その男㊷
ついに24時間を切った。
24時間×13日
約312時間のホテル生活(ホテルに居続けているわけではない)をすごしたということだ。
それに比べると、残り24時間なんてすぐだ。
しかしだ。
ちょっと時間が足りないかもしれないぞ。
「その男」の残り1年ちょっとを振り返るには。
あと、、、5~6回くらいの更新となるだろうか?
42回更新を続けてきたのだから、それくらいはいけるだろ。
13年間続けてきたブログなんだから、あと少しくらい続けられるだろ、「その男」よ。
帰国をしてからも何も変わらなかった。
年末、「その男」の地元で例年のようにFISレースが開催された。
この直前。
「その男」は風邪を引いてしまった。
2日ほど練習ができず、大会前日には練習復帰。
そんな中で走れるわけがない。
ただでさえ走りの感覚が悪いのだ。
初日のクラシカル。
いざレースを走っても案の定体がキツイ。
それに加え、走りの感覚も悪い。
10位だった。
いつ以来だろう。
「その男」の地元で表彰台を逃すのなんて。
翌日のスケーティング。
15位。
表彰式で名前をよばれることすらなかった。
都合がよかったのかもしれない、「その男」にとっては。
風邪を引いてしまったことが。
「「その男」は、風邪を引いてしまって調子が悪かったから、この順位だったんだ」
そう思ってくれる人がいたかもしれないからだ。
風邪を引いて調子が悪かったのは事実だ。
しかしそうじゃないんだ。
風邪による調子の問題じゃないんだ。
単純に速く走ることができないだけなんだ。
速く走ろうとすればするほど、体が遅れる。
速く動こうとすればするほど、腰が落ちる。
スキーに乗ることができなくて、体の方向が定まらない。
それを感じているのに。
それをわかっているのに。
どうしたらいいのかわからないんだ。
このシーズンの札幌は例年にない雪不足。
そのため、年末年始は「その男」の地元にもどり、練習をした。
ただでさえ家族と会える時間がわずかだったが、それがさらに減った。
どうにかして取り戻したかった。
気持ちよく走っていた日々を。
楽しく走っていた日々を。
残念ながらそれはやってこなかったが。
「修行僧「その男」、今日も絶好調!」
大概にしろ。
札幌の雪不足は解消されず、FISレースは中止に。
残念な気持ちはもちろんあった。
それよりもほっとした気持ちのほうが強かった。
「よかった、馬場と宮沢に負けずに済む」
自信なんて皆無だった。
1月中旬からは2ピリに向け出国。
チェコ・ノベメストでのワールドカップ。
年末年始を「その男」の地元で過ごし、とにかく練習に集中をした。
その成果が問われる場だった。
初日15㎞スケーティング。
何も変わっていなかった。
「その男」が2周目に入るとき、馬場がスタートして一緒になった。
ムキになってついていった。
「舐めんな」
離れなかった。
しかし、馬場の後ろからスタートした選手に抜かれて、その選手についていく展開になったところでペースアップ。
「その男」は一気に離れてしまった。
38位に終わった。
翌日
15㎞クラシカル、パシュート。
前日のタイム差でスタートしていく形式だ。
急に違和感が。
レース前のスキーテストの時に。
スキーを履いて、動き始めた一歩目。
「肩が痛い」
だが、ウォーミングアップなどをしないで走り始める時には温まるまで痛く感じることはあった。
それと一緒だろうと思ったが、時間が経過しても変わらない。
大丈夫だろうと思い、ウォーミングアップへ向かった。
全く痛みが引かない。
むしろ増しているように感じた。
スピードを上げて心臓を煽ろうとしたが、肩が痛くて押せない。
コース上に立ち尽くした。
「どうするんだ?これで出場しても痛くて押せないぞ。いや、レースになれば集中して痛みも忘れるはずだ」
しばらく葛藤した。
もう一度スピードを上げてみる。
やはり押せない。
「棄権」を選択した。
この時、ワールドカップのスタート回数は100回を超えていた。
初めてのことだった、棄権を選択したのは。
キャビンでコーチに棄権すると伝えた。
悔しくて涙が出た。
号泣した。
昨夜の事だ。
夢を見た。
ローラースキーでダブルポールをしている夢だ。
良いポジションで押すことができていたのだろう。
自然と踵が浮いていた。
体も浮くように軽かった。
押し切ったポールを、ジャンプするように前に戻すとき。
現実の世界では、「その男」はベッドの外に落ちかけた。
落ちかけた体を支えようと手を出した時に、ついた場所が悪かったのだろう。
これで肩を痛めていたのだ。
とことんうまくいかない。
走りが悪い。
レース前に風邪を引く。
レース前に怪我をする。
さて、仕上げはなんだろうか?
翌週。
オーベストドルフでのワールドカップ。
スキーアスロン30㎞だ。
この会場は世界選手権を翌シーズンに控えていた。
レースが始まる。
屈辱的なレースが。
開始数百メートル、会場をでてからすぐの上りですでにきつかった。
過去最短で集団から離れたのではないだろうか。
あっという間に「その男」は後方に落ちていった。
必死に体を動かしても、練習ペースよりも少し早いくらいにしか感じない。
スキーの選択も完全にミスをしていた。
クリスター、ボックス両方のスキーをワックスマンが用意をしてくれ、テストした。
「その男」が選択したのはボックススキー。
いざレースとなると、なかなかグリップが効かない。
コースの外で開脚することがほとんどだ。
念のために言っておきたいようだが、そのテストをしてスキーを選んだのは、「その男」自身だ。
クリスターのほうがよかったと判断できなかった「その男」自身に問題がある。
スケーティングになっても、何一ついいところはない。
相変わらず練習ペースよりもちょっと早いんじゃないかというくらいだ。
ずっと一緒に走っていた選手にも、最後のスパートでちぎられた。
61人中54位。
7分21秒遅れ。
50㎞レースのようなタイム差だ。
馬場は17位
わずか55秒遅れ。
ワックスキャビンに戻ると、馬場の10番台に沸いているように見えた。
その中で、
「肩大丈夫でしたか?」
トレーナーの近藤さんが心配してくれた。
「肩は全く問題ありません、大丈夫です」
事実だ。
肩の痛みはすっかり消えていた。
問題があったのは自分自身の走りと、スキー選択判断だ。
そのことにいら立っていた。
心配して聞いてくれた近藤さんの質問に、声を荒げそうになったのを必死にこらえた。
着替えをする部屋に戻って、気持ちを落ち着かせた。
着替えていると近藤さんが入ってきた。
「肩大丈夫ですか?」
トレーナーということもあり、誰よりも肩を心配してくれた。
だが
キレた。
「肩は関係ない!ただ俺が遅かっただけで、肩は痛くないってさっきも言ったじゃないですか!」
心配してくれる優しさを拒絶してしまった。
その夜の食事。
ご存知だと思う。
「その男」は食べるのが大好きなことを。
大食いなことを。
必死だった。
さほど量の多くないパスタを食べきることに。
「食べ物がのどに通らないというのはこのことか」
あんなにおいしくなく感じるパスタを食べたのは初めてだ。