米探査車が火星着陸に成功! ☆生命の痕跡調査へ
米航空宇宙局(NASA)は8月5日夜(日本時間6日午後)、火星の生命の痕跡を調べる過去最大の探査車「キュリオシティー」が火星の赤道付近への着陸に成功したと明らかにした。
今後、約2年かけて火星に生物が存在できる環境があるかどうかや、過去にそのような環境があったかを調べる。
着陸は、上空に浮遊する母船からワイヤでつり下げ「史上最高の難度」とされる新手法。NASAは、大気圏突入から着陸まで「恐怖の7分間」と呼んでいたが、無事に乗り切った。(共同)
〔記事は以上です。Sourced by 毎日新聞 2012/08/06〕
大量のオリンピック報道に紛れてあまり注目されないかも知れませんが、日本時間の昨日、8月6日(月)14時31分、アメリカの火星探査車〝キュリオシティ〟(好奇心)が8ヶ月半の飛行を終えて火星に無事着陸しました。

スカイクレーンにつるされて火星に降下するキュリオシティ
Image Credit: NASA/JPL-Caltech
アメリカがこれまでに火星に送り込んだ3台の探査車 ソジャーナ(マーズ・パスファインダー)、スピリット、オポチュニティ は、単純で安価なエアバッグ方式で火星表面に「落とされ」ていましたが、今回のキュリオシティは複雑な手順のスカイクレーン方式で火星表面に軟着陸します。この込み入った方式の概略と、なぜこの方式が採用されたのかについて、以下の資料に説明があります:
Strange but True: Curiosity's Sky Crane (奇妙だけれど本当です: キュリオシティのスカイクレーン)
この資料の主要部分の概要の翻訳です:
〔Sourced by 「宏観亭見聞録」〕
〝マーズ・サイエンス・ラボラトリー〟(火星科学研究所)という名でも知られるキュリオシティは、地球以外の惑星に着陸する探査機としてはこれまでで最大です。キュリオシティが大きいのは、それが解明しようとしている謎が大きいからです。その謎とは ?? 火星はかつて生命を宿していたのか、あるいは現在も生命を宿しているのか ?? です。
火星に安全に着陸するために、キュリオシティを乗せたランダーは惑星間飛行速度である時速1万3000マイル(2万1000km)から時速1.5マイル(2.4km)まで減速しなければなりません。
総重量1トンの観測機器をこのように減速するには、複雑な手順を精確に遂行する必要があります。重要な役割を果たすのは 白熱状態になるヒートシールド(熱遮蔽板)、巨大なパラシュート、76個の爆発ボルト、そして、スカイクレーンです。
ジェット推進研究所で大気圏突入・降下・着陸の副責任者を務めるスティーブ・セル氏は次のように語っています。「火星の大気圏への突入から火星表面への着陸まで、すべては7分間で終わります」、「ランダーに搭載したコンピューターがすべてを指揮します。複雑な手順のうちの一つでも失敗すればゲーム・オーバーです」。
ゲームの計画は次のようなものです。
スカイクレーン 火星探査車キュリオシティに取り付けられている8つのロケットエンジンからなるジェットパック を搭載したカプセルは、火星の大気との摩擦によって時速1万3000マイル(2万1000km)から1000マイル(1600km)まで減速します。この時、カプセル底部のヒートシールド(熱遮蔽板)は、大気との摩擦によって華氏3800度(摂氏2100度)の白熱状態になります。続いて直径60フィート(18m)のパラシュートが開きます。このパラシュートはカプセルと長さ160フィート(49m)のラインで結ばれています。ヒートシールドが投棄されると、カプセル内部のキュリオシティは下に広がる新たな住処を初めて見ることになります。
このパラシュートは、地球外に送られたものとしては最大・最強で、キュリオシティをつり下げた場合に生じる6万5000ポンド(約30トン)の力に耐えることができるスーパーシュートと言うべきものです。
時速200マイル(320km)まで減速すると爆発ボルトによってパラシュートが切り離され、スカイクレーンは1秒間の自由落下をします。続いて逆噴射ロケットが点火します。
逆噴射ロケットは降下速度を時速1.5マイル(2.4km)まで低下させるとともに、横方向の力を加えて、より速い速度で落下してくるパラシュートを回避します。
スカイクレーンが火星の地表から60フィート(18m)まで降下すると、蜘蛛が糸を伸ばすように、3本のナイロン製ロープにつるされたキュリオシティが少しずつ下に向かって下ろされます。スカイクレーンは、キュリオシティを20フィート(6m)下にぶら下げた状態で降下を続けます。キュリオシティが地表に接触すると爆発ボルトによってロープが切断され、キュリオシティは外部との最後の物理的接続を失います。スカイクレーンは飛び去り、火星の赤い砂に突入して、その驚くべき使命を終えます。
びっくりするぐらい複雑にみえるかも知れませんが、「複雑にみえるシステムが実際には火星着陸をシンプルにしているのです」とセル氏は説明します。
バイキング1号、バイキング2号、マーズ・フェニックス・ランダーなどのミッションでは、逆噴射ロケットを使いながら高度を下げ、着陸脚を使って火星表面に降り立ちました。その他のミッションではエアバッグが使われました。キュリオシティにはそれらの方法が使えませんでした。
