(前バナは こちら)
赤いバーの奥の席がボクの定位置
今日はいつもより少し遅くなった…寄り道したからな
でもマスターはいつも通り、何も言わず黙って
薄い水割りを出してくれた
鼻血で真っ赤になったマスクは入る前に取り換えた…
このバーは照明も時計もシャンデリアもみんな赤い…
だけど、さすがに血で真っ赤になったマスクは
珍しく若い女性が一人やって来た…
水を一杯飲んで…ため息をついている
この人にも色んなことがあるんだろうな~と思っていると
ふと…目が…
ら…いきなり…
もしかして、盗んだとか…思われてる…? 赤いから…?
では…ないらしい…
「私、見てたんです」
どうやらボクが止めに入ったさっきの言い争いの顛末を
この人にも色んなことが起こっているんだな…
色んな…理不尽なことが…
不思議な出会いだった
折村花子さん…
赤が好きで、いつもカメラを持ち歩いている新人映画監督
この店の赤いネオンサインと看板に釣られてふらりと入って来た
今、自分の家族をモデルにした映画を撮ろうとしているらしい
えっ?折村花子さん?
ボクの唯一の心許せる友、役者を目指している
折村花子監督の映画でやっと役を掴んだ!と言っていた…
今、その折村花子さんが目の前にいる…
本当にステキだった
映画のセリフだったらつまんないんですけど…
ステキです…
それはあなたです…
人とこんなに話したのは…多分初めてじゃないかな~楽しくて…
落合のことやら、このマスクで70万貯金したことやら
昔見ていた夢、俳優になろうと思ってたことまで…色々…
そして…
生まれて初めて…
ボクは思った…
この人と一緒に夢を見たい
(つづく)