ボクは文字を書くことに一生懸命だったし、礼儀を学ぶのに必死だった。
少しづつだったけど、しつじさん(執事さんと書くらしい)から注意を受けることはあまりなかった。
「頑張ってるな、何か欲しいものはないか?」
『しょうさまの本棚にはたくさんの本かあります。
全部読むまでは欲しい本もないですし、お洋服もたくさんあります』
「本,かあ。
今何が流行りなのかは知らないが、俺の読んでいた帝王論とか経済学の本とかよりも言葉を覚えるためには物語の方がいいかもしれないな。
人と話すようになれば、必然的に口語の文章が必要なる。
考えておくな」
しょうさま以外の人と話す。
考えただけでも不思議な行為だ。
でも、しょうさまのピアノに対して話をしていることを聞くだけでなく、どう思ったのかを聞くのも必要なのかもしれない。
それがしょうさまのお役に立てるなら、ボクは知らない人とも話さなきゃ。
……でも、どうやって?
あ、そうか、書けばいいんだ。その人の使っている言葉を真似て書けばボクにもお話ができるはずだ。
それが『口語』?そういうこと?
やっぱり、しょうさまはすごいなぁ。
「そうだ、潤」
『なんでしょうか?』
「明日はお前の誕生日だ。
俺の部屋で悪いが、お前が喜びそうなことを考えたよ。
明日のお楽しみだな」
誕生日!しょうさまと出会った記念すべき日!
ボクも何か考えなくっちゃ!
しょうさまにありがとうを伝えなくちゃ!
ボクはしょうさまが寝てから植物のたくさん生えている温室に走った。