しょおさんの大きな目が、溢れ落ちそうなるくらい見開かれて、言葉を発しないでボクをじっと見ている。
でも、ボクはもうここまで来たら全てを話すまで口は閉じない決心をしたんだ。
「自分で作るものは捏ねるなんて言葉じゃ表現できない程にへんてこなものばかりで、時には自分が何を作っているのかさえもわからなくなってしまうくらいだった。
それでもツヨシさんはなにも言わないからなかなか形なるものが出来なくて、1年、もっとかな。ただただ土を練っていた。
そうしているうちに自分でもアッと思うようなものが出来てくるようになってなって、顔を上げ、ツヨシさんを見ると穏やかな顔で口唇に笑みをのせていたんです。
そこでわかったのは、ボクに必要だったのは無になる時間。後悔も、憧れも、愛しさも、全て捨てて、ただなにも考えない時間が必要だったのだと、それが土と向き合うことだった。
たまたま、ツヨシさんが陶芸家だったからボクは土を練ることで無になる方法を得た。
土を捏ねているということの意味がわかった。
そして何がボクに必要だったのかもわかったんです。
そこからは楽しくて、苦しくて、苦々しくて、わけのわからない衝動がボクをつきおこしてた。
そして、練ったものに色をのせてた時、衝動的に描いていたのはサクラの花びらとその横に硬く結んだままの蕾。
しょおさんが持っているその器の釉薬が厚く重なり見えなくなっている、その下にそれはあります」ずっとじっと
「これ?」
「はい。
おかしいですよね、内側に釉薬が溜まることなんてわかりきったことなのに、見えなくなることがわかっているのに、つい、描いてしまった図柄。
その後からは咲いてるものと蕾のものを一対で造るようになりました。その、対の湯呑みのうしろにありますよ、サクラが」