鈴木、根岸氏に化学賞=新触媒反応開発
ノーベル賞、日本人計18人目
スウェーデン王立科学アカデミーは6日、2010年のノーベル化学賞を、新たな触媒反応を開発した北海道大の鈴木章名誉教授(80)と米パデュー大の根岸英一教授、米デラウェア大のリチャード・ヘック名誉教授の計3人に授与すると発表した。
日本人のノーベル賞は、08年に益川敏英名古屋大特別教授(70)ら4人が受賞して以来。
米国籍の南部陽一郎米シカゴ大名誉教授(89)を含め、通算18人となった。
授賞式は12月10日にストックホルムで行われ、3人に計1000万スウェーデンクローナ(約1億2000万円)の賞金などが贈られる。
[記事は以上です source by 時事通信]
◇海外で注目、有機合成化学--北大名誉教授・鈴木章氏
「スズキ・カップリングに利用される試薬を発売中」
米国の大手化学メーカー「シグマ・オルドリッチ」(本社・ウィスコンシン州)の製品案内の表紙にこう書かれている。同社は30カ国以上に拠点を持ち、年間売り上げは12億ドル(約1200億円)。その企業が、鈴木章・北海道大名誉教授(74)が発見した化学反応「スズキ・カップリング」に注目している。
この反応により、炭素同士を効率よく思い通りに結合させることができる。炭素でできた有機化合物は抗がん剤などの医薬品、化学繊維や液晶などの材料になる。国際競争に勝ち残るため多くの海外企業が関心を寄せる。
鈴木さんは1930年、自然豊かな胆振管内鵡川町で生まれた。
両親に「勉強しろ」と言われることもなく、伸び伸びと育った。複数の正解がある国語より、論理的に一つの答えが導かれる算数が好きな少年だった。
北大2年のとき、英語で書かれた有機化学の本に魅了され有機化学を専攻した。北大助教授就任後の63年から2年間、ブラウン米パデュー大教授(1979年にノーベル化学賞を受賞、故人)のもとに留学。
30人以上の留学生と切磋琢磨(せっさたくま)しながら、ホウ素を含んだ有機化合物の研究に着手した。
有機ホウ素化合物は、水やアルコールと混ぜてもほとんど変化しない。このため、多くの研究者は新物質の合成には役立たないと考えた。しかし、鈴木さんは壊れにくいからこそ安全に扱うことができると発想を逆転した。帰国後の1979年、パラジウムを触媒として用い、塩基を加えると有機ホウ素化合物から、目的としている有機化合物が効率よく得られることを発見した。
鈴木さんは半世紀に及ぶ研究生活の大部分を札幌で過ごした。それでも、研究の質の高さの指標となる論文が引用された回数は年間3000回を超え、国内外から講演依頼が殺到する。
昨年12月15日、鈴木さんの日本学士院賞受賞を記念した国際シンポジウムが札幌市で開かれた。
出席者から「若手に求めたいものは何か」と問われ、英語でこう答えた。
「私は札幌に長くいたが、外国では日本のように出身大学は関係ない。仕事の内容と質が問われる。変革期に生き残れるかどうかは、光る個性を持っているかどうかだ。他にはない思い切ったことをやるという意気込みが大切だ」
その着眼は学生だけではなく、自立が求められている北海道にもあてはまる。
■人物略歴
◇すずき・あきら
1930年鵡川町生まれ。54年北海道大理学部化学科卒業。工学部合成化学工学科助教授を経て、1973年同教授。1963~65年に米パデュー大(インディアナ州)に留学した。
1987年韓国化学会功労賞、1989年日本化学会賞、2000年H・C・ブラウンレクチャー賞、2004年日本学士院賞。