HYBEとミンヒジンとの闘争はどうやら長期戦となりそうで

その間、BTSはスケープゴートのようにずっと利用され続けるのでしょうか


 

世界的な人気アーティストBTSが所属する「K-POP帝国」HYBEのお家騒動が、ついにBTSにまで被害をもたらしている。


 K-POP界最大のファンクラブともいわれるBTSのファンクラブ「Army(アーミー)」は最近、新聞にHYBEを糾弾する意見広告を掲載したり、HYBEの本社ビルに謹弔花輪を送ったりするなど、HYBEグループのお家騒動がBTSの名誉を著しく傷つけていると抗議し、HYBE側に積極的な対処を強く求めた。


 5月3日、中央紙の『中央日報』と経済紙の『毎日経済』に、全面広告の形でアーミーの声明文が載った。彼らはこの声明で、HYBE内部で起きた騒動のあおりで、事態と無関係なBTSが誹謗と中傷にさいなまれるなど多大な被害を受けているとし、HYBEを糾弾すると同時に、積極的な措置を要求した。


 具体的には、ADOR(アドア)との紛争において、BTS を利用するメディア・プレイ(メディアを利用して有利な世論を作り出す戦略)を中止することと、BTSに対する攻撃や陰湿ないやがらせに対して直ちに法的対応に乗り出すことを求めた。


 また同日、HYBEの本社ビルには、黒いリボンをつけた数十個の謹弔花輪が配達された。リボンには「BTSの脱HYBEを祈る」「業界1位の無能な所属事務所」等の文が書かれていた。本社ビル前の道路では「アーティスト保護は一体いつ?」等の字句が書かれたデモトラック2台が周回しながらアーミーたちの抗議を代弁していた。


 4月22日、傘下に11個のレーベル(レコード会社)を率いているHYBE側は、その一つであるADORレーベルのミン・ヒジン代表を相手に、「経営権簒奪の謀議を捕捉した」として監査権を発動した。


 すると、ミン代表は「バン・シヒョクHYBE議長がプロデュースした5人組新人ガールズグループの‘ILLIT(アイレット)’がNewJeans(ニュージーンズ)をコピーしたと問題を提起すると、私を追い出そうと罠を作り出した」と主張し、両者の攻防が始まった。


 以後、ミン代表とHYBE側は所属アーティストを巻き込みながら泥沼争いを続けているが、ついにBTSにまでこの戦いの流れ弾が飛んでしまったのだ。


BTSを狙った攻撃が本格化した背景


今回の紛争でBTSの名前が本格登場したのは、「ミン・ヒジン代表がBTSも自身の手法をコピーしたと主張した」という記事が出てきてからだ。


 ミン氏が「ILLITがNewJeansのコンセプトや振り付けなどを盗用した」と主張すると、ネット上では二つのグループを比較する動画が広がり、「似ている」という意見が多かった。すると、「ミン代表が過去から数多くのK-POPの人気アーティストたちが自身の創作物をコピーしたと言ってきた」という記事が登場し、ここにBTSの名前も取り上げられた。


 記事はBTSを例に挙げたことでミン氏がひどく自己中心的なナルシスという印象を与えたが、業界関係者発で出てきたこの記事について、多くのネットユーザーはHYBE側のメディア・プレイを疑った。


 その後も、ミン氏が記者会見を予告すると、HYBEは緊急報道資料を配布し、「ミン代表が呪術に依存した経営をしてきた。シャーマンにBTSを軍隊に送るための呪術行為を頼んだ情況もある」と主張した。一方、ミン氏は記者会見で自身の潔白を涙で訴えながら、BTSに関する記事内容を全面否認した。


 まず、BTSが自分の創作物をコピーしたと主張したことがないと言った。BTSを軍隊に行かせるため呪術を頼んだという主張に対しては、「BTSが軍隊に行けば、NewJeansにより多くの予算が割り当てられるかもと判断し、知人のシャーマンにBTSの入隊可否を尋ねただけ」と話した。


 2時間にもわたるミン氏の25日の記者会見では、放送コードに適合しない卑俗語が多数登場したり、自身の行為を正当化するためにHYBE所属のLE SSERAFIM(ル・セラフィム)やILLIT(アイリット)の活動まで問題にしたりするなど、不適切な部分も多数あったものの、少なくともK-POPの主消費層である若い世代の世論を動かすことには成功した。


 K-POPのファン層が、業界トップという強大な力を利用して裏からメディア・プレイで攻撃してくるHYBEより、毅然と大衆の前に立って自らの声で悔しさを訴えるミン氏に同調し始めたのだ。