「キュリオシティのように大きなサイズの場合、(強力な逆噴射ロケットが必要となるため)逆噴射ロケットは大量の埃を舞上げて探査機やその搭載機器を危険にさらします」とセル氏は説明します。「そのようなリスクに加えて、(着陸装置の上に探査車を搭載する方式では)キュリオシティのように大きく重い探査車が着陸装置から傾斜路を通って火星表面に下りる際の危険もあります」。
それらのリスクを、パスファインダー、スピリット、オポチュニティはエアバッグを使うことによって回避しました。しかし、キュリオシティはエアバッグを使うには大きすぎました。
[訳注: 探査車本体の重量は、ソジャーナ(マーズパスファインダー)が10.5kg、スピリットとオポチュニティが174kg、キュリオシティは950kgです。]
「キュリオシティの着地をやわらげるのに十分な大きさのエアバッグは、打ち上げるには重すぎ、また費用もかかりすぎます。それに加えて、エアバッグが着地の負荷に耐えられるように非常にゆっくりと落下させる必要がありますし、キュリオシティが車輪を下にした姿勢でエアバッグが静止する必要もあります」。
セル氏は、キュリオシティにとってスカイクレーン方式は理にかなっていると語っている。しかし、今でも彼は心配で夜も良く眠れないでいる。
スカイクレーン方式は複雑な手順のどれか一つでもうまく作動しないと(Zero Margin of Error)、25億ドル(約2000億円)を投じたプロジェクトが水泡に帰します。すべては、キュリオシティが火星大気圏に突入してから着陸するまでの7分間で決まるということで、関係者はこの時間を〝恐怖の7分間〟(Seven Minutes of Terror)と呼んでいます。
百聞は一見にしかず、以下の
動画をご覧ください。スカイクレーン方式による火星着陸や、着陸後の探査活動が描かれています。高精細の動画ですので、全画面表示で見ることをお勧めします:
Mars Science Laboratory Curiosity Rover Animation (完全版=11分20秒)
http://www.youtube.com/watch?v=P4boyXQuUIw
Mars Science Laboratory (Curiosity Rover) Mission Animation (短縮版)
http://www.youtube.com/watch?v=BudlaGh1A0o
Curiosity's Seven Minutes of Terror (キュリオシティの恐怖の7分間
)
http://www.jpl.nasa.gov/infographics/infographic.view.php?id=10780
以下は、キュリオシティの着陸手順を1枚にまとめた
画像です:
Mars Curiosity landing sequence from start to stop
Curiosity EDL timeline
キュリオシティが火星に着陸するとき、火星から地球までの距離は2億4800万kmあり、キュリオシティの発した電波信号が地球に届くまで13.8分かかります。
うまくいってほしいとは思いますが、なんど考えてみても、すべてがうまく行くとは思えません。着陸時にキュリオシティと地球の間の通信を中継することになっている火星周回衛星〝マーズ・オデッセイ〟が、7月11日に原因不明のセーフ・モードに陥るということがありました。現在は正常に復帰しているのですが、不吉な前兆のように感じます。
キュリオシティが搭載している観測機器のうち、私が注目しているのはChemCam(Chemistry and Camera)です。これは、探査車から7mの範囲内にある物体にレーザー光線を照射して蒸発させ、その時に発する光を分光分析して物体の成分を知る装置です。
以下はキュリオシティがその装置を使っている様子の想像図です。もし現場に火星人がいたら、キュリオシティを攻撃的・敵対的な侵略者と見なすかも知れませんね
Curiosity's ChemCam instrument can vaporize rocks (キュリオシティのChemCamは岩石を蒸発させることができる)
米航空宇宙局(NASA)は8月5日夜(日本時間6日午後)、火星の生命の痕跡を調べる過去最大の探査車「キュリオシティー」が火星の赤道付近への着陸に成功したと明らかにした。
今後、約2年かけて火星に生物が存在できる環境があるかどうかや、過去にそのような環境があったかを調べる。
着陸は、上空に浮遊する母船からワイヤでつり下げ「史上最高の難度」とされる新手法。NASAは、大気圏突入から着陸まで「恐怖の7分間」と呼んでいたが、無事に乗り切った。(共同)
〔記事は以上です。Sourced by 毎日新聞 2012/08/06〕
大量のオリンピック報道に紛れてあまり注目されないかも知れませんが、日本時間の昨日、8月6日(月)14時31分、アメリカの火星探査車〝キュリオシティ〟(好奇心)が8ヶ月半の飛行を終えて火星に無事着陸しました。


