたように思う。たしかに90年代に「道州制」を主張するなど、今から考えても先進的すぎて、とても一般市民はついていけなかっただろう。

細かい点はいろいろと突っ込みどころがあるのだろう。たしかにかれはときどき変なことを言うこともある。だが、大前研一の最大の特長は、コンセプトをまとめあげ、ビジョンを提示する能力にある。教育者に徹する、などと言わないで、とりあえず前言撤回して、どさくさまぎれに参院選に出馬してみてはどうか。そのまま内閣に入ればなかなか面白い仕事ができるのではないか。などと無責任な発言をして、この稿を終えるw