 そしてこの記者会見以後、韓国のインターネット上ではHYBEと所属アーティストに対する誹謗と中傷が一層激しくなり、BTSを狙った攻撃も本格的に広まった。


宗教疑惑とアルバム買い占め疑惑


まずは、BTSが「タンワールド」というカルト宗教団体と関連があるという主張だ。「タンワールド」は瞑想呼吸・器体操修練団体だが、韓国プロテスタント協会はカルト宗教と規定している。


 BTSとタンワールが関連があるという主張は、BTSのメンバー7人のうち6人がダンワールドの創始者が設立した「グローバルサイバー大学」を卒業したという内容だ。また、BTSのヒット曲「進撃の防弾」の韓国語バージョンには、「みぞおちに力を入れて丹田呼吸」という歌詞が出てくるが、これが該当団体の教理だという指摘だ。


 これらに対してBIGHIT MUSIC(BTSが所属するレーベル)は、噂の作成者と流布者などを刑事告訴し、タンワールド側も「わが団体は宗教団体ではない」とし、陰湿な攻撃には法的な対応をとると表明した。たが、ネット上にはいまだBTSがタンワールドと関連があるという無数の書き込みや証拠という写真が広がっている。


 さらに深刻な噂は、かつてHYBE側(当時のBIGHIT)が某業者に依頼して、BTSアルバムの買い占めを行ったという疑惑だ。アルバム買い占めとは、新曲の人気順位を高めるためにアルバム販売量を人為的に操作する行為で、業界の公正な競争を害するということで2016年に「不法」と規定されている。


 K-POP業界をはじめとする韓国の音楽界では現在も、所属事務所による買い占め疑惑がしばしば提起されており、BTSも過去に買い占め根絶キャンペーンに参加した履歴がある。このようなBTSに買い占め疑惑が提起されたのだ。


 2015年、ある人物(以下A)が、「便法」(不法ではない)マーケティングを依頼したことを暴露するとHYBEを脅迫して告発された事件があった。2017年に事件の判決が下されたが、その判決文によれば、裁判所は、HYBEがA氏に便法マーケティングを依頼したことを認めていて、「買い占め」という単語も出てくる。


 HYBE側は「買い占めという単語はA氏の主張をそのまま引用したに過ぎない」と主張しているが、法曹界では「裁判所が買い占め行為を認めたと解釈できる」という主張も出て意見が分かれている。


 BIGHIT MUSICは、買い占め主張に対しても刑事告発で対抗しているが、すでに政府の文化体育観光部に「疑惑を明らかにしてほしい」という苦情が受け付けられたことが分かり、攻防はしばらく続くものと見られる。


 さらに、この請願人は、2015年のアルバム買い占め疑惑だけでなく、2016年の音源(音楽サイトでDLされたりストリーミングされたりするデジタル音源)買い占め疑惑まで提起したと報道された。


泥沼の戦いはいつまで続くのか


このように、BTSの名誉を失墜させるための噂が一波万波に拡散されていることに対して、アーミーたちがHYBEを相手に組織的な抗議に入ったのだ。K-POPは広義の大衆ではなく、熱狂的なファンによって支えられているファンビジネスであるだけに、HYBE側もアーミーの総攻撃にはかなり頭が痛いことだろう。


 さらに、最近発表された第1四半期の悲惨な業績もHYBE株主たちの不満を買っている。時価総額8~9兆ウォンと言われているHYBEだが、第1四半期に営業利益144億ウォン、当期純利益29億ウォンという売上激減の成績表が出た。株式討論サイトでは「背任を犯した人物はミン・ヒジンではなくパン・シヒョク議長」という糾弾が続いている。


 エンターテインメントビジネスでは所属アーティストたちのイメージが何より重要なだけに、HYBEとしては一日も早くこの泥仕合を終わらせなければならない。だが、HYBEが要請したミン氏解任のための株主総会招集は、ミン氏の側近で固まったADOR理事陣の拒否で、裁判所の判断を待たなければならなくなった。


 裁判所で株主総会招集命令が出るまでおよそ2ヵ月程度かかる見通しだ。さらにHYBEがミン氏を背任疑惑で告発した事件も、最終判決までには2、3年かかると観測され、泥沼の争いが早期に収拾される可能性は低い状況にある。


 ここまでくると、BTSが作り上げた「HYBE帝国」が、BTSのイメージを深刻に毀損しているというARMYたちの主張も、かなり説得力があるように思えてくる。


金 敬哲(ジャーナリスト)