Image Credit: NASA/JPL-Caltech
アメリカがこれまでに火星に送り込んだ3台の探査車 ソジャーナ(マーズ・パスファインダー)、スピリット、オポチュニティ は、単純で安価なエアバッグ方式で火星表面に「落とされ」ていましたが、今回のキュリオシティは複雑な手順のスカイクレーン方式で火星表面に軟着陸します。この込み入った方式の概略と、なぜこの方式が採用されたのかについて、以下の資料に説明があります:
Strange but True: Curiosity's Sky Crane (奇妙だけれど本当です: キュリオシティのスカイクレーン)
この資料の主要部分の概要の翻訳です:
〔Sourced by 「宏観亭見聞録」〕
〝マーズ・サイエンス・ラボラトリー〟(火星科学研究所)という名でも知られるキュリオシティは、地球以外の惑星に着陸する探査機としてはこれまでで最大です。キュリオシティが大きいのは、それが解明しようとしている謎が大きいからです。その謎とは ?? 火星はかつて生命を宿していたのか、あるいは現在も生命を宿しているのか ?? です。
火星に安全に着陸するために、キュリオシティを乗せたランダーは惑星間飛行速度である時速1万3000マイル(2万1000km)から時速1.5マイル(2.4km)まで減速しなければなりません。
総重量1トンの観測機器をこのように減速するには、複雑な手順を精確に遂行する必要があります。重要な役割を果たすのは 白熱状態になるヒートシールド(熱遮蔽板)、巨大なパラシュート、76個の爆発ボルト、そして、スカイクレーンです。
ジェット推進研究所で大気圏突入・降下・着陸の副責任者を務めるスティーブ・セル氏は次のように語っています。「火星の大気圏への突入から火星表面への着陸まで、すべては7分間で終わります」、「ランダーに搭載したコンピューターがすべてを指揮します。複雑な手順のうちの一つでも失敗すればゲーム・オーバーです」。
ゲームの計画は次のようなものです。
スカイクレーン 火星探査車キュリオシティに取り付けられている8つのロケットエンジンからなるジェットパック を搭載したカプセルは、火星の大気との摩擦によって時速1万3000マイル(2万1000km)から1000マイル(1600km)まで減速します。この時、カプセル底部のヒートシールド(熱遮蔽板)は、大気との摩擦によって華氏3800度(摂氏2100度)の白熱状態になります。続いて直径60フィート(18m)のパラシュートが開きます。このパラシュートはカプセルと長さ160フィート(49m)のラインで結ばれています。ヒートシールドが投棄されると、カプセル内部のキュリオシティは下に広がる新たな住処を初めて見ることになります。
このパラシュートは、地球外に送られたものとしては最大・最強で、キュリオシティをつり下げた場合に生じる6万5000ポンド(約30トン)の力に耐えることができるスーパーシュートと言うべきものです。
時速200マイル(320km)まで減速すると爆発ボルトによってパラシュートが切り離され、スカイクレーンは1秒間の自由落下をします。続いて逆噴射ロケットが点火します。
逆噴射ロケットは降下速度を時速1.5マイル(2.4km)まで低下させるとともに、横方向の力を加えて、より速い速度で落下してくるパラシュートを回避します。
スカイクレーンが火星の地表から60フィート(18m)まで降下すると、蜘蛛が糸を伸ばすように、3本のナイロン製ロープにつるされたキュリオシティが少しずつ下に向かって下ろされます。スカイクレーンは、キュリオシティを20フィート(6m)下にぶら下げた状態で降下を続けます。キュリオシティが地表に接触すると爆発ボルトによってロープが切断され、キュリオシティは外部との最後の物理的接続を失います。スカイクレーンは飛び去り、火星の赤い砂に突入して、その驚くべき使命を終えます。
びっくりするぐらい複雑にみえるかも知れませんが、「複雑にみえるシステムが実際には火星着陸をシンプルにしているのです」とセル氏は説明します。
バイキング1号、バイキング2号、マーズ・フェニックス・ランダーなどのミッションでは、逆噴射ロケットを使いながら高度を下げ、着陸脚を使って火星表面に降り立ちました。その他のミッションではエアバッグが使われました。キュリオシティにはそれらの方法が使えませんでした。
「キュリオシティのように大きなサイズの場合、(強力な逆噴射ロケットが必要となるため)逆噴射ロケットは大量の埃を舞上げて探査機やその搭載機器を危険にさらします」とセル氏は説明します。「そのようなリスクに加えて、(着陸装置の上に探査車を搭載する方式では)キュリオシティのように大きく重い探査車が着陸装置から傾斜路を通って火星表面に下りる際の危険もあります」。
それらのリスクを、パスファインダー、スピリット、オポチュニティはエアバッグを使うことによって回避しました。しかし、キュリオシティはエアバッグを使うには大きすぎました。
[訳注: 探査車本体の重量は、ソジャーナ(マーズパスファインダー)が10.5kg、スピリットとオポチュニティが174kg、キュリオシティは950kgです。]
「キュリオシティの着地をやわらげるのに十分な大きさのエアバッグは、打ち上げるには重すぎ、また費用もかかりすぎます。それに加えて、エアバッグが着地の負荷に耐えられるように非常にゆっくりと落下させる必要がありますし、キュリオシティが車輪を下にした姿勢でエアバッグが静止する必要もあります」。
セル氏は、キュリオシティにとってスカイクレーン方式は理にかなっていると語っている。しかし、今でも彼は心配で夜も良く眠れないでいる。
スカイクレーン方式は複雑な手順のどれか一つでもうまく作動しないと(Zero Margin of Error)、25億ドル(約2000億円)を投じたプロジェクトが水泡に帰します。すべては、キュリオシティが火星大気圏に突入してから着陸するまでの7分間で決まるということで、関係者はこの時間を〝恐怖の7分間〟(Seven Minutes of Terror)と呼んでいます。
百聞は一見にしかず、以下の

