ノーム・チョムスキー | 物書き者のブログ

物書き者のブログ

日本留学時の思い出を綴ります。


物書き者のブログ


チョムスキーの提唱する生成文法とは全ての人間の言語に普遍的な特性があるという仮説をもとにした言語学の一派である。その普遍的特性は人間が持って生まれた、すなわち生得的な、そして生物学的な特徴であるとする言語生得説を唱え、言語を人間の生物学的な器官と捉えた。初期の理論である変形生成文法に用いた演繹的な方法論により、チョムスキー以前の言語学に比べて飛躍的に言語研究の質と精密さを高めた。チョムスキー以前の言語学ではフェルディナン・ド・ソシュールの学説やレナード・ブルームフィールドのアメリカ構造主義を基盤とする言語形式を観察・記述する構造主義的アプローチ(構造主義言語学、または構造言語学という。)、が支配的であったが、これに対し生成文法は言語を作り出す人間の能力(あるいはそのメカニズム)に着目した点が画期的であった。より具体的に言えば、適切な言語形式を産出する能力(linguistic competence: 言語能力)と、実際に産出された言語形式(linguistic performance: 言語運用)とを厳密に区別し、前者を研究の焦点としている。

チョムスキー自身はソシュールの熱烈なファンであり、熱心な読者でもある。

彼以降、言語学は認知科学や情報処理と強い親近性を獲得した。また、統語論の自律性を主張したことで、かえって意味論や語用論などの隣接分野も浮き彫りにする形となった。この生成文法はチョムスキーがハーバード大学でジュニア・フェローとして過ごした時期の考察に端を発する。

一方で、生成文法の徹底した演繹的な手法や言語の自律性を強調する点に関して、いくつかの立場から批判がなされている。たとえば、認知言語学は言語を人間の認知体系から自律させて考えることに批判的な立場であり、人間の脳内に自律的に言語を司るモジュールが存在するとする生成文法の仮説を批判している。

現代の言語学を語る上でチョムスキーの言語理論を避けて通ることはできず、その影響は自然言語研究だけでなくコンピュータ言語や哲学、数学などの分野にも及んだ。

言語学においてはチョムスキーはいまでも中心的話題のひとつであるが、影響をあたえた周辺学問からは疑問が呈されつつある。たとえば機械翻訳へチョムスキーモデルを応用から、メタ言語の普遍モデルの存在は実験的に懐疑視されている。チョムスキー理論による機械翻訳では収束モデルをつくることができなかったためである。

社会哲学的にはヴィルヘルム・フォン・フンボルトやジョン・デューイから、思想的にはスペイン内戦時のカタルーニャ地方バルセロナにおける極度に民主的な労働者自治によるアナキスト革命から強い影響を受け、権威主義的な国家を批判する自由至上社会主義(アナキズム)に関わり、アメリカに台頭するネオコン勢力によるアフガン侵攻・イラク侵攻やアメリカ主導のグローバル資本主義を批判している。特に2001年のアメリカ同時多発テロ事件以降はその傾向を強めており、政治関係の著作も多数ある。2006年にベネズエラのウーゴ・チャベス大統領が国連総会でブッシュ大統領を「悪魔」と批判する有名な演説をおこなった際には、チョムスキーの『覇権か、生存か――アメリカの世界戦略と人類の未来』を自ら示して「アメリカ国民はぜひこの本を読むべきだ」と語り、翌日のアマゾンベストセラーランキングで1位になるなど、ベストセラーになった。

ポル・ポトを擁護していた過去がありそのことを隠蔽しているとよく説明されるが、これは正しくない。この件についてチョムスキー自身は、「私は国連においてアメリカが支援していたティモールでの虐殺について証言を行なったことがあり、そのとき、それとポル・ポトの虐殺とが類似しうることをたまたま述べた。実際それは類似していたのだ」と説明している。自国が行なう「大義 (just cause)」の名の下での虐殺をチョムスキーは常々非難しているように、この国連での証言は「自国が行なっているからポル・ポトの行為も容認されるべき」と述べたのではなく、互いの虐殺的行為を非難する趣旨で行なわれたものである。

チョムスキーはフィラデルフィアのユダヤ系家庭の出身だが、イスラエルによるパレスチナ入植政策および、パレスチナ人への弾圧や人権侵害を批判し続けている。