ドラゴンクエスト | Nentendo

ドラゴンクエスト

国民的少年漫画雑誌が僕たちに与えた影響

さて、ドラクエこと、ドラゴンクエスト。 自分の記憶だけをあてに書くと、当時のジャンプのカラーページに、ある日掲載された鳥山明先生のイラスト。 青い龍に挑みかかる鎧の男は、盾を突き出しつつ剣を構えており、それだけでもう、面白そうでやりたくて仕方なくなるほどのインパクトであった。 

だがしかし、これより以前に起きた出来事のせいで、このゲームをすぐに買おうという気にはならなかったのだった。

 

ジャンプは、紛れもない当時一番人気の漫画雑誌であり、その影響力は絶大だった。 ジャンプが巻頭カラーで紹介しようものなら、友人達はそのゲームの話題でもちきりとなる。 みなこぞってそのゲームを手に入れようとし、そして、手に入れた者は一時、人気者となった。まさに勇者である。

 

事件は、ドラクエよりも1年以上前に遡る。その時のジャンプに掲載されたゲームは、画面に広がる青々とした大海原に、巨大な空母とヘリコプターを映し出し、そのバックには、ドクロの形状をした爆煙があがっていた。 幼い自分に、これは面白そう!という印象を与えるものでは無かったのだが、紹介文には魅力を感じるフレーズがあった。

 

「こちらハドソン、こちらハドソン、応援たのむ」

 

たしかこんな感じだったと思うが、どうやらこのゲームは、海上をヘリで探索して敵機を撃墜し、ピンチになったらマイクに呼びかけることで、救援が呼べるらしい。 どうも自分は昔から、ボタン以外の入力デバイスに惹かれる傾向があるようで、マイクを使って助けが呼べるなんて、なんて本物っぽいのだと感動した。

 

とはいえ、このゲームを買うには至らなかった。未成年がほいほいと買えるほど、ファミコンソフトは安価なものでは無かったし、なにより、ソフトを仕入れるチャンスは年に2回。誕生日とクリスマスであり、その最低保障回数の年2回はとても貴重なものだった。

そのわずかなチャンスにおいて、ポッと出の軍事シューティングゲームが、簡単に予算を持っていけるほど、自分の購入希望ハードルは低くなかったため、これは冷静にスルーと決まった。

 

だが、その数日後に友人Aから誘いがあった。新しいゲームを買ったと。「バンゲリングベイ」を買ったと。うちに来てみんなでやろうと。果たして、友人宅に集った仲間達は、延々と広大な海を飛ぶヘリコプターを見つめ、代わる代わる、マイクを受け取って救助を求め、浮上する空母を数回見て、それぞれおのおのの自宅に帰ったのだった。

 

(買わなくてよかった)

 

ほっとした反面、友人Aに同情しつつ、いつまたジャンプに騙されるか分からないと、みな戦々恐々としたものだ。

 

鳥山明キャラデザインの衝撃

そんな記憶も薄れたころ、インパクトたっぷりで登場したドラゴンクエストが、皆の物欲を激しくゆさぶった。 しかし、ジャンプの巻頭カラーで紹介されたゲームは、その魅力が圧倒的にブーストされてしまうことを、自分は忘れていなかった。

 

どんなゲームか気になりながらも、いきなり買うのは強すぎる。そんな時に、友人Bの兄がドラクエを買ったと聞きつけ、そこへお邪魔してプレイの様子を見せてもらい、自らの購入判断の基準としようとした。 しかし、感想だけで言うと、後ろから見ていてもさっぱりだった。

 

ピロピロと表示されるメッセージを、じっくり読めるほどゆっくりプレイしてくれるわけでもなく、画面は背景をバックにモンスターがめまぐるしく点滅し、せかせかと流れるテキストが何かを描写しているようだが、後ろから見てても詳細が理解できなかった。 ただ、勝った時の音、会心の一撃、レベルアップ音など、どういう場面なのかはなんとなく伝わり、面白そうかどうかは不明なまま、やってみたいとだけは思った。

 

そして、友人Bの兄は、洞窟でドラゴンを倒し、ローラ姫を抱えあげると、城下町の宿屋で一泊し、その場面だけはテキストを読ませてくれた。なんのこっちゃ分からない自分と友人に対して、赤くなったBの兄は、今日はもう帰るよう軽くキレ気味に促し、自分は帰宅した。

 

やりたいけど、誕生日プレゼントを前借りしたいかと言われるとそこまでではない。 何より、やったところで面白いのかどうかやっぱり分からない。ただ、鳥山明先生の描いたモンスターがいっぱい見れるのはいいなと思った。

とはいえ、そこまでの強い物欲を自分の中には感じないまま、友人Bもドラクエの話をしなくなった。

 

人のじゅもんで我が旅終わる

それからしばらくして、家族で毎週末のように買い物に出かけていた自分は、久しぶりに訪れたホームセンター的な店で、あれが売ってる事に気づく。 

その日の父は、競馬に勝って機嫌がよく、子どもたちに何か買ってくれると言い出した。
兄は、欲しがっていた腕時計を買ってもらっていた。そんな高いものを買ってもらっているのだから、自分もファミコンソフトが買ってもらえるかもと思って提案したところ、承認がおりた。

 

当時のファミコンソフトは4500円が任天堂の標準で(その前は3800円だった)、サードパーティでも準ずるものが多いなか、5500円はとてもお高かった。 だが、自分はついにドラクエを手に入れ、ふっかつの呪文を書きとめ、レベル上げをして、ドラゴンを倒してローラ姫を抱き、何が面白いか理解できなかったことを思い出して、そこで終了した。

 

それから1ヶ月後くらいに、遠くに引っ越して行った友人Y君の、近所の年上の友人からもらったふっかつの呪文でふっかつしたレベル30の勇者で竜王を退け、自分の最初のドラクエが終了した。