Mars Science Laboratory Curiosity Rover Animation (完全版=11分20秒)

Mars Science Laboratory (Curiosity Rover) Mission Animation (短縮版)

Curiosity's Seven Minutes of Terror (キュリオシティの恐怖の7分間



http://www.jpl.nasa.gov/infographics/infographic.view.php?id=10780
以下は、キュリオシティの着陸手順を1枚にまとめた

Mars Curiosity landing sequence from start to stop
Curiosity EDL timeline
キュリオシティが火星に着陸するとき、火星から地球までの距離は2億4800万kmあり、キュリオシティの発した電波信号が地球に届くまで13.8分かかります。
うまくいってほしいとは思いますが、なんど考えてみても、すべてがうまく行くとは思えません。着陸時にキュリオシティと地球の間の通信を中継することになっている火星周回衛星〝マーズ・オデッセイ〟が、7月11日に原因不明のセーフ・モードに陥るということがありました。現在は正常に復帰しているのですが、不吉な前兆のように感じます。
キュリオシティが搭載している観測機器のうち、私が注目しているのはChemCam(Chemistry and Camera)です。これは、探査車から7mの範囲内にある物体にレーザー光線を照射して蒸発させ、その時に発する光を分光分析して物体の成分を知る装置です。
以下はキュリオシティがその装置を使っている様子の想像図です。もし現場に火星人がいたら、キュリオシティを攻撃的・敵対的な侵略者と見なすかも知れませんね

Curiosity's ChemCam instrument can vaporize rocks (キュリオシティのChemCamは岩石を蒸発させることができる)