小説「Jet Black Light-漆黒の光」 1-3「会長」 | 魂の占い師 ネプテューンのブログ

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この小説は

 

 

の続きです。

 

小説「Jet Black Light-漆黒の光」  1-3「会長」

 

夜8時、宿泊先のホテルの地下にあるレストラン「Lumière noire」

VIPルームには4人の男たちが顔を揃えていた。

ウルフ、イングランド支部長のベーカー、副部長のニューマン、

そして通称「ジュニア様」と呼ばれている会長…しかしジュニア

様とは言うものの、もう若くはない。40代半ばで髪は薄く、運動

不足と不摂生で頬の肉は弛み垂れ下がっており、青白い顔に

充血した虚ろな目が痛々しい印象を与えていた。ウルフは

ジュニア様に何度もジムに通うように勧めたが、元来無精な

性格なので、3日と続かなかった。しかも深酒と女癖の悪さは

相変わらずのようだ。

「ええ、諸君、それではジョンソン首相との会談成功を祝って

乾杯しよう」

会長がシャンパンのグラスを掲げると、ベーカー支部長も

頷きながら言った。

「会長、ジョンソンにYESと言わせたのは大きな一歩ですよ」

「では、乾杯!」

男たちはグラスの中の泡立つ液体をグッと空けると満足げな

笑みを浮かべた。

「しかし、ジョンソンは驚くほど素直でしたね」

ニューマン副部長が言うと会長が笑いながら応じた。

「半永久的なロックダウンを承諾したんだ!これは新たな世界

の幕開けだ」

「会長、これで苦労して英国をEUから分離した価値が

ありましたなぁ」

ベーカーは二杯目のシャンペンに口をつけると感慨深げに

頷いた。すると黙って聞いていたウルフが口を開いた。

「ベーカー支部長、しかし、ロックダウンに反対する者達が

黙ってはいないのでは?」

「ウルフ君、その対策は充分考えてある。まずひとつは、デモ隊

や反対集会の中でクラスターを発生させることだ。もしも効果が

低かったとしてもSNSで騒げばすぐにパニックになるだろう。後は

テレビや新聞でさらに恐怖を煽れば充分だろう」

「そうです。今後はベーシック・インカムの導入もセットで進め

ますから、『逆らう奴には金を支給しない』と脅かせば99%は

黙るでしょう。残りの1%はつまり国家に対する反逆者という事

ですから、あらゆる法廷措置を取って黙らせます」

ニューマン副部長は自信ありげに語った。

「ニューマン君、君の働きは本部でも評判だよ。イングランドの

ロックダウンが成功したら、次はスコットランドかアイルランド

かね?」会長はフォアグラのテリーヌを口に放り込み、白ワイン

でグッと流し込んだ。

「いや、会長、スコットランド人は、かなり抵抗するでしょうね。

アイリッシュの方がまだ良いかも知れません。あるいは、場所を

変えてアジアでトライするのも良いでしょう。日本などは島国で、

丁度良いかも知れません。国民も従順ですし、アジアでの作戦

でしたら私にお任せください」

本部長のベーカーは、部下のニューマンが持ち上げられたので

挽回しようと、自己アピールに必死だった。

ドアが開きメイン・ディッシュの「鴨のオレンジソース添え」が

運ばれて来た。

「これはいい匂いだ。諸君、しばし感染症の話はやめて、この

料理を味わおうではないか。それと、赤ワインを頼む」

会長が言うと、一同は黙々とナイフとフォークを動かした。

沈黙を破ったのはウルフだった。

「そう言えば会長は以前、日本にいらっしゃいましたよね?」

「ああ…3年ほど前に行ったよ。京都やフジヤマや色々見て

回った。女性達も素晴らしいね」

(また、女の話か…しょうがないな)

ウルフは内心舌打ちしながら話を続けた。

「で、会長、その時、当時の首相と一緒にお会いになった

人物を憶えておいでですか?」

「あっ…ああ、あの老人か。うむ、もちろん憶えているよ。

我々の良き理解者だ」

会長は、焦った時の癖なのか鼻の横をしきりとこすった。

ウルフはかまわず続けた。

「もしも次のターゲットを日本にするなら、あの老人に頼むの

が早いと思いますが…」

「そ…そうだな。父にも意見を聞いてみよう。ええと、日本の

支部長は今は誰だったかな?」

「はい、昨年からモリタと言う者が就任しています。まだ30代

で若いのですが、かなりのやり手です。牡羊座で少々強引な

ところがありますが、今のような戦時には彼のようなタイプの

方が向いているでしょう。もしも日本にいらっしゃる場合は、

私も同行させていただきます」

するとベーカー本部長が薄ら笑いを浮かべてウルフに言った。

「ウルフ君、君の…そのアストロロジーとやらだがね、どうな

んだろう…私はあまりピンと来ないのだがね。何かビジネスに

プラスになるのかね?」

「お言葉ですが、本部長、私は日頃から様々な人物の性格

分析や運の流れを見ながらビジネスをしておりますよ。

ちなみに、本部長、今月はあなたの健康面のリスクが高まって

いますから、ご注意ください」

「な…何でわかるんだ?私を監視しているのかね?」

ベーカーは2日前に病院で検査を受けたばかりなので、

少々うろたえていた。

「いやいや、監視などとんでもない。本部長の太陽に火星が

乗って来ているんですよ。事故やトラブルにもご注意ください」

すると会長がフォークをウルフの方に向けて言った。

「そうだよ!ウルフ君の分析は当たるんだよ。この前、占って

もらった女性はまさに君の言うとおりのBitchだった。いやあ、

驚いた」

「会長、以前も申し上げましたが、女性にはくれぐれも

お気をつけください。見かけでは判断できない場合も多い

ですから」

会長は困ったような顔をしてグラスをグッと空けた。

「いやあ、参ったな。ウルフ君、君を毒味係に雇いたい

くらいだよ。わははは」

会長が笑うと皆声を揃えて笑った。

「さて…と、みんな今日は良くやってくれた。ありがとう。

私はそろそろ部屋に戻るよ」

会長は席を立とうとした。

するとベーカー本部長が手を挙げて言った。

「あっ、会長、ひとつ付け加えますが、ジョンソンは

一旦規制を緩めてから、作戦を実行すると秘書官から

連絡が入りました。つまり感染者が急増したタイミングで

一気にロックダウンを実施するとのことです」

「なるほど、それは良い考えだな。了解したと伝えて

おいてくれ」

会長は立ったまま答えた。

「それでは、諸君、今夜はゆっくり休んでくれ」

会長は少々ふらつきながら、ボディガードに支えられ

エレベーターに向かっていった。

ウルフ達3人はレストランを出てホテルのロビーに

上がった。ベーカー達にパブに誘われたが、ウルフは

それを断り外に出るとタクシーに乗り込んだ。

降りた場所は「エッジウェアロード」。相変わらず

ケバブの匂いと雑多な言葉の飛び交う異世界だった。

ウルフはなぜか昔からこの雰囲気が好きだった。きっと

前世はアラブ系だったのかも知れない。

ぶらぶらと通りを5分ほど歩き、そして、緑色の屋根の

ケバブ屋の前に立つと店の奥に進み、インターフォンに

向かって言った。

「マッサウルヘイル(こんばんは)」

 

※このストーリーはフィクションであり、実在の人物・団体とは無関係です。