[コピー]龍飛崎の朝… | 学校なんていらない~不登校小学生ちゃりこの父娘自転車旅行記

学校なんていらない~不登校小学生ちゃりこの父娘自転車旅行記

いじめにあって不登校になり、父とホームスクーリングですごした女の子、ちゃりこが日本各地を自転車で旅をして、たくさんの人たちとふれあい、成長していった記録。腐りきった学校、卑怯な教師、そんなものは捨て去ってもいい。人の優しさ、親切、は学校の外側に必ずある。

2009年8月4日
広いベッドの中に、おとうさんの体分の隙間があった。寝起きでおとうさんの姿が近くにないと不安でしょうがなかったのが、ついこのあいだまでだったような気がするけれど、気分のよい目覚めだった。
梯子を下りて、バンガローの窓を開ける。
朝の、できたての空気が吹き込んでくる。
波の音が耳に届く。
右手の海のほうへ目をやると、やっぱりそこにおとうさんがいた。
「お~い」と手を振ってみた。
「お~い」と手を振り返してきた。

私もバンガローを出て、下りていく。
夕べ、さんざん、ワラジムシを見つけて笑いあったテントサイト、更に下りていくと、岩に縁取られた波打ち際。
「疲れていそうだったから、起こさなかったんだ」とおとうさん。「うん」とだけ私。

きれいな海だ。
少し、波が荒いかもしれない。
右手は急斜面、そして崖。
バンガローを見上げても、相当、下ってきたのがわかる。
夏の陽は早くも高いところに上がっているが、海風で少し寒いくらいだ。
でも、空は、ペンキを塗ったような青、雲も浮かんでいない。

「おはよう」と、なっちゃんとすーちゃんがやってきた。
「おはよう」と答えて、私達はまた、テントサイトに戻って大縄で遊ぶことにした。

バンガローで朝食をとったあとも、子供三人で遊んだり、みんなで写真を撮ったりした。

九時に私達が出発するとき、なっちゃんもすーちゃんも、淋しそうにしていた。
何度もここに来たことのある、なっちゃんのおとうさんが、私達の今日の道のりを「はじめがキツいですよ」と言っていた。なっちゃんも、つぶやくように「ちゃりこちゃん、あの坂、上るんだあ」と心配そうに言った。

バンガローの前で手を振って別れた。
キャンプ場から出ていく方向を間違えないように、何度もなっちゃんのおとうさんが、私のおとうさんに教えていた。
管理棟の横をすぎるときには、モッくんのぬいぐるみをくれたおばさんも手を振ってくれた。
「がんばってね~」
おばさんの声も、なっちゃんの声もすーちゃんの声も、後ろから何度も聴こえた。
このキャンプ場でのことは、たぶん、ずっと、忘れないだろう。

はじめから上り坂だ。別れ道を海沿いへ右へ行く。更に上っていく… キツい坂だ、と思っていたら…
後ろからエンジン音。
「やっぱりぃ~ そっち、行き止まりだよぉ~」と車の窓からの声。なっちゃんのおとうさん。
「え~っ!」と私。
「また、やっちゃった」とおとうさん。
後部座席のなっちゃん、すーちゃん、おかあさんもみんなで笑っている。
「また、ドジっちゃった」とおとうさん。
少し下って、さっきの別れ道を左へ。
「もう、間違えないはずだよ」となっちゃんのおとうさん。
「バイバ~イ」となっちゃん、すーちゃん。「バイバ~イ」と私とおとうさん。
今度こそさようならだ。
こっちの道もやっぱり上り坂だった。
しばらく走ってから後ろを見ても、なっちゃんたちは、まだ、車から手を振ってくれていた。